3話 ロミンダとの食事
冒険者ギルドへ戻ると受付カウンターにロミンダが立って手を振っている。
キースはリュックを手に持って受付カウンターへ行く。
「今日は安全に討伐してきたようですね」
「はい……自分の実力はわかっているつもりですから」
「それでいいのです。過度な冒険は命取りになりますから、気をつけてくださいね」
確かに過度の冒険は命がけになる。しかし、だからといってEランク魔獣の群れ相手に逃げている自分のことをキースは恥ずかしいと感じた。
Eランク魔獣ぐらいは群れであっても倒せるようになりたい。
今まで大派閥ギルドで守ってもらってきたツケが回ってきたということだろう。
「それでは隣の解体所の交換所で、魔石と討伐部位を出してください。これで討伐依頼完了です」
「Eランク魔獣討伐は毎日あるんですか?」
「はい。大丈夫ですよ。デリントンはエルファーレ王国の西の辺境地帯にある街ですから、Eランク魔獣ならいつでもいます。西の森を超えた魔巣窟の森の中にはCランク以上の魔獣の宝庫ですからね」
それだったら、Eランク魔獣討伐依頼がなくなることはないだろう。
これで宿代と食事代ぐらいはなんとかなる。
心の中で金銭の計算をして、安堵の息を吐く。
受付カウンターの隣にある解体所のカウンタ―へリュックから出した討伐部位を乗せる。
「討伐部位十体と魔石十個ですね。全てEランク魔獣ですから一体銀貨五枚。魔石一個銀貨五枚。十体で銀貨百枚になります」
カウンターの上の皿に銀貨百枚が置かれる。キースは銀貨百枚を手づかみして、革袋の中へ入れる。
「明日もEランク魔獣討伐依頼でいいですね。焦ってDランク魔獣に挑戦とか言わないですよね?」
「そんな度胸はないですよ。俺は自分に支援魔法をかけられない欠陥のある魔法士ですから」
「その謙虚さは美徳だと思います。明日も頑張ってください」
ロミンダはそう言って、キースを元気づけるように微笑む。
キースの心が少し穏やかになる。
「……それじゃあ、帰ります」
「あ……待ってください。私も今日は仕事が終わりますので、一緒に夕食でも食べましょう」
ロミンダの提案にキースは戸惑う。
ロミンダは多くの冒険者から色目を使われるほどの美女だ。
美女と食事をしたことなんてない……
どうすればいいんだ?
「冒険者ギルドを出た所で待っていてください。制服を着替えてきますので」
そう言ってロミンダは受付カウンターから去っていった。
多くの冒険者から鋭い視線が送られてくる。
殺気までこもっていそうだ。
居たたれなくなったキースは冒険者ギルドを出て、ロミンダが指定した場所で待つ。
すると冒険者ギルドの裏口からロミンダが現れた。
きっちりとした制服姿も素敵だが、私服姿もエレガントで美しい。
ロミンダがキースの腕を掴んで、優しく微笑む。
「キースさんが、お金で困っていること知っていますから、今日は割り勘にしましょうね」
「いいんですか? 俺なんかと食事を食べに行っちゃって?」
「キースさんは幾つですか? 私は十九歳になります」
「俺は十五歳になったばかりです」
「私のほうが四歳年上ですね。お姉さんですね。可愛い弟ができたようで嬉しいです」
あ……弟……恋人じゃないんだ。
キースは自分がとんでもない勘違いをしていたことを知って、顔を赤らめる。
「成人の儀が終わっているなら、お酒も飲めますね。楽しみです。近くに美味しいお店があるんです。私が案内しますね。とても安くて美味しいんですよ」
そう言いながら、キースの腕をつかんでロミンダは嬉しそうに歩いていく。
大派閥ギルド『シュトラウス』にいた時には考えられなかったことだ。
いつも下っ端扱いで、ギルドの雑用係までさせられていたのだから。
そんなことを考えていると、ロミンダおススメの店『オークの胃袋亭』に到着した。中へ入ってみると大勢の客が座っている。
店主がニコニコと笑ってロミンダに近付いてくる。
「よーロミンダちゃん。久しぶりだね。今日は可愛い相方がいるね」
「そうなの。私の弟なのよー。今日から常連になるかもだから。覚えてあげてね」
「おーそうかい。ゆっくりしていってくれ」
二人掛けの席にロミンダと対面で座る。
「私はオーク肉のステーキとサラダ。串焼き三本お願いします。エール酒は早めで」
「キースさんはどうしますか?」
「それじゃあ、同じメニューでお願いします」
店主はメニューを聞いて厨房へ戻っていった。
そしてエール酒が運ばれてくる。
「それではキールさんの初討伐を祝って乾杯」
「……乾杯」
ロミンダはグイっとエール酒を一気に飲む。
「美味しいー!」
その嬉しそうな声につられてキースもエール酒をグイっと飲み干す。
そして運ばれてきたオーク肉のステーキとサラダを食べる。
オーク肉は柔らかくて、口の中で肉汁が出てきて、とてもジューシーで美味しい。
サラダは口の中をサッパリさせてくれて、とてもステーキに合う。
「美味しいですね」
「でしょー。ここ私の穴場なの。教えたのはキースさんが初めてなんだから」
「どうして、俺に気を遣ってくれるんですか?」
「キースさんが緊張し過ぎていたから。これから毎日、魔獣討伐が待っているのよ。息抜きしないと緊張で絶対に失敗しちゃうよ。だから誘ったの」
そういえばロミンダと食事をはじめてから、緊張感が取れていることに気が付いた。
知らず知らずのうちに緊張で体が強張っていたらしい。
「これも専属アドバイザーの仕事ですか?」
「そうですね……これはお姉さんから、弟への元気づけですね」
気が付けばロミンダのすっかり弟役になっている自分に気づく。
しかし、嫌な気持ちにならない。
ロミンダの心遣いが嬉しい。
「明日から魔獣討伐を頑張ってください。絶対に安全を確保してくださいね。怪我は嫌ですよ」
「わかりました。明日から安全に頑張ります」
Eランク魔獣しか討伐できないけど、なるべく安全に討伐していこうとキースは思った。
こうしてロミンダとの食事は穏やかに進んでいった。