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「社長……今日は、また満月ですね」
3度目の満月。
「今回も涼子さんのおかげでとても準備がはかどりました。ああ、もう時間ですね」
時計の針は18時を指している。
「あとは大丈夫ですから、早く帰ってください。じゃぁ、お疲れ様でした」
いつものように、残業は絶対許さないという必死さで社長に事務所を追い出される。
……もう少し、一緒にいたいなんて私が思っているなんて社長は少しも思わないんだろうなぁ……。
会社を出て、ファーストフードで軽い夕食を取り本屋へ寄る。
ずいぶん日が長くなった。そりゃそうだ。もうすっかり夏だ。作業着スーツはスーツの聞いている室内では快適だけれど、やはり外に出ると長袖は厚い。
いろいろと仕事が増えると、自分の勉強不足を痛感する。今日は金曜日だし、土日の休みの間に何か読もうと思って、必要な本を探して本屋に寄ったんだけど、なんの勉強からしようか。社会保険関係は景山先生に顧問をお願いすることになったから、もういろいろおかませすればいいし、わからないことはすぐに教えてもらえる……あれ?
今日は満月?
明日明後日と休んで次の出社は月曜……の……。
「3か月経ってる」
試用期間の3か月が明後日で終わる。次の出社は4か月目のスタートだ。
私、何も言われてない。
試用期間が終わるので、来月からは正社員として働いてくださいとも、やはり入社はお断りしますとも……。
何も言われていないのだから、普通に考えればそのまま続けてくださいってことだとは思うけれど……。
もし、月曜日に行って事務所のドアに鍵がかかっていたら。ただそれだけで、本当に来てよかったのかと、心臓が跳ね上がるくらいびくびくするだろう。
だって、私、働きたい。社長が好きだとかそんな不純な動機じゃない。楽しい。
仕事が楽しい。
私が提案して見本を送ったものが、認められて注文されるのが嬉しい。
お礼の手紙が来るのが楽しみ。次に何を送ろうか考えるのもワクワクするし……。
行っても大丈夫かな。月曜日、試用期間が終わって、正式採用してもらえるのかなって。きっと社長はもう私のことは社員だと思ってくれていて、3か月の試用期間の話なんて忘れていて何も言わないんだと……そう思ってはいるんだけど。だめだ。
こんなはっきりしない状態で土日過ごすのは、ちょっと心臓に悪い。
手にしていた本をレジに出しお金を払うと、社に戻る。
社長に月曜日からも来ていいのか、ちゃんと尋ねよう。
事務所の明かりは消えている。
ああそうか。もうこんな時間だった……。空を見上げればすっかり日が落ちて満月が顔を出している。
「ん、明かりだ。倉庫で荷物のチェックしてるのかも」
一番奥の出荷用倉庫から明かりが漏れている。いつも締め切ってある扉が少し開いているので、社長が中にいるのかも。
棺桶みたいに大きな木箱は、部屋の中央にまとめて積んである。
「社長、いますか?」
荷物の裏にでもいるのかな?と、足を踏み入れ、木箱の後ろをのぞき込むと、突然揺れた。
「え?地震?」
慌てて木箱にしがみついた。って、崩れてきたら私が危ない。でも、ふわっと浮き上がるような感覚に、もうどこかへ移動することもままならない。
足元から強い光が差している気がする。揺れるというよりはふわふわと立っていられない感覚がどんどん強くなって。気がつけば、意識を失っていた。
あれ?もしかして、これ、貧血?めまい?地震じゃないかも……。
「大丈夫?あなた、どこの所属?なぜこんなところにいるの?」
なに?所属?なぜこんなところにって?
涼やかな声が聞こえて目が覚めると木箱の横に倒れている私を心配そうに見下ろす顔が3つ。
「あ、すいません、荷物の回収業者さんですか、邪魔ですよね、すぐにどきますから」
と、目を覚まして起き上がると激しい違和感を感じた。
「どこ、ここ……」




