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「涼子さん、ほら、やっぱり!大好評みたいですよ!たくさんほしいって!」
次の新月がすぎ、社長がひらひらと注文書を見せてくれた。
読めませんけどね。こういうところもかわいいとか思っているのは心の中にしまっておきます。
「社長、いつものようにお願いします」
「ふふ、いつものといっても、まだ3回目くらいだけど。涼子さん、いつものっていうのいいですね」
社長が嬉しそうだ。
社長が喜ぶ言葉を、最近では好んで使うようにしている。歓んでくれるのを見るのが嬉しいから。
馬鹿だよね。うん、馬鹿みたいだけど。仕方がない。
「では、お願いします。姿見20本。手鏡100個。それから――」
今までは向こうの言葉を日本語にして社長が紙に書いていたんですが、社長が書くよりも読み上げてもらったものを私がパソコンに直接打ち込んだ方が早いということで、いつものというのは、社長が読み上げ私が打ち込むという作業のことです。
「作業着1000着」
作業着……。
「え?せ、1000着ですか?そんなに?サイズは?」
「えーっと、女性用のMと男性用のSは少なめで、男性ようのMと女性用のLが少し多めで、男性用のLとLLをたくさんだそうです」
……ざっくりした数ですね。
「まずは親衛隊……えーっと、上級職の制服に採用したいそうで。試用感が良ければ、そのあと色違いで大量にほしいと……」
親衛隊?
「親衛隊って言いましたよね?それ、あれ?そうか。王子が取引相手にいるって、本当のこと……あ、聞いてないことになってましたね。えっと、上級職の制服ですか……」
親衛隊の制服……。王子を護るために、剣を振ったり動き回るっていうことかな。スーツの形をしているからSPみたいなイメージをした方がいい?かっちりした形をしつつも、伸縮性があり動きやすい。確かに、訓練とかである程度激しい動きをしてお腕やお尻がびりりと破けにくそうで、いいですよね……って、でも、ですよっ。
「いきなり1000着って、これはやっぱり製造元と交渉するべきことですね。そのあと、色違いで大量ってことになっても……。継続して毎月量が増えるのではなく一時的にというのであれば生産ラインを増やすわけにもいかないでしょうし。納期を相談して少しずつ納品してもらう形になるのか……とにかく、相談してみます。
えーっと、まずは製造元に。
来ていたスーツの上着を脱ぐ。作業着スーツが最近は出勤服の定番で。家の洗濯機でも洗濯でき、洗い替え用途3着支給されています。
「りょ、涼子さんっ」
スーツの上着を脱ぐと、社長が真っ赤な顔をして私を見ていた。
いや、ちゃんと下にVネックブラウス着てますよ。ああでもいきなり服脱ぐのに驚いただけかな。
「すいません、タグにたぶん製造元書いてあると思ったので。と服を裏返してタグを見る」
そのままメモ用紙に、製造元の会社名と電話番号をメモする。
すぐに電話をして話を聞いたけれど……。
「社長、ダメだそうです。今取引しているところへ納入する分を作るだけで精一杯だと……。人の手で縫っているので機械を24時間回せば増産できるという簡単なものじゃないので、月に100着、それが限界だそうです」
社長がのんびりした口調で返事をする。
「月に100着というと、1000着は1年くらいかかるのか……まぁ、いいんじゃない?制服の切り替えに1年とかかかっても。いっそ、昇給試験とかに合格したら新しい制服みたいにちょっとずつやる気を起こさせながらうまく利用するんじゃないかな、あいつのことだし」
あいつとは王子のことなのか。
「それでいいのでしたら、1年間、毎月100着ずつということで契約しましょうか」
次の満月には作業着100着そのほか。砂時計も好評で追加で送る。100円均一でいろいろと見本を送った調理道具の注文はなし。ねじまき式の時計は、やっと見本としていくつか送れることになった。取り扱い業者が少なくてもし注文を受けても結構大変かもしれないということで、注文を受けた後も数が用意できそうなところを探すのに手間取ったのだ。




