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「入学した。いや、入校?あの後すぐに電話帳で自動車学校、あ、自動車教習所?のこと調べて電話して申し込んできた!涼子さんが教えてくれたように、夜も授業あって、あ、あと土日も授業があるから、働きながらも免許取れるって!車の免許だけじゃなくて、バイクとか、あとバスとかトラックとかいろいろな免許が取れるみたいで、車の免許取ったら次はバイクの免許を、小型中型大型ってとっていこうかと思って」
……おっと。
長年免許がほしいと思っていた反動なのかな……。今度は取れるだけいろんな免許取ろうに針が触れたようです……。なんだかいろいろごめんなさいまりちゃん。と、つい心の中で謝る。
「大型バイクの免許は、力がいるって聞きました。倒れた重たいバイクを自力で引き起こせないと免許が取れないとか……」
「僕はこう見えて力持ちなんですよ」
社長が楽しそうに笑う。
ふと、この間の回し蹴りを思い出す。
「ああ、格闘技かなにかやってるんですよね?」
「うん、まぁ、その……そう、格闘技というか、なんか、えっと、必要に迫られて……」
空手の達人だと思われたから、実際に空手を習ったとかいう感じ?聞かれたくない話のようなので話題を変えよう。
「そういえば、事務所には、来客はありますか?ダイニングとか」
「あー、来客、あるといえばある、かな?まりも時々くるし、取引先のあっちの国の人間が、呼んでもいないのに押しかけてくることも、ないことも……」
押しかけてくる?
そういえば、会社の事務所にしては、木が多いと思ったんだ。もしかしたら、取引先の国の人たちのことを考えて木をふんだんに使っているのかな?
ファイルなどおいてある事務所の奥の部屋の棚も木製のものだったし。
「来るなと言ってあるし、来ても、倉庫から出さないようにするから」
倉庫から出さない?
「せっかく、わざわざ日本にいらしてくれるんですから、逆にどこか案内しましょうか?」
「とっ、とんでもない!外に出すわけにはいかないというか、出たら帰れなくなってしまうと言ってあるので、出ないとは思いますが」
ああ、現代文明を見て触れると、元の世界に戻れないみたいな感じですかね?
だから倉庫から出さないと?
もしかして倉庫の中……扉の中は、現代文明シャットアウトした部屋になっているとか?
「分かりました。えーっと、あとは花田さんとか打ち合わせなどで来ることはありますか?ダイニングテーブルを使うのであれば、靴を脱いだ後に履けるスリッパも用意したほうがいいかと思ったんですけれど」
「来客って、そっち?」
「はぁ、そっち?というのは、日本の人かって意味でしょうか?でしたら、そうですが……」
「あー、そうか。スリッパ。気が回らなかった。確かに、畳じゃないし、板張りだし、スリッパあった方がいいか。うん、じゃぁ、今日はスリッパも買いましょう。ほかに何があるといいですか?」
本当に社長は楽しそうだ。
けれど、ふと気になった。
スリッパといえば、耐久性や衛生面も考えると業務用だとビニール素材になりがちだけど……。ダイニングと考えればもう少し上品なものがいい気がする。あちらの国の人はビニール素材はアウトという気もするし。化学繊維ももしかしてダメなんじゃないのかな?作業着って、綿100%とかじゃなく、めいっぱい化学繊維だった気が……。防水加工もしてあるし……。
まぁ、社長がいいというなら大丈夫だと思っておこう。何がどこまでダメなのか、私はわからないし。
綿100%ならいいのか、綿でも化学的に脱色された真っ白なものはダメとかそこまで厳しいのかわからないし。手織りじゃないとダメとかそもそも糸から機械で作られてたらダメとか……と、いうことはないのかな。ざっくり電気を使った生活はしないという感じ?
よくわからないけど、まぁ相手とのやり取りは社長が任せてくれと言っているんだから、問題があるかないかは社長が判断するからいいんだよね?スリッパも、見てからどれがいいか決めてもらえば。
事務所ゾーンの事務用品に関してはいろいろ意見は言わせてもらうとして。




