16
大丈夫かな。犯罪すれすれなやばいことやってませんよね?疑いの目を向けると、社長が必死に言葉をつなげる。
「そ、その、独自の風習というかなんか難しいやり取りとかもあって」
ああ、なるほど。
「そうですね。国によって違いますものね。食事一つとっても、残さずきれいに食べることがマナーだとする国もあれば、残すことがマナーだという国もありますし。かわいいですねと子供の頭をなでると激怒される国もあるんですよね。そういえば、素敵なお家ですねとか素敵なお召し物ですねと褒めると「盗もうとしている」と思われるから誉めてはいけないって国もありましたね」
おっと。また、いろいろと関係のない話もしてしまいました。知識をひけらかすつもりはないんですけど。
本当、私は……反省してもしても、治らない。
「へー、そうなんだ。それは気を付けないといけませんね」
関心したように社長が私の話を聞いていた。よかった。
「取引先に、失礼があるといけませんので、勉強したいと思います。どこの国ですか?それから取引相手の信仰する宗教がわかれば教えていただけると、調べて勉強いたします。あ、もちろん仕事に支障が出ないようにいたしますので」
社長が両手を横に振る。
「いやいや、大丈夫。うん、涼子さんはその、会うこともないから、えっと」
とても焦った様子の社長に、首をかしげる。
仕事が忙しいと社員を雇ったのに?なんでそこまで否定するんだろう。
うーん。
社長の人となりは昨日の様子しかわからないけれど。
あ。
確か、社長は海外留学か何かしていて、日本を離れていたとまりさんが言っていた。様子がちょっとおかしくて、それ以上突っ込んで話を聞かない方がよさそうだと思ったんだ。
もしかしたら、その話したくないことと関係のある国なのかな?だったら、無理に聞き出さない方がいいかもしれない。
それからあと可能性としては……。
妙にセクハラパワハラしないように気を付けていたし。
「もしかして、取引先は女性差別のひどい国ですか?ビジネスの場に女性が出てくるのを否定するような……」
残念だけれど、いまだにそういう国もある。
「あー、うーん、まぁ、あの、そう、えっと、その、危険、そう、涼子さんは危険な国なんで、取引先とのやり取りは僕がします」
危険?
なんとなく、紛争がたびたび起きる地域を想像する。
「社長は大丈夫なんですか?危険ではないんですか?」
社長がにひゃりと笑う。
「心配してくれてありがとう。僕は大丈夫です。こう見えてもあっちでは偉いんで」
あっち?
「偉い?社長が?」
実はどっかの国の第なんとか王子とか言いませんよね?
……どこかの国だと、王子だけで100人とかいるそうですし……。
じーっと社長の顔を見る。
……どこかの国の王子が、日本で商売?……ないこともなさそうですが……。どう見ても日本人顔ですよね、社長。
「あ、いや、違った、僕は、そんな偉くないです。あっちの偉い人とそのつてがあるんで、その大丈夫なんです……えっと、その、涼子さん……」
ふっ。
思わず笑いが漏れる。
「言い間違えたんですね。あっちは偉いって……ごめんなさい。気が付かなくて。社長が自分は偉いんだぞなんて言うタイプじゃないってわかってますから、大丈夫です……」
そう、そうだよね。俺が社長だぞ!っていうセクハラパワハラ上等タイプじゃないのはまりちゃんとのやり取り見てもわかるのに。
それなのに、私、ちょっと信じて、社長のこと、王子だなんて想像するなんて……。
「あ、涼子さんが笑ってる。そんなに言い間違い面白かったですか?」
「すいません。違うんです。社長のちょっとした言い間違い一つで、社長はもしかしたらどこかの王子なのかもしれないと、そこまで考えた自分がおかしくて」
社長のことを笑っているわけではないので、自分の恥ずかしい想像を暴露する。誤解されるのはもう嫌だから。
「ああ、取引先には王子もいますけどね」
は?
「王子?」




