-
「ミシャさん……教えてほしいんです。あのような立場の女性はどれくらいこの国にいるんですか?」
まずは情報収集しなければ始まらない。国中に数えきれないほどの女性が犠牲になっているのだとしたら……。
「そうですね……農村部ではあのような扱いを受けることはほとんどありません」
「え?そうなの?」
田舎は閉鎖的だからもっと男尊女卑がひどいのかと思っていた。
「女性も田畑を耕す貴重な働き手ですからね。働き手を故意に傷つけるような人間は誰であろうと村人から白い眼を向けられます。村人同士の喧嘩や、妻や子供や親への暴力はご法度です。働き手が減れば、村の収穫量が減る。税を納めるのにも苦労します。だからむしろ、子供を産み村人を増やしてくれる女性は男性よりも大切にされています」
話を聞いて少しもやっとすることもあった。
子供を産むことが女性の価値基準というのが、現代人の私からは素直に受け入れられない部分もある。だけれど、今はそれについて議論するつもりはない。農村部の女性が、夫の暴力に耐えていかなければならないということを素直に喜ぼう。
「逆に……村を追い出された男たちが、都心部に仕事を求めてやってくるので都市の男たちの暴力がなかなか減りません……。妻への暴力で逮捕すれば済むという簡単な問題ではないのです……」
DV被害を受けている女性も確かに……。支援がある日本ですら、男の元から逃げるのは容易ではないのだ。
一晩二晩牢屋に入ったからといって、男が改心するはずもない。ミシャさんが街で私を止めたのが事実なんだろう。
お前のせいで牢屋に入れられたと、家に帰った男はよりひどい暴力を妻にぶつける……。
「子供は……?」
ミシャさんが小さく首を振った。
「母親が必死に子供を守ってはいますが、中には暴力の被害を受ける子供も……。家を逃げ出す子供もいますが、食べて行けずに……」
暴力の被害を受けた子供の先の言葉、食べていけなかった子供の先の言葉……。
ぞくりと背中が寒くなる。
けがを負うの?スリなど犯罪に手を染めるの?……それならばまだマシだと言わないだろうか。命を……失うこともあるのではないだろうか。女性の地位が低い時代には、子供の地位も低かった……口減らしと、生まれた我が子を殺してしまうようなそんな時代があったのだ。
とても、受け入れられないような現実が……。
「そういう女性や子供は、農村部に移住できないの?」
ミシャさんが首を横に振った。
「過去に、農村部が人口を増やそうと人をさらっていたことがありました……それで、農村部への人の流入は厳しく制限されることになり……。近隣の村同士が、見たことのない村人がいないか見張りあっていて……。都市から逃げてきた人たちの受け入れで村同士がもめることも多く……」
いろいろとあるということは分かった。村には村の事情があるわけだ。
……そりゃそうだよね。行先があるならば、もっと女性は逃げることを考えるはずだ。子供を守るためなら、なおさら。
それができないんだ。
仕事があって、お金を得ることができて子供も安心して育てられる。そうか、安心して生活するためには、DVをしていた夫から距離を置く必要もある。稼いだお金を取り上げられた上に暴力を振るわれては仕事を得たとしても何にもならない。
いや、違う。まずは距離を置くことが一つ目?
うーん。でも、生活のメドがたたないのに距離を置くことができないから、現状に耐えているわけだよね。
ああ、ダメだ。ぐるぐると考えが堂々巡りだ。
仕事。
仕事が必要。そして、仕事をする場所は暴力夫から離れた場所。場所も知らせない方がいい。もしくは容易にたどり着けない場所。
日本で働ければいいのに。日本語が話せるんだったら働けないのかな?人手不足で仕事はすぐに見つかりそう。でも就労ビザとかいろいろ取るのは大変なのかな。渡航費とか……ああ、そもそも、近代文明受け入れていない、電気もない国からいきなり日本で生活するのは難しい?宗教的な何か制約があるかのうせいも。電気に触れると悪魔に取りつかれるみたいな……。
うーん。




