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「午後の休憩は、このお茶にしましょうね、社長!」
「え?いや、それは涼子さんに差し上げます」
思いっきり首を横に振って、缶を持って立ち上がる。
「初めて飲む紅茶なんですよ。口に合わなくても捨てられないじゃないですか。だから、一緒に飲んでくださいっ!」
嘘です。
社長と一緒に飲みたかったんんです。
家で一人で紅茶を飲むより、社長と飲みたいんです。
……って、ああ、ダメだ。
わかってたんだ。私、社長が好き。
もうとっくの昔に。
私の心を救ってくれた社長が。悪い人に回し蹴りして救ってくれた社長。
涼子さんと優しい声で名前を呼ばれるのが好き。
ありがとうと笑顔を向けてくれるのが好き。
ちょっとしたことで喜んでくれるのが好き。
瞳ちゃんの彼氏に、幸せそうな顔をしているのを見てカップルだと思ったって言われてドキリとした。
そうか。私の気持ちは、もうダダ漏れなのかと。
自分の気持ちに気が付かないふりして、社長に気が付かれないように気を付けていたけど。自分の気持ちはもうごまかせないなぁ。
社長は、まだごまかせそうだよね。うん。
社長には気づかれちゃいけない。だって、社長はセクハラを恐れて私を採用してくれないかもしれないから。まだ試用期間だし。
それに、案外半年もすればもっといろいろな面が見えてきて、この気持ちもなくなるかもしれないし。気づかれずにいれば問題ない。
「あ、そうですね。味がわからないものを……僕としたことが。じゃぁ、あとで一緒に飲みましょう」
「はい」
一緒に。
一通り荷物を出し終え、社長は木箱を運び込み終わったところで本日の作業は終了。
すっかり奥の部屋は空っぽになっている。
真ん中の部屋にはごちゃごちゃと物が詰め込まれていた。
次の日から、荷物と一緒に届いた注文の品を集めることになった。
それから、満月3日前から、木箱に荷物を詰める作業を始める。
「あれ、なんかずいぶん倉庫の中がきれい。これなら早く済みそうね、お兄ちゃん。私の手伝いいらなかったんじゃない?」
まりちゃんが手伝いに来た。
「まぁ、今まで一人でやっていたのを二人でやっているんだから、前よりは早く仕事ができるのは当たり前だよ」
「というより、お兄ちゃんのやり方よりも、涼子さんの方がすごいってことじゃない?棚も見やすいし」
「ありがとうまりちゃん。でも、実際社長一人でやっていたときは大変だったと思いますし。さぁ、満月の日までにしっかり荷造りしましょう」
まりちゃんと3人で箱詰め。もちろん、途中で休憩は欠かさない。
「はー、なんか優雅ねぇ。信じられない。お茶を飲む時間まであるんだもん。でもって、これ、いいね。すごい動きやすい!」
「ですよね。見た目はスーツなのに、締め付け感はないし、汚れも気にしなくていいし」
そう。作業着スーツに着替えてみんなで作業しています。
「これなら、売れると思う。ちょっと体動かしてみたけれど、ちょっとやそっとじゃ破れない」
ちょっとやそっとじゃ破れない?いや、普通は服はそうそう破れないと思うんだけど……。スーツを着て運動でもするんだろうか?
2日で箱詰め作業完了。
大きな木箱に詰めた荷物を、そのあとどうするのかと思ったら、満月の夜に取りに来るそうだ。
業者が?夜中に?と思ったけれど、このあたりは近所に民家もないので周りの迷惑にもならないし、道路の込み具合とか考えると夜の方がいいのかもしれない。コンビニでも夜中に荷物運ばれてくるし。そいいう業者がいるのかも。
満月。
そうだ。入社して1か月。試用期間は初め1か月だったけど、社長が3か月と言い直したけれど、どうなっているのかな。何も言われないから、このまま試用期間があと2か月かな。
ご覧いただきありがとうございます。
感想いつもありがとうございます。なかなか返信できずにごめんなさい。
引き続き二人のじれじれお楽しみください。タイトルの異世界はもうちょっと待ってねー。
お知らせ~新しく小説を始めました。よろしくお願いします。
「カフェオレはエリクサー~喫茶店の常連客が地球を救う。どうやら私は錬金術師らしい~」
https://ncode.syosetu.com/n3167fz/
現代日本、アラサー女子が脱サラして始めた喫茶店に、珍妙な客たちが集結。そして、地球を救う!という話です。ん、よくわからないな。




