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ミシャさんとの食事を終えて風呂につかり、布団に入る。
そんなに簡単に解決する問題なら、とっくに解決してるはずだし……。焦らない。もっと情報を集めて、それから……。
「お洗濯が終わりました。どちらをお召しになりますか?」
作業着スーツがきれいに折りたたまれて差し出された。
迷わず作業着スーツを手に取る。
「あ」
突然閃いた。
そう、まるで神の啓示のように。
「すいません、リュウソ殿下にお会いすることはできませんか?」
もしかして、これなら……。
侍女は確認してみますと、上司の元へと向かった。その間に作業スーツに着替え、髪の毛をといて一つに結ぶ。
うん。パンツスタイルの方が足元がすーすーしなくて安心感がある。
ダメかもしれない。だけど、話をしてみる価値はある。
侍女と一緒にミシャさんが来た。
「リュウソ殿下は2日後にこちらに顔を出す予定でしたが、その時では遅いですか?」
「大丈夫です。えっと、ミシャさんは今日は時間取れますか?取れるなら、王城の敷地内……というか、一般人の立ち入りが制限されている場所、いえ、制限することができる場所を案内してほしいんですが。もちろん、神域とか禁忌の場所などは除いて……」
ミシャさんが頷く。
「分かりました。リョーコ殿であれば陛下の寝室以外でしたら立ち入りの許可も下りると思います」
へ?
「あ、いや、建物の中はいいんで、その、むしろこう、人が使ってない土地が見たいですっ!」
慌てて否定する。
思いのほか、城の敷地は広かった。私が目が覚めた屋根付きパルテノン神殿のような建物の裏手には手つかずの森が広がっている。王侯貴族が時折狩りに使う土地だそうだ。一般市民の立ち入りは禁止されている。
ふむふむ。なかなかいい条件がそろっている。
それから、城の敷地をいったん出て、馬で20分ほど移動したところも、一般の者は出入りできない砦がある。強大な敵から街を守る要だったそうだが、社長のおかげで敵がいなくなったので今は管理人がいるだけで使われていないそうだ。
立派な3階建ての石積みの砦。砦の敷地には、宿舎として使われていた平屋の建物も残っている。ここもまた、いい条件がそろっている。なんせ人の侵入を拒む建物付き。
「何をメモしているのですか?」
「うん……。彼女たちが、夫から逃げて生活できる場所が作れないかと思って」
私の言葉にミシャさんが砦を見る。
「女の城を築くつもりですか?」
「女の城?ふふ、なんかメロドラマだかの陳腐なタイトルみたい。違うんだ。城じゃなくて作るのは会社。……仕事をするところ。社員寮付きの。住み込みで働ける場所……えーっと、夫に養ってもらわなくてもお金が稼げて、子供も育てられる場所。ああそれから、暴力夫が来ても追い返せるというのは重要ね」
私の言葉に、ミシャさんが目を輝かせる。
「それが本当にできるならば……どんなに素晴らしいことでしょう」
そう。できたらいい。できるように頑張る。できなかったら……。
大丈夫。また、考える。いい方法が見つかるまで、考えて、やってみて、動いて……。
この国にいる間にできるだけの相談を王子としておこう。
ミシャさんたちのほかにも賛同者を増やそう。協力者も必要だろう。
そうして、考えたことを話し、相談し、あっという間に日本での新月……こちらでの満月の日を迎えた。
「こちらに。目を閉じている間にあっという間につきますよ」
パルテノン神殿風建物には、例の木箱が積み上げられていました。それから、一つだけひときわ豪華な木箱が用意されている。この世界で高貴な色とされる黒で塗られ、金で細かな模様が書き込まれている……んだけれど、サイズ的に棺桶にしか見えないんだよなぁ。
ふたがあいていて、そこには柔らかそうな毛皮が敷き詰められてて……。どうぞと3人ばかりがニコニコとふたを持って私が入るのを待っている。




