第7話 狼の子供達…
急激に森の中が寒くなる。
冷気が勇都の全身に伝わる。
「寒っ!」
大典は、寒さの為体を震わせていた。
フェンリルの口を開け、勇都に向かって何かを吐き出した。
勇都は、横に素早く躱す。
地面につららの様な氷の塊が突き刺さっていた。
フェンリルは、再び口を開けて氷の塊を吐き出そうとしていた。
勇都は、フェンリルに向かって走り出していた。
フェンリルは、氷の塊を勇都目掛けて吐き出す。
速いスピードで塊が襲い掛かる。
が、勇都は身を低くして避ける。
フェンリルが飛び出してきた。
フェンリルは、尻尾を振り勇都にぶつけてきた。
勇都は、尻尾を見切り体を少し動かして避けていた。
「す、すげえ。フェンリルの攻撃を全て躱している。」
大典は、勇都の無駄のない動きに驚いていた。
勇都は、後ろに飛び退いて距離を取る。
フェンリルは、空に向かって叫ぶ。
ウウウウウウウウウウウウウ
フェンリルは、体を低くして地面に伏せていた。
フェンリルは、口から大きな氷の塊を吐き出した。
それは、風船の様に浮いていた。
フェンリルは、それを尻尾で叩きつけた。
氷の欠片が森の中に飛び散る。
「う、うおっ。」
大典は、足元に氷の鋭い欠片が突き刺さりそうになっていた。
勇都は、自分に飛んできた欠片を避けていた。
欠片が地面に鋭く突き刺さる。
「うわ~。厄介だな。あれくらったらダメージ大きいな。」
勇都は、氷の塊を見て苦笑いしていた。
(勇都。そろそろ遊んでいないで終わらせろ。)
魔剣グランベリーに変身したサマエルが勇都に話しかけてきた。
「はい。そろそろ決着付けます。」
勇都は、グランベリーの柄を両手で握ってフェンリルに突き出していた。
フェンリルは、今度は、今まで以上に大きな氷の塊を吐き出した。
尻尾をしならせて塊を思いっきり叩いた。
今まで以上の大きな氷の欠片が無数に散らばる。
「うわああっ。」
大典は、木の後ろに隠れた。
氷の欠片が勇都に襲い掛かる。
勇都は、その場に動かずにいた。
氷の欠片が勇都に迫る。
勇都の体に欠片が突き刺さろうとしていた。
「…縮地…」
勇都の体が一瞬消えた。
数本の鋭く大きな氷の欠片が勇都の居た場所の地面に突き刺さる。
フェンリルは、着地していた。
突然、フェンリルの目の前に勇都が現れる。
勇都は、瞬時にフェンリルの間合いを詰めて接近していた。
「はっ!」
勇都は、フェンリルの鼻をグランベリーの柄頭で思いっきり叩いた。
ギャン
フェンリルは、体をよろめかせて仰け反る。
「とうっ!」
勇都は、ドロップキックをフェンリルに当てる。
キックは、フェンリルの体を軽く飛ばしていた。
「す、すげえ。あいつ、フェンリルを追い詰めている。」
木の陰から大典は、勇都を見ていた。
「ポイズンウィップ!!」
勇都の持つグランベリーから紫色の炎が立ち上る。
それは、鞭の様に動きフェンリルの前の両足に当たる。
フェンリルの足が紫色に染まる。
フェンリルは、体を崩し動きが止まった。
(よし、勇都よ。倒せ。)
「はい。師匠!」
勇都のグランベリーが、動けなくなったフェンリルに振るわれようとしていた。
「…?!」
勇都は、グランベリーでフェンリルを斬りつけようとしたが動きを止める。
動けなくなり蹲っていたフェンリルの前にある物が立ち塞がっていた。
それは、フェンリルと同じ白い狼の子供達が3匹いた。
子犬の様な小ささだった。
「こ、子供?!」
勇都は、目の前の出来事に驚いていた。
狼の子供達は、フェンリルを庇うように勇都を見て唸っていた。
母親を庇う様に必死に体を震わせながら守っていた。
「フェンリルのガキ共か?は、速く倒せよ。一緒に!」
大典は、勇都達の様子をじっと見ていた。
ピッ
「え?!」
大典の背中の袋の上が斬り裂かれる。
袋の中から、何かが顔を出していた。
ガゥ
それは、フェンリルの白い子供だった。
勇都の前にいる狼の子供達よりもより小さかった。
「やはり、獣売りか…」
「え、あ、誰…」
大典の前に黒装束の者達が数人いた。
その先頭に居たのは、マニーだった。
「獣の毛皮を売り、殺し生業としている者め。この森でそんな所業は許さんぞ…」
マニーの声に怒気が籠っていた。
「え、あ、い、いや。こ、これは…」
大典の袋からフェンリルの子供が飛び出して行った。
勇都達の下へたどたどしく歩いて行った。
「お、おい。ま、待て、い、行くな。お、お前は高値で売るんだから…」
大典は、逃げたフェンリルの子供を追いかけようとする。
大典は、突然顔を殴られた。
「ぐへっ!」
大典の歯が折れ、地面に叩きつけられていた。
マニーが大典を殴っていた。
「外道めが…連れて行け!!!」
黒装束の者達は、倒れた大典を運ぼうとしていた。
立ち止まる勇都の前に、再び大典の所から逃げたフェンリルの子供がやってくる。
ガウゥ
青い円らな瞳で勇都を睨みつける。
「大丈夫、大丈夫。戦わないから。」
勇都は、グランベリーを鞘にしまい両手を挙げていた…




