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「あー、思い出すなぁ……チェックペンと下敷き……。あの時は勉強なんてしたくないと本気で思っていたけれど……今となってみれば、もっと勉強しておけばよかったなぁ。なんだかんだ、中学まででいろいろ大事なことならってますよねぇ」
社長が、赤ペンと緑の下敷きがセットになったものを手に振り返る。
いろいろ大事なことかぁ。
社長が何を指して言っているのかはよくわからない。中学の時に習った事と、高校で習った事が記憶の中でぐちゃぐちゃになっているから。
社長は……高校に行けなかったと言っていた。それでも、たぶん……別のところで大切なことは学んだんじゃないかな。
人を思いやることとか……。
「社長、知っているとは思いますが、高校卒業資格は学校に通わずに仕事しながら通信教育でも取得できますよ。大学や専門学校も通信教育もありますし……さすがに、何でもかんでもというわけではありませんが……」
社長が私を見た。
「うん。ありがとう。就職を考えれば高校卒業資格があったほうがいいんだろうけれど、今は自分で会社を作ったから必要ないかな。必要になったら考えるよ。だって……高校生活は……今からじゃ送れないから……一緒の高校行こうぜって約束、守れなかったのにさぁ……。誠とか、皆、僕のこと15年も経ってるのに……あの時のままのように、受け入れてくれたんだよ……」
誠?
ああ、花田誠さんといったっけ。花田硝子の。
花田さんは、花田さんで社長が全然変わってなかったって言ってたな……。
「高校生活なんて3年ですよ。100歳まで生きるなら、あと70年。花田さんともほかのお友達とも、70年も一緒です。お互いに恥ずかしくない生き方しないとですね!」
とは言ってみたものの……。友達と離れ一人海外に行くことになってしまった少年時代の社長を思うと胸が痛む。
きっと、大変だった。きっと寂しくて苦しくて……。日本を恋しく思い、作って食べたうどん。どんな味がしたんだろう。
「そうか、涼子さんともこれからずっと一緒ですね」
にこりと社長が笑う。
ずっと一緒?いやいや、社長、またなんかちょっと誤解しそうなセリフですよ。誤解しませんけど。
「ずっと一緒……定年まで働けば、30年くらいですかね……」
「本当に、高校生活の3年て短いんだ。これからの30年のほうがよほど大切ですね」
これから30年……定年まで働けば、ずっと社長と一緒……。
うわー。転職せずに同じ会社で働くのって、すごいことなんだ。
会社の人と、ずっと一緒……。親元を出た人なら、親よりも長い期間毎日のように顔を合わせる人が、会社の人……。
「ああ、そうだ。砂時計も置いてあると思いますよ」
ぼんやりとしている場合ではないのを思い出す。
「わー、すごいなぁ、これも100円なんだ……あれ?倍の値段で売るつもりだけど、さすがに200円は安すぎる気がしてきた。うーん、もうちょっと高い砂時計を探した方がいいかな。こう、なんか装飾されてるのとか?」
ああ、さすがに100円の儲けがあるとしても、100個売っても1万円……。送料手数料など考えると確かに微妙ですよね。
「うーん、さすがに100円を1000円とか言えないよなぁ……。まぁ、数を送らなければ希少品として100万出してもほしいっていう人はいるだろうけれど……」
ひゃっ、100万?100円均一の砂時計一つが?いやいや、さすがに、ないでしょう。
「まぁ、とりあえずいくつか買って見本として送るかな。値段は……未定」
いくら現代文明を受け入れていない国……いえ、村?よくわかりませんが、そういうところだとしても……。
むしろ、社長以外の誰かが目をつけて100円均一の商品を売りに行けば大儲けじゃないでしょうか。そういえば、日本円で受け取れなかったからと見せてもらった金貨や宝石……。
宝石の値段は鑑定してもらったものだけでもかなりな値段で……。豊かな国?いや、村?やっぱり国?宝石の産出国とか?ならば、まぁ、宝石の価値が世界とちょっとずれてる可能性も……。というか、悪い人に騙されて宝石の値段が不当に低く扱われてたり?
まさかね。さすがにそんなことはないと……。




