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信号待ちしながら、今日あったことをいろいろと思い出す。
ああそうだ。社用車を持ちたいと言っていたからそれも調べないと。……保険とかいろいろ関係してくるし、車は会社の資産扱いで税金のことも出てくるかな。……そもそもこれから社長は会社をどんどん大きくしていくつもりなのか、従業員をたくさん雇うつもりなのか。商品の仕入れが普通にどこかで購入してはよくないので改善していくべきだし、代金を宝石や金貨で受け取りそれをいちいち日本円にするために売るのも限度があるはずだ。どうしたものか。向こうに日本円が渡ればいいんだよね。何かを売ってもらって、それで日本円を渡す?
売ってもらったものを、日本で売るなら、宝石や金貨を売ってお金を作るのと同じか。でも、もうちょっと売りやすい品というのもあるんじゃない?……商事なんだから、向こうの品を仕入れてこちらで売るというのも問題ないはずだし。
ププッという音で意識が戻る。
いけない。運転中だった。信号はいつの間にか青。
ボーっとして運転しては危険。ちょっと、休憩を取ろう。半日以上歩き回って、ちょっと疲れた。
近くに飲食店を見つけて入る。
一人暮らしの家に帰っても、誰かがご飯を用意して待っていてくれるわけではない。コンビニ弁当という気分でもないから、ちょっとだけ今日は贅沢しよう。
一人で飲食店に入るのは苦手だけれど、一人で部屋で食事をとりたくないときにはときどき飲食店を利用する。……一人でも入店しやすいファミレスに。
「あ、先輩、布山先輩じゃないですか?」
店頭で案内を待っていると、レジにいた女性に声をかけられた。
「あ」
前の会社の……後輩の子だ。
お局様うざい。
彼女の言葉が頭に響く。
「先輩、なんで急に会社を辞めちゃったんですか?」
その言葉の裏を必死に想像する。
飲み会に来るなという意味なのに空気読めよって言われたのだ。
「戻ってきてくださいよ。みんな先輩が辞めちゃって困ってるんです」
違うよね。本当は……。お局様がいなくてせいせいしたと思っているんだよね。
「……先輩が辞めてから、課全体でミスが増えて、営業の人も成績ボロボロになってる人いっぱいいるんですよ。クレーム電話も増えて、一人ノイローゼになって会社休んでるし。本人は、鬱だと言ってるみたいだけど、どうかなぁ」
どこまで本当なのか分かったおのではないし、数か月もすれば私一人いなくなった穴くらいすぐに埋まってもとに戻るでしょう……。きっと。
「お待たせ、あれ?誰?」
レジを終えた彼氏だろうか?に、後輩が声をかけられる。
「えっと、元会社の先輩の布山さん」
「ああ、噂のおt……お疲れさまです」
お局様と言おうとして、とっさに言い換えました?彼氏さんにもお局がうざいとか噂してるんですね。
「あれ?俺、布山さん見たよ、今日」
「え?」
「事務用品の店で、なんか彼氏と一緒のとこ」
は?
「えー、先輩、彼氏いたんですか?」
事務用品の店というと、あそこか!一緒にいたと言えば、社長です。
「いえ、彼氏じゃ……なくて」
新しい会社の社長だと説明しようとしたところで、後輩の彼氏さんが言葉をかぶせてきた。
「なんか、いっぱい荷物もって頭下げてたけど、年下の彼氏?」
うぐ。
なんか見られるといやなシーン見られてた?
「えー、先輩の彼氏年下なんですか?荷物持ってくれていいですね」
後輩の言葉に、いい年して年下の彼氏ですか?荷物持ちさせるなんて最低ですねと副音声が聞こえる。違うから!
「正直なところ初めさ、年下の男に全部荷物持たせて、めっちゃ頭下げさせてるし、パワハラ上司が部下に無理難題押し付けてるのかと思ったんだよね」
という言葉に、ああ、やっぱりそう見えたか……と。ため息しか出ない。後輩はきっとお局様ならやりそうだとでも思っているんだよね。




