-
「あ、社長、手伝いましょうか?」
社長が奥の倉庫から、棺桶くらい大きな木箱を運び出している。
「大丈夫。僕は力持ちだから。それより、ドアが開きっぱなしになってるの、便利そうだね、いちいち開けたり閉めたりめんどくさくて」
段ボールをちぎって、奥の倉庫のドアにも即席ドアストッパーを設置。
「ドアストッパーも100円均一で買ってくればよかったですね。今度買いましょうか」
「そうだね。また一緒に行こうか」
え?一緒に?
ドキッとして一瞬言葉に詰まる。
何をドキッとしてるんだろう。社長には深い意味はないのに。
運び出した木箱を、社長は真ん中の部屋に運び込んだ。それから、段ボールをくくっている間に、真ん中の部屋から木箱を持って、私が作業していた部屋へと入っていく。
「社長、何してるんですか?」
どうして、あっちからこっちに、こっちからそっちにと運んでいるんだろうか。
「ああ、向こうから届く荷物はこの木箱に入れられてくるんだ。真ん中の部屋は、一時保管庫。木箱の中身を出しておいて置くんだよ。それで、空にした木箱に、今度は品物を詰めて、あっちに送る」
なるほど。木箱か。
段ボールやビニール袋を外して木箱に入れるってことは、やっぱり現代文明的なものを排除するってことなのかな。
社長は、そのあとも木箱を空にして運び込む作業を続ける。私は、商品を取り出してタグなどを取り除き棚に置く作業を続け、棚がいっぱいになると、段ボールからいったん出して、包装などを取り除いてからもう一度段ボールに入れ、箱に中身を書き記した。
ちょっと疲れたところで、社長に声をかける。
「社長、いったん休憩しませんか?」
社長にも無理をさせすぎないようにと思ってのことだ。
「そうか、疲れますよね。えーっとじゃぁ、涼子さんは」
「先に事務所に行って紅茶入れますね!5分くらいで飲み頃になると思います!」
社長の言葉を遮り二階へ上がっていく。
たぶん、社長は集中しているときは疲労を感じないタイプだ。それで、あとでどっと疲れがやってきて意識を失うように眠ったりするに違いない。だから、倒れる前に気を付けないと。
「涼子さんがいると、とても仕事がはかどります。いつも一人で荷物を出すと、なんかだんだん場所がなくなって……」
「もしかして、全部出してから段ボールを一度に片付けようとしたりしてませんか?そうすると、中身を出した段ボールでだんだん場所が占拠されて狭くなって移動もしづらくなるでしょう?」
どうやら図星だったようです。
「あ、そうだ、これどうぞ。また送られてきたので。紅茶が好きだと言っていたので、これとは違うお茶の葉です。飲んでみてください」
お茶の葉の入った缶を差し出される。
「新しいお茶?今度はどんな味がするんでしょう!楽しみですっ」
嬉しくて取り繕うこともなく両手を出して缶を受け取る。
「ありがとうございますっ!」
パッと顔を上げると、社長の嬉しそうな顔と目が合う。
それから、すぐに社長が驚いたような顔をして、赤面して顔を伏せた。
「ご、ごめんなさい、えっと。なんか、紅茶一つでそんなに嬉しそうな顔をされるとは思わなくて……涼子さんの嬉しそうな顔を見て、僕もこんなに嬉しくなっていることにびっくりして……。今、僕変な顔してますよね……」
社長の言葉に頬が熱くなる。
まさか、社長、私のこと?なんてちょっと勘違いしそうな言葉だ。
「社員の幸せは社長の幸せなんですね……」
ほら。勘違いしなくてよかった。
……でも、ダメだ。私の心臓のどくどくが止まらない。
まずい。
これはまずい。沈まれ心臓。
吊り橋効果じゃないけど、ドキドキすると好きになっちゃう。
沈まれ。




