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「社長?好きって……」
嘘でしょ?違う、ダメ。勘違いしちゃダメ。社長の好きなんて、お父さんが好き、お母さんが好き、妹が好き、友達が好きの延長に違いないんだから。
社長が首を振るのをやめて、眼鏡をはずしてごしごしと袖口で涙をぬぐう。
「ぼ、僕は……」
真っ赤な顔をして社長が私を見ている。
「僕は涼子さんが好きなんですっ。あの、もう涼子さんにやめてもらったんだから、元社員だから、セ、セクハラじゃないですよねっ」
カーッと顔が熱くなる。
社長が、私のことを好き?
嘘。
やだ、どうしよう。私も好きって好きって言っていいの?
「て、撤回してくださいっ」
口から出た言葉はこれだった。
「え?あの、ごめんなさい、好きだと言われて迷惑ですよね?」
「違います。元社員だとか、辞めてもらったとか、今の言葉は撤回してください。私、辞めてないです、辞めません。まだまだすることが山のようにあるんですっ!あちらで準備は着々と進んでるんですっ!工場を作るんです。砦を工場にします」
社長が首を傾げた。
「工場?え?なんのことですか?」
どこから説明をすればいいのだろうか。
「あちらの国の城下町に行ったんです。そうしたら、街のそこら中に怪我をしている女性がいました」
「え?」
「旦那に暴力を振るわれているそうです。日本でいうところのDV……。女性たちは働くところがなくて、お金を稼ぐ手段がなくて、暴力に耐えていると……そういう女性たちを私は救いたくて」
と、そこまで話をしたところで、突然後ろに並んでいた木箱のいくつかがバーンと開いた。
「はっ。女が自立する?冗談じゃないね!そんなことさせるか」
「そうだ。生意気だ。女が俺たちより稼げるようにするだと?ふざけるのもいい加減にしろよ」
「これ以上馬鹿なことが考えられないように、俺たちが教え込んでやるよっ!」
男が3人木箱から現れた。手にはナイフを持っている。
「涼子さん逃げてくださいっ!」
男の一人がナイフを振り上げ私の頭めがけて振り下ろす。
カッという音とともに、男が持っていたナイフが飛んでいく。
「社長っ!」
社長が男の手にかかと落としを食らわせ、そのまま手をつかんでひねりあげる。
別の男が社長を狙ってナイフを突き出したところ、ひねりあげた男を支えにするように両足を上げてナイフを突き出した男に首を足で挟んでくるりと回転する。
何、すごいアクションが……。
3対1なのに、全然社長が負ける気がしない。
どうしよう、社長、すごくかっこいい。
しかも、これ……私を守るために社長は戦ってくれてるんだよね……。心臓が持たない。
こんな素敵な社長が、私のこと好きって……好きってさっき……あれは、夢かな。
って、ちょっと待って、夢だろうが現実だろうが、社長は私を危険な目に合わせたくないから会社を辞めさせるって言ってた。
今、この状況って、私が危険だから、社長が守ってるってことになって、やっぱり危険だからやめてもらいますって言われちゃうじゃない?
冗談じゃない。
社長が、男二人を気絶させると同時に、最後の男が状況が不利と見て、落ちたナイフを拾って私に向かってきた。
落ち着け私。こういう時にはたぶん抵抗しなければいきなり刺されることはない……と、思う。とりあえず社長の攻撃から逃れるために私を人質にするつもりだと……。
「涼子さんっ、僕の大事な人に手出しするなーっ!」
大事な……人。
ああ、言葉をかみしめたいけど、そんな場合じゃない。
あっちから持って帰ってきた鞄の中から、さっき出して背中に隠していたもののスイッチを手探りでオンにする。
思っていた通り男は、ナイフを持っていない手を伸ばしてきた。
「涼子さんっ!」




