6話 三人での生活
獣人の双子はお金を一銭も持っていなかった。
キースも少しは金銭を持っているが、双子に貸してあげるほどの金銭を持っていない。
そこで宿の主人に交渉して、一部屋を三人で借りることになった。
問題はベッドだ。ベッドは1つしかない。仕方なくキースは床に毛布を敷いて寝ることにした。
窓から朝の日差しが入ってくる。その眩しさに意識が戻ってくる。
しかし、まぶたは重く、まだ開こうとしない。
キースの体を何か柔らかくて暖かいモノが挟んでいる。寝がえりもうてない。
そっと手を動かすと、柔らかい何かに当たる。
そして、とても良い香りがする。とても安心する、落ち着く香り。
キースは異変に気づいて目を開ける。
するとキースはベッドの上に寝かされ、スーラとウーラの二人に挟まれていた。
「ウォォオオーー」
「もう、キース、うるさい!」
「キース、静かにしましょう!」
そう言ってスーラとウーラがキースの体に抱き着いてくる。
スーラとウーラの体は柔らかく、温かい。
このままでは気持ちよくて、また寝てしまいそうになる。
そんな場合じゃないと頭の隅でキースは考える。
「ダメだよ。三人でベッドで寝るなんて。なんで俺がベッドで寝ているんだ?」
「だって床で一人で寝るなんて、キースだけ寂しいじゃん。三人で寝たほうが楽しいでしょ」
「そうです。一人だけ無理してはダメですよ。この部屋はキースの部屋なんですから」
そう言ってスーラとウーラがキースの体に、また抱き着いてくる。
キースは必死で二人の間から抜け出し、ベッドの外へ逃げる。
するとスーラとウーラも目を擦りながら起きてきた。
二人ともラフなシャツ姿が眩しい。
「そんな姿を男性に見せちゃダメだよ。早く着替えて」
「キースもシャツ姿じゃん。同じでしょ」
「そうです。キースも同じです」
そう言いながら三人で着替えをして、革鎧をつけて剣を装備する。
そして腰に革ポーチを付けて、背中にリュックを背負う。
「宿屋の主人が親切で助かっちゃったね。三人なのに一部屋金貨一枚にしてくれたんだから。」
「そうね。ご主人にはきちんと挨拶してから出ましょう」
スーラとウーラの二人はマイペースだ。
勝気で明るいスーラ。
落ち着きのあるウーラ。
性格は違うが、どこか感性の似ている双子。
「今日は森に近い街道の広場で、キースと組手をしてから森へ入るわよ」
「そうね。キースには一人でも身を守れるぐらい、剣術を見につけてもらわないと」
その言葉を聞いて、キースは天井を見上げる。
これからは双子がキースに剣術の基礎訓練を教えてから森の中へ冒険に行くことになった。
宿屋の主人に行ってきますと挨拶をして、三人で宿を出て冒険者ギルドへ寄る。
カウンタ―にはロミンダが微笑んでいる。
しかし、微妙に目が笑っていない。
「おはようございます。宿屋で部屋は取れましたか?」
「ううん、宿の主人の手配で、一部屋で三人で暮らすことになったのよ。金貨一枚で安いでしょ」
「ではキースは一部屋でスーラとウーラと一緒に暮らしているわけですか?」
「そうですね。部屋は狭いですが、何とかなるものです」
ロミンダの目が少し吊り上がる。
「キースさん、いつから、そんなふしだらな男性になったんですか? そんなこと許せません」
「はい……お金の都合がつき次第、部屋を2つ借りるつもりです」
「それでは今日から今までの倍のEランク魔獣を討伐してくださいね」
ロミンダの口調は優しいが、目が笑っていない。
本気で怒っている目だ。
「わかりました、頑張ります。三人いますし、支援魔法も使えるので倍のEランク魔獣を討伐できると思います」
「お金が入ってきたって、一部屋でいいじゃない。私達は構わないわよ」
「私も今のままで構いません。余ったお金は貯金に回しましょう」
「あなた達が構わなくても、私が気になるんです」
とうとうロミンダが本音を吐いた。
そして顔を真っ赤にしている。
「ロミンダ、さては私達に焼いてるのね。私達が仲良しだから」
「そうだったんですか。ロミンダも仲間に入りますか? 四人だと部屋が狭くなりますが」
「そんなこと私は言っていません。男女が同じ部屋で暮らすのはダメと言っているんです」
スーラとウーラの二人は面白そうにロミンダをからかっている。
その姿を見て、キースはため息をついた。
早く冒険者ギルドから退散しよう。
顔を赤くしているロミンダを置いて、冒険者ギルドを出てデリントンの壁門まで歩く。
いつもの警備兵がニッコリと笑って立っている。
「今日は朝が早いな。この間の別嬪さん二人も一緒か。三人で冒険か?」
「はい……そうです」
「別嬪さん二人は、お前が守らないとな。それが男の器だぞ」
警備兵はニッコリと笑って敬礼する。
「はい……行ってきます」
これから双子に朝から剣術の特訓を受けるなんて言えない。
早く剣術を上達しようとキースは心に誓った。
「「早く行くわよ、キース!」」
双子はにこやかに笑って、キースの腕を引っ張って走り出した。