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「あー、なんか料理のコーナーがある。日本食の話を何度もしたから、日本食のこと興味持ってたんだよな~。箸は見本を送ったけど、ちっとも売れなかった。なんかいろいろ送ってみようかな……」
箸が売れないって……。そりゃ、知らない国ならただの棒2本にしか見えないですし、送るだけじゃ……説明しないと。
しかも、説明したとしても、日本食とセットでなく、箸だけを普及しようとしても……なんの魅力もないんじゃないかなぁ……。
「茶こしか、これ、売れないかなぁ」
社長が茶こしを手に取った。
「紅茶が普及しているのであれば、似たようなものはすでにあるのでは?
緑茶を入れてお湯を注いで使うタイプの茶こしとは別に、紅茶の茶葉を入れて沈めておくタイプや、紅茶を継ぐときにカップに引っ掛けて茶葉が入らないようにするタイプのものとか……。
「あー、うん、あるのかな?まぁ、いいや。まとめて送るだけだから。ついで、ついで。向こうで作ろうと思えば再現できるものなら、値段もそこまで高騰しないと思うし。商品としては扱いやすいんだよね」
再現?
社長が籠に入れているものをよく見ると、プラスチックが使われているものがない。
やっぱりプラスチックはNGなところみたいです。化学繊維も環境には悪いんですけど、いいんですかね?作業着……。大量に注文済だけど。
……それから2時間。たっぷり100円均一を回りました。
正直、ちょっと疲れたよ。
「はー、買いすぎちゃったかな……」
大きな袋5つ。社長が持っています。
「あの、私も持ちますよ……」
「大丈夫、僕は力ありますから」
にこっと笑ってはいるけれど、いや、5つも大きな袋を下げている隣を手ぶらで歩くのもちょっと申し訳ないというか。
「社長、もし従業員に荷物を持たせるのがパワハラだとか思っているのならそういうこと思いませんし、えっと、さすがにすごく重たいものは無理ですが、私だって、普通の力はありますから!」
と、強引に袋2つを奪うようにして持つ。
「ありがとう。涼子さん。でも、本当に、あ、あの、待って!」
まだグダグダ言いそうだったので、そのまますたすたと本来の目的の事務用品の店に向かって歩き出す。
ちらりと振り返ると、ちゃんと社長はついてきてくれている。
ペンに付箋、クリップ、マグネットといったこまごまとしたもの。のり、テープ、ガムテープ、消耗品はどうしているのか社長に尋ねながら。
それから事務所にあると便利だろうと思った少し大きなもの。ホワイトボード……は、さすがに荷物になるので……電車移動なのであきらめました。
「持てますよ、大丈夫です」
「いえ、あの、他の荷物もありますし、大きくてほかの人の邪魔にもなりそうですし……。ああ、車で来ればよかったですね……」
社長が首を傾げた。
「車で?あ、タクシー?」
「いえ、すいません。通勤に使ってる自家用車……では、何かあったときに困りますよね?」
事故を起こしたときとか。
「そうでした!涼子さん車の運転ができたんですね!あ、僕も免許を取れば運転ができるようになるんだ。そうか、買い物……荷物……いっぱい買った時に車で運べば確かに便利ですね。社用車っていうんでしたっけ?会社で車を買いましょう」
「え?いや、社長、そんな思い付きで……」
「いい思い付きだと思いませんか?」
社長がニコニコと笑っている。
確かに、社用車があれば、何かと便利にはなるとは思いますが……。費用対効果を考えると、そこまで必要かな?いや、社長が免許を取るなら、どちらにしても車を買おうと思うでしょうし。
「……車の資料をご用意いたしますね。荷物を運ぶための社用車……確かナンバーの違いで税金が安いとかいろいろあったと思いますし。保険のこととか税金のこととか……」
社長がはっと口をつぐんだ。
「ご、ごめんなさい。涼子さんの仕事を増やしてしまって、車は、えっと……、あー」




