第12話 勇都とサマエル…
勇都は、驚く。
祭壇に寝ていた女性の声を確かに聴いた。
女性は目を閉じたままだった。
しかし、緑色の髪は更に輝きを増している様に勇都には見えた。
《そこの男よ…聞こえているのか…》
「わっ?!」
勇都は思わず声を挙げてしまう。
自分に語りかけているのは、眠っている女性に間違えないと確信した。
「あ、き、聞こえています。」
すると女性の髪の緑色の光が一瞬消えた。
《うむ。そうか…そこの冒険者よ…願いがあるのだが…》
「はい。」
勇都は、女性に近づこうとするが立ち止まる。
祭壇に寝ている女性は何者かわからない。
白い服を着て両手両足が壁に鎖で固定されている。
どう見ても一般の市民ではない。
もし、自分を騙して攻撃されたのなら命を落とすかもしれない。
勇都は、近づくのを躊躇ったのだった。
(この女性は、一体何者なんだ?)
すると再び勇都の脳裏に声が響いていく。
《安心せよ。冒険者よ…おぬしに危害を加えるつもりはない…》
女性の声は、勇都に優しく語り掛けてきた。
「い、一体何をすればいいんですか…」
勇都は恐る恐る女性に尋ねる。
《簡単な事…我は、ずっとここに閉じ込められてきた…お主の力で鎖を断ち切って欲しいのだ…》
勇都は、女性を拘束している鎖を見る。
錆びていてだいぶ脆くなっているようだった。
勇都は、地上に向かいたいが出る手段がわからなかった。
それに正直いつ死んでもおかしくない危険も抱えていた。
このまま何もしないよりは何か足掻いてみたい。
呼び掛けてきた女性を警戒したが、どうやら自分を騙しているようでもない。
勇都は決意した。
「鎖断ち切ってみますよ。」
勇都は、鎖をダガーの柄で叩き始めた。
少し硬さはあったが、力を加えて行けば切れそうな感触があった。
勇都は、鎖を叩き始める。
パキッ
右手の鎖が外れた。
《残りも…頼む…悪い様にしないから…》
「はい!」
勇都は、残りの鎖も叩き始めた。
左手、左足と鎖を断ち切った。
が、最後の右足の鎖は硬かった。
何回叩いても切れない鎖。
(こ、これだけ硬い!)
勇都の手が痛みだしてきた。
《頑張ってくれ…冒険者よ…我もこの場所にいるのが嫌じゃ…外の世界に行きたい…》
勇都は、女性の声を聞いて思った。
自分と同じで外の世界を目指している。
自分は生きる為だが、女性の目的はわからない。
女性は悪人でないような気が勇都にはしていた。
(理由はわからない。けど、助けてあげないとな…)
勇都は、ダガーの鞘を鎖の輪の中に入れ押し上げたりする。
柄の部分で鎖を叩く。
《そうじゃ…その力強さじゃ…もっと…もっと叩くのじゃ…鎖を憎い奴の顔に重い浮かべて!》
女性の声が聞こえてきた。
次第に力強さが出てきた感じがしていた。
勇都は、特に憎い者を思い浮かぶことがなかった。
代わりに先程、戦い自分に死の恐怖を与えたゴブリンを思い浮かべることにしてみた。
(ゴブリン…ゴブリン…ゴブリンめェ!!)
勇都は、力を込めて鎖をぶっ叩いた。
バキッ
最後の鎖を勇都は断ち切った。
「や、やったっ!!」
その瞬間だった。
女性の体が白く輝いた。
そして光は直ぐに消えた。
女性は、静かに目を開く。
そして、ゆっくりと起き上がり勇都を見る。
女性は、勇都を見てニコリと笑う。
勇都は、女性の笑顔と美しさに胸がドキドキしていた。
そして、女性は口を開く。
「ありがとう…冒険者よ…わしの名前は、サマエルじゃ…」
「サマエル…」
勇都とサマエル。
2人はここで出会った。
地の底のダンジョンで…
この出会いが勇都の運命を大きく変えていくのであった…
その事を、この時の勇都はまだ知る由もない…