25
「え?売らないの?」
店を出ると社長が聞いてくる。
「初めから3店舗回るつもりだったんです。どれくらいの価値のあるものかさっぱりわかりませんから。中古車ならば車の種類や年式走行距離などでおおよその値段はわかるんですけど……」
社長が顔を輝かせた。
あ、そういえば……。まりさんが社長に車はダメ!と強く言っていた。
まずいことをいったかな?
「涼子さん、車の値段わかるんですか?すごいですっ!」
「あ、いや、違うからね?査定サイトとに必要事項を入力すると出てくるんです。って、車は扱わないんですよね?社長?まりちゃんに言われてますよね?」
社長がしゅんっとなった。……私が車に詳しかったら、車も売り買いしたいとか一瞬でも思ったんじゃ……と疑いの目を向ける。
次の店は、徒歩で移動できる場所だ。調べてプリントアウトした地図を取り出してみる。蛍光ペンで、最短距離の道にラインを引いた。
「蛍光ペン便利ですね。僕も買おう。あ、あっちにも見本送ってみようかな。でも消耗品は送らないって決めてたんだ。きりがないし、僕が死んだあとに一気に困るだろうから」
ん?んん?死んだあと?
「なぁ、兄ちゃんたち」
大通りから人通りの少ない横道に曲がってしばらくすると、後ろから突然声をかけられた。
しまった。いくら最短距離だからって、治安の悪い場所に入り込んじゃったんだろうか?
「さっき会ったよなぁ」
にやにやとした男が立っている。会った?
ずいぶん大柄な男だ。背が高いだけでなく、プロレスラーのように筋肉の付きがいい。会ったっけ?
首の入れ墨が目に入り思い出す。
「質屋で……」
一瞬目があった男だ。偽物だと言われて憤慨していた。その人が一体何の用?
「そうそう、覚えててくれたか。お前たちさ、特別室に入ってたろ?ずいぶん高く売れたんじゃないのか?金もってんだろ」
え?
……まさか、後をつけられてた?
「売ってないから、お金はないよ」
気が付けば、社長が私を背にかばうように1歩前に出ている。
だけど、社長、今言うべきことは査定してもらったけれど偽物だったから買い取ってもらえなかったが正解ですよっ。
「じゃぁ、俺が売ってきてやるよ、出せ」
男が太い腕を突き出す。
「なぁに、これは取引だよ。俺が行ったほうが、高く買ってもらえるだろうからな?」
それは脅して値段を吊り上げるという意味だろうか?警察を呼ばれるだけのような気もする。
「いいえ、結構です。その、売るつもりないですから、行きましょう、社長」
さっさと離れるに限る。大通りはすぐそこだ。大通りで声をかけなかったということは、人がいる場所ではしつこく追ってこないだろう。
逃げよう。
「社長?ぷっ、おまえ、社長なの?そうか。じゃぁ、その姉ちゃんは社員なの?」
あ。しまった。社長なんて今呼ぶべきじゃなかったかも。
「社長なら金持ってんだろ」
と、世間的には思いますよね、やっぱり。お金がなくて質屋に物を売りに行ったとは考えないんですよね……。




