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アイウエオ順にインデックスがあり、そのページをめくると手書きで名前と電話番号が……。
花田硝子を調べようと、「は」のページをめくる。
……ない。
「社長、花田硝子さんの電話番号が乗っていませんが」
「え?あ、ごめん、誠の名前でかいてあるから、まにあるよ。花田誠」
……会社の電話帳として、全く使えない。
「社長、お時間がある時で構いませんので、この電話帳を整理させてくださいっ」
パラパラとほかのページをめくると「さっちゃん」だの「よしろう君」だの、おおよそ取引先名簿とは思えない名前が並んでいる。
「それから社長、差し支えなければ名刺を見せていただけますか?今まで名刺交換などした相手の名刺も、加えますので」
「交換はしてないけど、もらった名刺ならあるよ」
交換してない?
名刺を作ってないってこと……のような気がします。これも後で話をしなければ……。社長の名刺は当たり前として、私の名刺も作ってもらおう。なんか、社長の代わりに取引先と話をすることも多くなりそうですし……。自分から言うのも申し訳ないんですが、何か肩書ももらおう。営業部長……いや、部長はさすがにちょっと偉すぎるかな。営業1課、課長補佐……とか。いや、課長がいないのに補佐だけいるのが怪しいか。とりあえずそのあたりはまた要相談。こういう場合はどうしたら最善かネットでも調べないと。
社長が机の引き出しからばらばらと名刺を取り出し、一生懸命重ねてトントンしている。
……まるっきり整頓してませんね……。
こめかみを抑える。
大丈夫です。わかりやすい仕事があったほうがありがたいんです。
ええ、私、何をすればいいか分からないよりも、はっきりわかったほうが働きやすいんですから。
電話帳と名刺のデータをとりあえずエクセルに入力しましょう。社長の呼ぶ呼び名欄「さっちゃん」とかもつけておけばいいですね。あとから名前を聞いて書き足す。それから種別の項目。……仕事関係のほかに、友達も混じってそうですし。現状関係のある会社と、名刺をもらっただけの会社もありそうです。ですが、いつ役にたつか分かりませんし、なんの会社なのか分かる部分については備考欄にメモしたほうがいいかもしれないですね。
「電話帳はPC入力してデータ化しようと思いますがよろしいですか?データが漏れないように、インターネットにつながっていないPCに保存いたします」
社長が不安そうな顔をする。
「どうやって見ればいいの?」
「用途別にいくつか印刷いたしますので、PCを立ち上げてみる必要はありません。ただ、たくさんの名刺から1枚探すような場合は、PCのデータから検索することで早く必要な情報が見つけられるようになります」
社長が嬉しそうな顔をする。
なんでだろう。どうしてだろう。社長の嬉しそうな顔を見ると、こちらまで幸せな気持ちになる。
「ありがとう。印刷してくれれば、僕でも見られるね」
……というか、スマホは持っていないとはいえ、携帯電話くらいは持ってないんだろうか?携帯電話の電話帳に登録してないんだろうか?
まずは、花田硝子さんに電話。
「異世界商事の布山と申します。お世話になります」
「あ、宗太んとこの!こりゃどうも、どうも!昨日の電話ぶりです。何かありましたか?姿見の納品の話?」
「いえ、今回は別件で。その、会社設立時にはいろいろとアドバイスをいただきお世話になったと伺ったのですが、いくつか教えていただきたいことがあるのですが」




