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【書籍化】お局様!三十路OLの転職~株式会社異世界商事へようこそ~  作者: 富士とまと


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 社労士の景山先生はとても良い方でした。50代の女性。ふわりと柔らかい口調で、分かりやすくいろいろ教えてくれました。

「必要な書類はこれね、リストと現物をお渡ししておきますわね。提出場所はそれぞれ、管轄の……ああ、会社の住所だとこちらになるわね。私の方ですべて代理処理することもできますが、涼子さんはある程度覚えたいということでしたので、ご自身でした方が覚えられますからね。わからないことや確認したいことがあればまた相談してくださいね。そうね、何か処理が必要なのは、こういったときね。労災だとか育休だとか退社だとか、代表的なものはこちらを参考にしてくださいね。社員が増えたり、バタバタといろいろなことが立て続けにあるようであればあれですけれど、そうでなけれ……」

 無理に顧問契約を迫ることもなく、こちらでできそうな資料までそろえてくれて……。

 ああ、またお願いしよう。従業員が増えて顧問をお願いするときは絶対景山先生にお願いしようと思ったし、花田さんが社長に紹介してくれたように、必要としてる人がいたら絶対紹介しようと……そう思いました。

 ……まぁ、あれだ。顧問をお願いする決定権は社長にあるんだけど。社長に直談判しなくちゃ。

「ありがとうございました。またよろしくお願いいたします」

 たっぷり3時間話をしていただいた。

 もう13時だ。

 社長が困った顔をする。

「えっと、涼子さんこんなときどうしたらいいんでしょう」

 こんなとき?

「普通なら、昼休憩を1時間取っていただく……んですが、出先の場合は、えーっと……1時間後に集合とか?」

「ふふっ、修学旅行みたいですね。えっと、いろいろなパターンがあると思いますよ。別行動で完全に休憩時間とするか、休憩時間だけれど一緒にどこかでご飯食べるか、半分仕事ということで、ランチミーティング的な扱いにして、休憩時間が取れなかった分退社を1時間早めてもらうとか、会社に帰ってから改めて休憩時間を取ってもらうとか……。それから、えーっと……」

 今までどんな感じだったかなぁと思い出す。時々社外への用事で人と出かけることがあった。

 一人になりたいんでという人と一緒のときは、完全に別行動だったこともあるけれど。ほとんどは何時から何時とはっきりした休憩時間はなく、だいたいで、食事を一緒に取ったり、歩き回って疲れたらお茶でも飲んだりという感じだったかな。まぁ、そもそも、外回りの仕事じゃないのであまり昼を挟んで出ることはなかったんだけど。営業の人とかはどうだったかな?

「涼子さんは今日はお弁当ですか?」

「いえ、さすがに今日は違いますよ」

「じゃぁ、あの、迷惑じゃなければランチミーティングということで、一緒に食べませんか?もちろん、会社のお金です」

 社長がきりりと表情を引き締めた。

「えっと、こういうのは、女性をご飯に誘うセクハラとかじゃないですよね?あの、本当、一人で食べたければ断ってくれていいので、あそれでも、昼ごはん代は支給しますから……」

 社長……。こう、毎回毎回、セクハラじゃないですって言われると、逆に「女性としてなんら魅力を感じていないので、セクハラという意味合いはゼロですが」と言われているようで、ちょっと複雑ですよ。

 あれ?

 私、今までも会社で女性として見られたいなんて思ったこと一度もないのに、どうして複雑な気持ちになってるんだろう?

「社長がご迷惑でなければ、ご一緒させてください。一人で店に入るの苦手なんです」

「あ、はい。よかったです。僕も一人で入るの苦手なんです。特に、あの、なんかカウンターで注文するコーヒー屋とか、もう全然メニューがわからなくて、なんか後ろに人がいっぱいならんじゃうのが気になって……なんで、皆あんなにすらすら注文できるんでしょう……」

「それは、私も苦手です。いつも同じの注文しちゃいます。案外、他の人もいつも同じの注文してるからすらすら言えるのかもしれませんよ?あ、でも前の会社の後輩の子は、新作出るたびに言っていたから、事前にチェックしてるから戸惑わないのかもしれないです」

 と、話をしながら店を探す。

 駅周辺はそこそこビルが立ち並んでいて、商業ビルには多くの飲食店が入っている。いろいろありすぎて逆に選ぶのが大変なくらいだ。

「涼子さんは何が食べたいですか?」

「なんでもいいですよ。好き嫌いもアレルギーもないです。あ、辛いものだけはだめです。社長は?」

 社長の視線が何かをとらえた。

 飲食店の看板だ。

 肉がもりっと乗ったどんぶりの写真。どんぶりより高く肉が積み上げられている。

「社長、肉が好きなんですか?」

「え?あ、いや、特に肉が好きってことじゃないけど、涼子さん紅茶が好きだって言ってたから……」

「え?」

 社長が視線を向けていた看板を見る。

 肉が山盛りになっている店が2階、3階は紅茶専門店の看板だった。

「あれ?社長が見てたの、そっちですか……」

「涼子さんが肉が好きかって聞いたのはそれですか……」

 二人で顔を見合わせて笑う。

「ふっ。クリスマスプレゼントみたいですね」

 社長が嬉しそうに笑った。

「ああ、時計の鎖を買うために髪の毛を売っちゃったあの話ですか?」

 というと、さらに社長が嬉しそうな顔になる。

「そうです!そう!あ、はは。そう。……。そうなんです……」

 ん?なんだかちょっと泣きそうな顔してません?

「話が通じるって、いいですね。向こうでは……ちょっとしたことが、通じなかったから……」

 ……そっか。……でも、クリスマスプレゼントってもともと日本の話じゃないから、通じる国もあるとは思いますけどとは言わない。

 ぐぅーっと社長のお腹が鳴る。

「なかなか店が決められないですね。正直に食べたいものをせーので言いませんか?」

 お互いが食べたいものを想像して譲り合うのは心は温まりますが、お腹は膨れませんし。もう13時過ぎていてかなり私もお腹がすいてる。本心を言えば、もうなんでもいい!

「分かりました。じゃぁ……せーの」

「「うどん」」

 思わず顔を見合わせる。

「さっきから、おいしそうな出汁の匂いしてますもんね」

「じゃぁ、入りましょう!」

 社長が、うどんを食べながらぽつぽつと思い出話をした。

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