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【書籍化】お局様!三十路OLの転職~株式会社異世界商事へようこそ~  作者: 富士とまと


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「社長!私が教えますっ!会社には必要です。社長に決断を求める場面で、社長と連絡がつかないと困ることが今後出てくると思います。私という社員が増えたのですから、必要なことですっ」

 社長の目が輝く。

「社員、そうだよね、社員のために……」

「スマホじゃなくて、携帯電話を持ちましょう!それなら、社長もすぐに使い方覚えられますよ。難しい操作はありませんし」

 何回か教えればさすがに使えるよね?固定電話とそれほど使い方が違うわけじゃないから。

「本当に難しくないかな……?」

 社長の顔に不安が浮かぶ。

「かかってきた電話を取るのはボタン一つなんで大丈夫ですよ。めんどくさい電話帳登録など、私が手伝います。それから、えーっと……」

 社長の顔が少し明るくなる。

 それにしても、なんだろう。携帯電話やスマホ使えないことが実はすごくコンプレックスだったのかな?使いたいけどわからないのが怖かった?老人であれば使えないことが前提で使えればすごいと思われるから尋ねやすい。若者は使えることが前提だから使えない人は恥ずかしいみたいな感じだったのかな?単にまりちゃんに「お兄ちゃんダメだわ」みたいに言われてあきらめてた?

「私が教えます。社長!」

 どんと胸を張る。

「ありがとう涼子さん、でも、涼子さんに迷惑なんじゃ……」

「社長の携帯電話じゃないですよ、会社の携帯電話!それならどうです?会社が社員に携帯電話を支給しているところは多いんですよ。知らないんですか?個人で使うものより機能が制限されてるものとか、定額で話し放題になる会社用プランがあったりとかもするんです。だから、えーっと、会社で必要なことを社員同士で教えあうのは別に普通ですよね?前の会社でも、私、課長とか上司にもエクセルのマクロの組み方とかいろいろ教えてましたし。その……私に教えさせてもらえますか?」

 あれ?おかしい。

 なぜか、私が社長にお願いする形になってしまった。

 うーん。まぁいいか。お願いされると断れないんじゃないかな?社長の性格からして。これで、携帯アレルギー(?)が治ればめっけもんでしょう。

「あ、はい、あの、よろしくお願いします」

 ぺこりと社長が頭を下げる。そしてぱっと頭を上げて。

「会社用の携帯って、社員に持ってもらうことができるってことは、えっと、僕と涼子さん、お揃いのになるんですよね?」

 は?

「まりはガラケーなんて持ちたくないって言うかなぁ……。でも、利用料金は会社持ちだと言えば喜ぶかな?なんでスマホじゃないのと怒るかなぁ」

 ……会社の携帯を、持つんですか?私も?

 まぁ、言い出しっぺは私ですけど、事務所内の仕事が多いと思うんですけど……と、思っていたら、そうでもありませんでした。


 次の日、まりちゃんに会社設立時の話を聞きに出かける。

「兄がさ、まだ日本語の読み書きに慣れてなくてさぁ。えっと、日本を離れてた時、全然使ってなかったから文字とか半分以上忘れてて。何とか今は小学生レベルまでは読み書き戻ったけれど……。で、私も説明聞いたり、書類書いたりと付き合ったんだけど」

 ああ、そうなんですね。

 確かに15年も日本語使わなければ忘れそうですよね。しゃべり方は普通なので、まさか読み書きが苦手なんて考えもしませんでした。

 メールやファックスさえ使わずに電話ばかりというのは、それも理由の一つなのかな……。

 そうか。そうなると、スマホにしても新しいものを使おうと思うと「説明書を読めない」って不安もあるわけですよね。

「正直、なんか右耳から左耳でよく覚えてなくて、ごめんね。書類関係だけは、ちゃんと兄がファイリングして保管してると思うんだ。で、えーっと、社会労務士の……えっと」

「景山さんですか?」

「そうそう、景山さんに何でも相談すればいいって。えーっと、相談料とかなんかそういうのも紙もらった気がする。うんと、涼子さん、ごめんね。兄があんな調子だから、しっかり話聞いてくれるかな?これからほかに社員が増えていったときにどうすればいいかとか、そういうことも……」

 まりちゃんの言葉に頷く。

「分かりました。私がどこまでできるか分かりませんが話を聞いてきますね」

 まりちゃんが笑った。

「お兄ちゃんのことお願いね」

 ……。あれ?

 花田さんにも社長のこと頼まれましたが、これ、返事に困るんですよね。任せてくださいというのもおかしな気がして。

「あ、そうだ。忘れていました」

 というわけで、話題をそらそう。

「会社用携帯電話を法人契約で導入しようという話があるのですが……スマホじゃなくてガラケーを。えっと、社長が言うには、私とまりちゃんにも渡すと……」

 まりちゃんの顔がゆがんだ。

「ガラケー……って……」

 あはは。まりちゃん世代だと、ガラケー持ってるだけでかっこ悪いって思われちゃうのかな?

「まだ、調べてないので分からないんですが、ガラケーとスマホと混ぜて契約も可能ならば、スマホにすることもできますが、その……会社支給のスマホはあくまで仕事にしか使えないということになるので……。個人でスマホ所有していて、ときどき仕事の連絡にも使わせてもらうということで「通信補助費」というお金を従業員に支給するという方法もあったと思うんですよ。そのあたりも景山さんに会った時に相談してみますね」

「通信費補助費!そっちがいい!涼子さんありがとう!なんだか、涼子さんがいてくれれば、すごい会社になりそう!兄だけだと、もう正直不安しかなかったけど!」

 まりちゃんが嬉しそうだ。

 うん。笑顔が社長に似ています。ほっとする顔です。

 ありがとう。出しゃばりだなんて思われないことが幸せだよ。

 まりちゃんと別れてから、会社に戻る。

「社長、まりちゃんに社長はちゃんといろいろな書類をファイリングして取ってあると聞きましたが、どこにありますか?」

 社長はダイニングテーブルに何かを広げて書いていた。

 なんだろう。

「書類?うん、ちょっと待ってて、あ、いや。ついてきて。

 事務所のドアから出て、奥の部屋に社長が入っていく。その後ろをついていく。

 奥の部屋は窓もなく、ドア以外の四方の壁が棚や本棚になっていた。


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