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……やっぱり、この棺桶のような木箱に入らないといけないんだよね。
パスポート持ってないし、帰りもなんか王室御用達の専用なんとかみたいなので、こっそり倉庫まで荷物を運ぶ感じなんだよね?
……仕方がないので、素直に箱に入って寝転びました。ああ、柑橘類の匂いがする。ふたが閉じられ、すぐにあの浮遊感を感じる。エレベーターにでも乗せられたのかな。と思ったころには意識が遠のいた。
ばたんと、激しい音が聞こえて目が覚める。
まるでほんの数秒しかたっていないように思えるけれど、……ついたのかな?
「涼子さん!涼子さんっ!」
ああ、社長の声が聞こえる。
どうやらさっきから聞こえる激しい音は、乱暴に木箱を開けて中を確かめている音のようだ。
私はここだよ。
ふたを押し上げて、体を起こす。
「社長、ただいま」
と、声を上げると、すぐに社長が飛んできた。
「涼子さんっ!」
がばりと、なんの躊躇もなく、強く抱きしめられる。
「しゃ、社長……」
えっと、社長の匂いだ。
本当に日本に帰って来たんだ。
「涼子さん、よかった。よかった……。満月の日に、涼子さんが突然いなくなって……車は会社にそのまま置いてあるのに、涼子さんだけいなくて……」
「ごめんなさい、何かちょっと手違いがあったみたいで、取引先の国に送られたみたいで」
「謝るのは……僕の方です……。僕が……僕が涼子さんを巻き込んだ……」
社長の声が震えている。いいえ、声だけじゃなくて体も震えている。
「社長?」
ぎゅっと抱きしめられたまま固まっていたけれど、そっと社長の背中に手をまわしてみた。
なんでこんなに震えているの?
「やっぱり、人を雇うなんて無理だったんだ。危険にさらしてしまった……ごめんなさい。涼子さん……一緒に働けた3か月はとても嬉しくて……このままずっと涼子さんと一緒に仕事ができるといいなと思っていたけれど……」
まって、社長、何を言い出すの?
なんだか、お別れみたいな言葉だよ?
社長の体が離れた。涙でぐしゃぐしゃの顔。社長が涙をぬぐうこともなく、私を見ている。
「ごめんなさい。これ以上涼子さんを危険な目に合わせるわけにはいきません……だから……その、退職金はたくさん出します……」
退職金?
何を、言っているの?
「社長っ、私辞めませんよ。絶対やめません。やらなくちゃいけないことがたくさんあるんです。それに、社長言いましたよね?私を幸せにしてくれるって。嘘だったんですか?辞めさせられたら、私、全然幸せじゃないですよっ」
社長の肩をつかんで揺さぶる。
社長が首を横に振った。激しく振り続ける。
「死ぬかと思うくらい苦しかった……涼子さんがいなくて……あっちで何かあったんじゃないかと心配で心配で……敵が減って平和になったとはいえ、まだ日本に比べれば全然危険が多くて……万が一涼子さんに何かがあったらと思うと……」
心配してくれてたんだ。
「大丈夫ですよ。皆さんよくしてくれましたよ。危険はありませんでしたし……。だからやめません。会社は簡単に社員をやめさせられないんですよ。私、やめませんからね?労働基準書に不当解雇だって訴えてでもやめません」
社長がまだ首を横に振る。
「僕は……涼子さんが好きなんです。好きな人を危険な場所に行かせてしまうなんて、そんなの無理なんです。耐えられません。だから、涼子さんには会社にいてもらうわけにはいかないんです」
え?
す、き?




