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「日本食がどうしても食べたくて、米がなかったけど、小麦があったからうどんを作ったことがあったんですよ」
「へぇー、うどんって、こしを出すのってむつかしいんですよね。水加減も大切ですし、うどんやって足で踏んだりしてしっかりこねないと」
「そうなんです。むつかしいんですよ。なんとなくの知識かなくて、小麦粉を単にこねて細く切ればいいと思ってたから……できたうどんはひどいものでした。だけど、僕には最高のうどんだったんです……」
何を言っていいのかわからなくて黙って頷く。
「出汁を取るすべもなかったし、醤油すらなかったので、塩とネギで食べたんです。それまでネギなんて嫌いだったんですけど、それ以来ネギは好きな味じゃないけど、大好きになったんです」
味は嫌いだけど好きな食べ物か……。
「日本におかえりなさい」
「はい。あ、そうだ。さしみなら食べられるかと思って生魚食べたことあったんですけど、危険だからやめた方がいいですよ。素人が手を出すものじゃない」
「ああ、確かバラムツという魚の油は人間が消化できないからお腹を下すとかありますもんね。でも見た目はタラの身に似てるし、食べるとすごくおいしいそうですよね。魚って本当素人はわからないですよ」
と、ランチミーティングというのはまるっきり会社の話とは関係ない会話をしながらうどんを食べる。
……あ、でも、社長の過去話は、取引先の国のことを知ることになると考えれば、まるっきり仕事に関係ないわけじゃないのかな?
「ごちそうさまでした。では、買い物に行きましょう!」
大型文具店に向かう途中に100円均一を見かける。
「100円均一に寄っていきますか?」
「え?何を買うんです?」
社長がびっくりした顔をする。
「もしかして、行ったことないですか?」
確かに客層は女性や子連れが多い。男の人が一人でうろうろしているのはあまり見ないような気がしないでもない。
だけど、男性向けの商品もたくさん置いてあるし……何が入りにくいんだろう?
一旦、入ってしまってからの社長は……。
「え?これも100円?」
を何百回となく繰り返してました。
「涼子さん、付箋が売ってます」
知ってますよ。
「付箋は、100円均一のものでも十分使えるんですが、品質にばらつきがあるんです。粘着力が弱かったり強かったり、時間がたつとはがれやすくなったり。短期間自分で使用するものはいいのですが、誰かに伝えるために必要があって試用する場合はやはり安定した品質の……多少値段は高くはなりますがメーカー品を使った方がいいような気はします。でも、個人的には100円均一の付箋好きなんです。デザイン豊富ですし、ついつい、買いすぎちゃうんですよね」
「いくつか買ってみようかな」
社長が付箋を真剣な目で見ています。
これもいいな、あれもいいなと。……ですが、付箋が好きな私から言わせてもらうと……。
「社長、買ってもたぶんあまり使う機会はないと思います。定番のこういったものが一番仕事で使いやすいです」
「え?そうなの?あー、でもこれなら使えそうな気が……うーん」
と、まだ悩んでんす。
いえ、本当に使う機会は驚くほどないです。かわいい!と犬ちゃん付箋買ったけれど、手つかずですし。学生なら友達とのやり取りでいろいろ使うのかもしれませんけれど……。
「社長、蛍光ペンはここにありますよ。個人的な意見を言えば、100円均一でもそうでない商品でもあまり品質に違いがないような気がしますが、その分うっかりすると、100円均一のほうが高いです。80円くらいで売っていたり、まとめ買いすれば1本あたり40円くらいだったりすることもあります。ですから、買うなら、4色セットのものなら損はないかと……とはいえ、使う色と使わない色が出てくるので、使いやすい色を次からは買い足す方が逆に損しないとは思いますが……」
社長が今度はペン売り場を真剣に見ている。




