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神殿のような場所を出ると、すぐ裏手に城のような建物が見えた。いや、もうきっと城なんでしょうね。
江戸時代の籠みたいなものに乗せられ移動する。ゆ、揺れる。歩いていきますよと言いたいけど、やっぱり断れない。
城は、とても大きくてごつごつしている武骨な城と、少し小ぶりだけれど優雅な風貌の城と、さらに小ぶりの城の形はしているけれどお屋敷さいずのものがあり、お屋敷サイズの城にとおされた。
「こちらは迎賓館です。リョーコさんにはこちらに滞在していただくことになります。自分のうちだと思ってくつろいでください」
こんな屋敷を自分の家だなんて思えません。
ふかふかのじゅうたんが敷き詰められ、微細な彫刻がされた柱や天井。どれも手の込ん調度品が飾られ、壁には色鮮やかな絵が一面に描かれている……お手を触れないでくださいとロープの張られた博物館にいるような気持になる部屋に通された。
あ……。
猫足の彫刻が施された8人掛けのテーブル。
「会社にあるのと同じ……」
「ああ、確かこれと同じものを送ったんでしたね。ソータの国ではちゃぶ台というんですか?背の低いテーブルを使うと聞いたのですが、どうにも我々には正座や胡坐といった姿勢がむつかしくてね」
そうか。この国から送られた品だったのか……。
「使ってくれているんですね」
リュウソ殿下の表情が緩んだ。
「はい。毎日のようにテーブルでお茶を……いただいたお茶を楽しんでいます。とても美味しいです」
ちょうど、その話をしていると侍女だろうか。カートにお茶を乗せて現れた。
ティーカップを殿下と私の前にそれぞれ置く。
「我々も、これのおかげで美味しいお茶を楽しませてもらっていますよ。ベテランの侍女でも時折タイミングを間違えていたのが、これでいつでもだれでも美味しいお茶を入れることができるようになった」
と、殿下がカートのうえのティーポットの横に置かれた砂時計を指さす。
「砂時計ですね。追加でご注文を受けた分は今回の荷物に入っているかと思います。1分、2分と用意してありますが、1分半の品はご用意することができませんでした。もうしわけありません」
「そうか」
殿下がちらりと侍女に視線を向ける。
「大丈夫でございます。以前の何も基準となるものがないときに比べて、とても助かっております。1分のものの砂が落ちた時にさかさまにして半分くらいに減った頃合いを見はかればいいのですから」
まぁそうなんだけど。
「ちょうどよい時間のものをこちらで作ってはいかがでしょう」
お茶によって一番の飲み頃の時間が違うというのは知っている。
「それができれば一番いいのだが、わが国ではガラスの加工技術はあの程度で……そのような複雑な形はできそうもない。出来れば、わが国の茶葉とセットで海外に売り込みたいとは思っているいるのですが、真似して作ることができないため希少価値で値段も高くなり……」
と、殿下が窓ガラスに視線を向けた。
まるで障子のように格子状に細かく区切られた空間にガラスがはめ込まれている。大きくて透明度の高いガラスが作れないということだろう。
だけれど、小さくてある程度透明なガラスができれば十分だ。
砂時計は、実は紙とぷら版でも工作できるのだ。
「大丈夫ですよ。あれだけのガラス加工技術があれば、同じような形のものは作れませんが、時間を図るためのものならすぐにできます」
「本当か?それはぜひ教えていただきたいが……」
教えるって、まさか殿下に教えるとかじゃないですよね……技術者に教えればいいですよね。
「では、木工技術を持った人と、それから必要な材料の準備をお願いできますか?必要なものは、木の板、せちゃくざいになるような松脂か何か、それから砂。えーっと砂粒の大きさをそろえたいので点々こちらから送った品に茶こしがあったと思うのですが、茶こしを。それから砂はあらかじめよく水で洗い、火であぶって雑菌を取り除いてください。あとは、ガラスと、時間を図るために時計を一つ。送ったものがありますよね」
殿下が後ろに控えていた男性に声をかける。
「聞いたか?すぐに準備を」
「はいっ」
木工職人がすぐにきた。緊張でがちがちになっている。そりゃそうだよね。目の前には王子だよ。
紙とペンを用意してもらい、紙に書いて説明する。
上向きの三角と下向きの三角をくっつけたような形に木を彫って、真ん中に細く穴をあけて砂が落ちるようにする。それから片方の三角だけ穴をあけて砂の量を調整するための口をつけるけれど、そこにぴっちりとあとで栓をするので栓も作ってもらう。
彫った木の全面にガラスをびっちり張り付ける。砂が漏れ出さないように、しっかりと念入りに加工してもらう。
「木ではなくて焼き物でもできそうだな」
「溝を作ってハマるようにしてもいいんじゃないか」
とか、職人さんたちがいろいろと意見を出しています。
その間に、焼いた砂が届きました。茶こしで、越して、砂粒の大きさをそろえる。
「ほほー、それはこのように使う品だったのか。ソータの説明だと葉っぱが入らないようにすると書いてあるだけでよくわからなかったが、確かにこうすれば砂だけが落ちて、葉っぱは入らないな」
殿下、違う!




