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「お世話?まぁ、ちょっとなんか話はしたがな、世話ってほど世話もしてないよ。あーそう、うちが世話になってる税理士さんと社会労務士さんを教えたくらいかな?あー、なんかあとはまりちゃんが宗太とあちこち走り回ったんじゃないかな?」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「いやいや、それよりも、何か問題でもあったか?宗太のことだから、パワハラとかセクハラをするようなことはないとは思うから、その、そういう風に感じる何かがあれば、悪気はないんだ。単に常識がおかしいだけで、俺がガツンと言ってやるからな?給料が安すぎるとか人使いが荒すぎるとか、他にも何でも言ってくれ。本当に、宗太には悪気がない。もちろん、悪気がなければ何をしても言い訳じゃないんだが、その、俺がちゃんと宗太に教えるから、二度と同じ過ちは犯さないはずだからな?」
ふふふ。
「お気遣いありがとうございます。大丈夫ですから。社長……あ、栗山にはよくしていただいておりますし、セクハラパワハラにならないように常に意識した行動を取ってくださいています。ありがたいことに、気になったことを伝えるとしっかり話を聞いてくださいますし、改善にも積極的です」
大切な友達なんでしょうね。
「そうか。あいつのこと、頼むな」
真剣な声に、どう答えてよいのかちょっと考える。
任せてください!というのもちょっと違う気がするし。
「私、実は……会社に入るかどうかの決め手になったのは、花田硝子さんからの電話なんです。昨日の……」
「どういうことだ?」
「昨日も同じように、社長のこと心配することを花田さんがおっしゃっていて……。ああ、周りの人に心配してもらえるということは、いい人なんだなぁとそう思って。信用しても大丈夫じゃないかと、そう思ったので」
社長がキッチンに飲み物を取りに立った隙に、社長に聞こえないように声を潜める。
「ああ、そういうことか。あいつは本当にいいやつなんだよ。自分も大変なくせに、いつも人のために身を削っちゃうからなぁ……中学んときもそうだったが、帰ってきてからも変わってねぇんだよ。親の代から引き継いだ硝子屋だけど、経営難でな、畳もうかと漏らしたら……仕事をとってきてくれたんだよ……他にも、いろいろ助けてもらった。だから、今度は俺が、宗太の会社を助けたいんだ。なんかあったら相談してくれ。宗太、一人で抱え込む癖あるからさ」
そう……なんだ。
社長はただ、人がいいだけで周りから心配されているだけじゃない。
人のために動いてきたから……。人のために生きてきたから……だから、周りの人も社長のために何かしてあげたいって……思うんだ。
私も、社長のために何かしてあげたい。
……前の会社で……お局様と呼ばれ、陰で皆に笑われていた。
教えたがりだと言われ、指導していたつもりがうっとおしがられ……よかれと思って話をしたことも、めんどくさいことだと……。
人が怖くなった。それでも、話し始めるとつい、言わなくてもいいことまで口にしてしまう癖はすぐには治らなくて……。
だけれど、社長は、そんな私の話をすごいと聞いてくれて。いつもニコニコしてくれて……。
「ありがとうございます。あの、私も……救われた一人です。これからもよろしくお願いいたします」
電話口で静かにふぅっと笑う声がきこえた。
「ああ、よろしく頼む」
税理士さんと社会労務士さんに相談したのであればちゃんとしているはずだ。あとはまりちゃんに話を聞いて。
入力前に名刺を簡単に確認する。
「あった」
社会労務士と書かれた名刺。それから税理士と書かれた名刺も。