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特別料理に自信があるわけではないけれど、卵を焼くくらいなら。野菜を炒めるくらいなら。とか……。社長は料理しないのかな。調理道具見ても使い方知らないもの多かったから、しないような気がする。そもそも日本にもどってきてまだ1年も経ってないんですよね。私が会社に入るまでは、忙しくて時間取れなさそうでしたし。料理する時間なんてなかったのかもしれません。
分厚い肉を切って口に入れると、ニンニクとショウガと少しの甘味。濃い味付けの料理だった。
美味しい。さっぱり塩コショウで焼いた肉も美味しいけど、これだけ濃い味がついているお肉も美味しいかも。でも、これ……。
ご飯と一緒に食べたい味だぁ。社長は、この肉食べながら米が食べたいって、10年以上思っていたのかなぁ……。
……あ、そうだ。日本にもどったら、この味をできるだけ再現して社長に作ってあげよう。懐かしいこの国の味と、米と一緒に食べるという長年の夢が叶うんじゃないかな?……って、パンと食べたほうが合うよとか社長言わないよね?言ったらどうしよう……そもそも再現できるのかな?
「どうした?口に合わないか?」
箸を……じゃない、フォークが止まっているのを気にして殿下に話しかけられた。
「いえ、とても美味しいので、えっと、どんなレシピなのかかんがえていました」
「そうか。気に入ってもらえて何よりだ。レシピは後で料理長に書かせよう……あ、文字が読めないのだったか?ではあとで料理長に教えてもらうといい」
殿下がにっこりと笑った。
「いいんですか?」
「ああ、もちろんだ。そうだ、ついでに、ソータが送ってきた料理の道具とやらの使い方を料理長に教えてくれないか?説明を読んでもさっぱりわからないものがいくつもあったんでな」
「はい、もちろん」
それから3日くらいは、料理長に料理を教えてもらい、社長が送った100円で買い込んだ調理道具の使い方を説明したりして過ごした。
屋敷での生活は特に不自由もなかった。お風呂もトイレもあったし。水道はなかったけれど、侍女さんに頼めば水を用意してくれたので。
その間、殿下に会うことはなかったんだけれど、4日目の昼食の席に殿下が来た。
「いつもの格好も似あうけれど、そういう服装もいいね」
きらりん笑顔で褒められました。いや、さすがにずっと同じ服は着ていられないので、こちらの服を借りているんですが……。
女性用の服は基本的にワンピースだそうで。ひざ下丈の藍色のワンピース。そこまではまぁ、その、いいんだけれど、袖がパフスリーブです。それも、かなり膨らんだ。……どうにも、今の流行からすると、大人が着るには勇気がいるデザインで……。少女っぽい気がして恥ずかしいんですよね……。
それから、うすうすそうなのかなーと思ってはいたんだけれど、この国は、濃ければ濃い色の方が高貴な色のようで。黒は王族やその周辺が身に着ける者にしか使われないそうだ。だから、黒い作業着スーツは、親衛隊の制服で、皆のあこがれの的なんだって。話をするようになった侍女さんが教えてくれた。なんでも、濃い色に染めるのはむつかしいから高級らしい。私が来てるこの藍色のワンピースも、これがもし藍染だとすると、かなり何度も染を繰り返して手間がかっているんだと思う。藍染の着物はそれなりの値段しますよね。
「料理長がいろいろと教えてくれて助かったと言っている。いくつもあればいいもの、ほしいものがあると言っていたが……」
殿下が頭を下げた。
えええ!王族の人が、国が違うと言えど、庶民の私に頭を下げるってっ!
「申しわけない。本来なら、買うべきだというのはわかっているのだ。技術を盗むような真似は……卑怯だと。だが、同じような商品をこちらで作ることを許してほしい……」
ああ、そういうことですか。
「大丈夫ですよ。むしろ社長も、その、あれらの品で儲けようとは思っていませんし……」
100円均一だから、こっちで売値が決められないと頭を抱えていたのを思い出す。
「ソータには世話になりっぱなしだ。できるだけの恩返しはしたいのだが、その……情けないことに我が国は何もかも遅れている。日本でも価値があるだろう、差し出せるものが金や宝石しかなく、それもいつか尽きてしまうだろう。何もかも買いたいのはやまやまなのだが……」
あれ?
ちょっと、待って。
そうだよね。
金や宝石はこの国から日本に来る。一方通行だと、この国に金や宝石はなくなる。手に入ったものは、他の国では何ら価値を持たない砂時計や作業着スーツ。
いつまでもそんなの続けられるわけがない。……殿下の言う通り。
逆に、こちらの国のものを日本が買うようになれば、金は再びこの国に戻る。いや、むしろ、この国の品が金や宝石でなく日本円に変われば……。




