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明らかに倉庫ではない。
分かりやすく言えば、まるでギリシャのパルテノン神殿の遺跡に屋根を付けたような建物の中央にいて、大きな柱から見える外の景色は、真昼間。
豊かな木々が生い茂っている。
「まて、彼女の服装を見よ。我々の制服と同じようだが、なにもついていない」
3人の人物に視線を戻すと、私と同じ作業着スーツを着ているものの……たしかに、私と同じではない。
スーツの上着の上から革のベルトをしている。そしてさらにその下にサーベルだろうか。細身の剣を下げるためのベルトおついている。肩には何やらパーツが取り付けられていて、そこにロープのような物が通されている。
「もしや……あなたは日本の?」
え?
ずっと聞こえている言葉が日本語なので、唐突の問いかけにびくりとする。
どう見ても、話しかけてくれている20代の背の高い女性は、金髪に青い目で国籍はどうあれ大和民族っぽい顔はしていない。その隣にいる、薄茶色の髪の30近くの男性もそうだ。もう一人の黒髪の若い男の子も、瞳は薄いグレーだし鼻が高くて彫が深い。
とりあえず自己紹介するしかない。この荷物を取り扱っている人間だに間違いはないのだ。
「初めまして。株式会社異世界商事の総務責任者の布山涼子と申します」
名刺は2か月前に作ってもらった。肩書は総務責任者。部長だとか課長だとか、部も課も存在しないのでそこに落ち着いた。
名刺に視線を向けた女性が、あーっと大きな声を出した。
「やっぱりだ、これ、読めない文字、ちょ、すぐに殿下に報告をっ!荷物と一緒に、人が、人が送られてきたと……」
え?
ちょっと待って。
どうも、周りの様子がおかしいと思っていたけれど、やっぱり私……。取引先の国に来てしまったってこと?
意識を失て眠っているあいだに、荷物と一緒に……移動しちゃった?
って、どこ?ここどこ?私、どれだけぐっすり眠っていたの?本当にどこ?っていうか、海外なら、私、パスポートとかないんだけど。
密入国?誰を呼んでくるって?っていうか、荷物に人が一緒でも運んじゃうのってどういうことなの?
ああでも、特別な人はパスポートなしでも移動できるって聞いたことがある。例えば米軍の上層部は日本に基地を経由すればパスポートなしで入国可能とか。あとはどっかの国の王族専用機に乗っている人たちはノーチェックだとか……。それかな?それなの?
それとも、本当に私、つかまっちゃう?系?
実は日本語使ってるし、どっかの国に作り上げられた日本のリゾート地?
「ようこそいらっしゃいました。私は、この国の第三王子リュウソで、ソータとの取引を任されております」
だ、第三王子って言った?
肩までのサラサラの金髪に、エメラルドブルーの瞳。25歳くらいの、イケメン高身長の男性は、確かに○○王子って呼ばれそうなオーラを放っているけれど、本物の王子なの?
「リュウソ殿下……私は株式会社異世界商事で総務責任者の布山涼子……涼子と申します」
一緒に現れた4名ほどの人たちは一歩後ろで控えている。
そして、一番初めに私と会った3名は、王子が現れたら、床に膝をついて頭を下げた。
あ、本物だ。本物の王子だ。これ、私もこう、膝をついて頭を下げないといけないのでは……ど、どうしよう。
「リョーコさん。よくいらっしゃいました。ソータには送られた品の説明をしに来てほしいとお願いしておりましたが、あなたのような素敵な方を派遣していただけるとは」
にこっと笑って、王子が右手を差し出した。
ええー、どうすればいいの。
不審者とは思われてない。ソータって社長だよね。社長が派遣した人ということになってる?
どうしよう、否定したほうがいいのかな。それとも、そうですって言った方が……。
「あの、突然のことで詳しい話を何も聞いてなくて、えっと、品の説明ですね。どの商品についてご説明いたしましょう?」
とりあえず、話を合わせることにした。
のは、いいんだけど、えっと、私、この先どうなるの?
「日本へは……」
パスポートがないのに帰れる?日本に入国しようとして捕まらない?どうしたらいいんだろう。
「次の満月、いえ、日本でいうところの新月……およそ半月後に帰ってしまわれるのでしょう。それまでは、わが国でお楽しみください。お茶が好きだとソータから聞いています。まずはどうぞ。お茶を飲みながらお話しいたしませんか?」
王子とお茶?
もちろん、断りたいけど断れないので、言われるままについていきますよ。




