8話 覆面のエルフ、アルナ
キースが四体のオーク達へデバフをかける。
『俊敏10%ダウン、膂力10%ダウン』
そして双子へバフの支援をする。
『俊敏10%アップ、膂力10%アップ』
四体のオークは紫色の粒子に覆われる。
「ブゥォオー」
双子を光の粒子が覆う。
「きたよ。きたよ。支援魔法。力がわいてきた」
「やっぱり、キースの支援魔法は最高。気持ちいい」
スーラとウーラの双子は嬉々として四体のオークへ急接近していく。
そして双剣のシミッター四本でオークに斬りかかる。
オークは大上段に棍棒を構えて振り下ろすが、スーラのシミッターが横薙ぎに一閃するほうが早い。
ウーラも逆袈裟にオークを一閃して、二体のオークを倒す。
残りオーク二体。
スーラは袈裟切りにオークを切裂く。ウーラはに大上段から唐竹割りにオークを両断する。
あっという間にオークとの戦いは終わってしまった。
「す……すごい。すごいよ二人とも」
「キースの支援魔法のおかげだよ。そうでなければ、もう少し手こずってる」
「確かにキースの支援魔法はすごいです。力が湧いてきて、気持ちいいんです」
そう言って、スーラとウーラの双子はオークの魔石を胸から取り出して、討伐部位を斬って、リュックの中へと収めていく。
こんなに支援魔法を喜んでもらったのは、十三歳の時に『シュトラウス』に入団した時以来だ。
キースは嬉しくなって目頭が熱くなるのを感じる。
双子とキースは次の魔獣を探して森の奥へと入っていく。
すると森の奥から剣の音が聞こえる。
森の茂みから奥を覗くと一人マントを羽織った覆面の者が、三体のオーガと戦っている。
三体のオーガを相手に一人で戦うなんて、Bランク冒険者なのだろうか。
「ガァゥガァア」
『風の精霊よ。我を守れ』
三体のオーガは風の魔法障壁によって、覆面の者に近寄ることができない。
しかしマントの者も、このままではオーガに攻撃が通用していない。
このままでは魔力を消費して、最後には覆面の者がオーガに負けるだろう。
「キース、助けに行くわよ」
「支援を頼みます。相手はオーガ三体です。私達も危ない」
「わかった。助けに行こう」
キース達三人は慌てて、覆面の者の所まで走っていく。
そしてキースが双子と覆面の者にバフをかける。
『俊敏10%アップ、膂力10%アップ』
覆面の者と双子に光の粒子が覆う。
「これは支援魔法……」
覆面の者が小さく呟く。
そしてキースはオーガ三体にデバフをかける。
『俊敏10%ダウン、膂力10%ダウン、強靭10%ダウン』
オーガ三体が紫色の粒子に包まれる。
双子はオーガ二体と対峙する。双剣のシミッターがオーガの筋肉を引き裂く。
その間に、オーガ一体がキースに迫ってくる。
Cランク魔獣オーガ。
はたしてキースの身体能力がオーガに通用するだろうか。
キースは剣を握りしめて、オーガの動きを観察する。
「ガァゥアアー」
オーガが大上段から天然の剣を振り下ろす。キースは一歩後退して、剣でオーガの剣を受け流す。しかし一撃の重さはオークの比ではない。衝撃でキースの足元が崩れる。
「助太刀するわ。『風の精霊よ。私達を守って』」
追撃しようとしていたオーガの天然の剣を、風の魔法障壁が弾き飛ばす。
「私の魔法攻撃もバフしてちょうだい」
素早く覆面の者がキースに指示を出す。キースは覆面の者に言われる通り『魔法攻撃10%アップ』のバフを覆面の者にかける。
『風の精霊よ。刃となって敵を裂け』
キースと対峙していたオーガが風の刃によって斬り刻まれる。
その隙にキースは全身の力を集中して、オーガの胸めがけて剣で貫く。
するとオーガの動きが段々と鈍くなり、やがて動かなくなって、キースの前に倒れた。
「ヤッタじゃない。キースが自分の力でオーガを倒したんだよ。凄いよ」
二体のオーガを倒したスーラとウーラの双子がキースの元へと走ってくる。
キースを助けた覆面の者も、覆面を外してキースに礼をする。
「君達に助けられたようだね。私はエルフのアルナ。精霊使いのアルナよ。よろしく」
そう言って覆面を外したエルフのアルナは、キースに右手を差し出した。
キースはアルナの手を取って握手する。
「私は世界樹の森を守る、エルフの里からやってきた。エルフの閉鎖的な暮しを捨て、大きな世界を見たいと思って、魔巣窟の森を通ってここまでやってきた。人族の街へ行きたい。案内を頼めないだろうか?」
「俺の名前はキース。デリントンの街まではもうすぐだよ。案内して行くよ」
「オーガ達を倒してくれて、本当に助かった。それに案内までしてもらって助かる」
アルナとキースが二人で話していると、スーラとウーラの双子が頬を膨らませている。
「「私達もオーガと戦ったんだから、話に混ぜてよ!」」
いきなり双子がキースとアルナの間に入って、二人を離す。
「ごめん。ごめん。二人を無視していたわけじゃないんだ。アルナをデリントンの街へ案内する約束をしていたんだよ」
「私はスーラ。ワーウルフの獣人。双子の姉。よろしくね」
「私はウーラ。ワーウルフの獣人。双子の妹。よろしくです」
「私は世界樹の里のエルフ、アルナ。二人ともよろしく頼むわ」
アルナとスーラとウーラは仲良く握手をして、抱きしめ合って微笑んだ。