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女性用、S,M,L、男性用S、M、L、LLと、全部10着ずつ?
「もしかして、従業員が増えた時のためのストックですか?」
一人分なら、1着。洗い替えも支給したとしても2着で十分だよね?
現状、私と社長とまりちゃん、それから会ったことのない何人かいるかもしれませんが、さすがに10着ずつは今必要な数ではない。
「確かにストックしている会社もありますが、ほとんどの場合は会社名などの入ったものか、特注したもので最低生産数だとか1着当たりの費用だとかの問題で一度に大量に制服を作っておいているだけだと思います。わが社の場合は、その都度用意するのでも問題ないかと」
通販ページを開くと、1着の値段の高さにびっくりした。
他の作業着は1着数千円なのに、スーツ風作業着は上下で数万円単位だ。各サイズ10着ずつも注文すれば、それだけで……100万は軽く超える。
社長の動きが止まっている。
え?私、何か問題のある発言したかな?
社長が10着って言えば10着ずつすぐに注文すべきだった?……でも、100万円も超えるような荷物、代引きできたかな? っていう問題もありますし……。
「す、すごい……」
は?
「社長、えっと、すごいって?」
「も、もう一度言ってもらえますか?」
社長の目がきらきらしている。……すいません、全然何がきらきらポイントなのか分かりません。
今度は素直にしがいます。
「社長、、すごいって?」
「ち、違う、そうじゃなくて、えっと、わ、わ……」
社長がちょっと照れたように身をよじる。
「わが社っていうの、もう一度……」
え?そ、それですか。
「わが社の場合は、まだ従業員数も少ないですし……」
「ふふ、涼子さんが、わが社だって。なんだか、本当に涼子さんうちの会社に入ってくれたんだ……」
ニコニコと嬉しそうに笑う社長。
ドキリ。
なんだか、すごく必要とされているみたいで、思わず嬉しさに胸が高鳴る。
……まだ仮採用だけれど、頑張ろう。必要だと思ってもらえるように。社長のために……。
あ、違う。会社のために頑張ろう。
「作業着の注文は10着ずつお願いしたいんだけど、僕と涼子さんとまりの分、あと、男性のLLサイズ、それ以外は取引先に渡す分です」
「取引先に渡すんですか?売るのではなく?」
いつもお世話になっていますと渡す品物にしてはちょっと高価すぎるし、そもそも作業着もらっても困りませんか?
「えーっと、試供品?試作品?使ってもらうやつ?」
「ああ、商品見本として提供するということですね」
数万もするものを?
「あの、たとえ採用してもらうことになったとして、どのように販売するつもりでしょうか? やはりまずは生産元を調べて話をした方が」
仕入れ値がいくらになって、売値をいくらに設定するかなど……考えないといけないんじゃないかな?
「注文を受けてから、入荷できませんというわけにもいかないでしょうし、商品見本を渡すときに伝える値段がそもそも、仕入れ値原価がわからないと……」
社長がんーと、首を傾げた。
「この値段で買って、倍の値段で売るよ。手に入らなかったら手に入らないって伝えるだけだよ」
は?
社長が通販サイトの画面を指さす。
この値段でさえも高い作業着だと思うのに、これをさらに倍の値段で売る?
いやいや、ちょっと待って。
「ぼ、ぼったくりじゃないですか。というか、売れないですよ。同じ品を倍の値段でなんて……」
いい人だって聞いていたのに。
社長はいい人だと思っていたのに、商売の仕方がえげつない。……こ、これは転職失敗した?
「えーっと、貨幣価値?物価?なんかそういうの違うから大丈夫だと思う」
「取引先は海外なんですか?でしたら、日本製作業着ということで売れるのかもしれませんが……それでも倍の値段ですか?どこの国の企業と取引をなさるんですか?」
社長が再び動きを止める。
「えーっと、その、取引先相手とのやり取りは、僕が全部するから。えっと、涼子さんが関わることはないと思う」
妙に焦った様子だ。