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【書籍化】お局様!三十路OLの転職~株式会社異世界商事へようこそ~  作者: 富士とまと


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「じゃぁ、ネジまき式の時計は?知ってますか?」

「ねじまき式?」

 ぐるぐるとネジを巻く動きをして見せる。

「昔は、腕時計もねじまき式だったんですよ。時刻合わせみたいなつまみが付いていて、回すとネジが巻ける。それから、ブリキのおもちゃの背中についているような小さな羽みたいなのが付いたネジで、かべどけいのネジを巻くんです」

 社長が私の動きを見てネジを巻くのを想像している。

「……え?あれ?ネジを巻くとどうなるんですか?動き回る?オルゴールが鳴る?あ、わかった、鳩が出るんですね!」

 ごめんなさい。一番初めに鳩時計を出した私が悪いんです。

「いいえ、時計が動くんです。振り子時計の振り子も時を刻むためにぶらぶら揺れていたんですよ。ねじまき式の時計は、1日1回ネジを巻けば毎日使えます。巻き忘れると止まっちゃいますから、昔の人は朝起きるとまず壁時計のネジを巻いたそうですよ。子供の仕事だったりした家庭もあったんじゃないですか」

 ポカーンと社長がしている。

「え?電池がなくても、1日1回ネジを巻くだけで、1日中時計が動くんですか?嘘、オルゴールとかせいぜい数分で止まっちゃうじゃないですか……」

 そういえばそうですね。なんで時計のネジはあんまに長時間持つんだろう。

「詳しいことはわかりませんが、本当ですよ。今でもまだ売ってるかな?あああ!、もう1分経ちました、社長!」

「はっ、そうですね、あ、えっと、カップに注いで、砂糖入れますか?」

「大丈夫です、あとは自分で」

 わたわたとしながら紅茶をカップに注ぎ、ゴールデンドロップを落とすことも忘れない。紅茶の最後の一滴をゴールデンドロップって言うんですよ。

 口元に持っていくと、ダージリンよりも甘めだけれど、フルーツのようなにおいではない。かすかに黄な粉のような香ばしい香りもする。

 一口飲むと、今まで一度も飲んだことのない少し癖の強いお茶の味が広がる。苦くはないけれど、紅茶とほうじ茶の間のような味だ。

 砂糖を1杯入れて、もう一度飲む。

「うん、おいしいです。洋菓子にも和菓子にも合いそうな味ですよね」

 ほうじ茶よりだと思えば砂糖なしで和菓子を食べながら飲むのもよさそうだ。

「じゃぁ、今度和菓子買ってきますね」

「福利厚生にはなりませんよ?」

「僕の感謝の気持ちです」

 にこっと社長が笑う。

「じゃあ、私はクッキーでも」

 持ってこようかな。友達からもらったアミューズメントのお土産の缶入りクッキーがあったし。

「焼いてくれるんですか?」

 社長が目を輝かせていた。

「あ、持ってくるだけです。焼きません」

「そ、そうですよね。あの、ごめんなさい、勘違いしました……クッキー、そうですよね、あはは」

 手作りクッキーにどれだけの思い入れがあるのか知りませんが……。

「市販のクッキーのほうが、何倍も美味しいですよ」

 慰めになるか分かりませんが、事実を述べる。手作りには手作りのおいしさはあるけれど、やはり有名店の超人気クッキーを一度食べると「別え物!」と感激ひとしおだ。何が一体違うのか……。

「お茶、気に入ってもらえてよかった。お茶の葉、まだいっぱいあるんで好きなだけ飲んでくださいね」

 社長が話題を変えた。

「社長、砂時計も買っていいですか?」

 取引先から見本として提供してもらった紅茶を試飲するための備品という名目なら、問題なく会社の経費で落ちるはずだ。何も、私がせっかくだから美味しい紅茶を飲みたいと思って言っているわけではないです。

「あ、うん。そうだ、時計だ、時計。砂時計と、電池がいらない時計、見本でいくつか送ることにするから、10個ずつ買ってくれる?」

「はい、わかりました。砂時計は、何分のものを買いましょうか?このお茶は1分で飲み頃になりますよね?ですが茶葉によっては、2分3分と違うこともありませんか?」

 社長がうーんと考えた。

「じゃぁ、いろんな時間の砂時計を用意してもらえるかな?」

「分かりました。で、時計は私もどんなものがいくらくらいで売っているのか分かりませんので、後程調べて資料を作ります」

「お願いします」

 はー。お茶美味しい。

 癖になる味かも。


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