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貴重品があるのであればそのほうがありがたい。試用期間だし、何かなくなったといって疑われるよりずっといい。
鍵を受け取ってカバンの中に入れる。
……鞄どうしましょうね。ロッカーとか更衣室とかないですよね。
「机、こちらの使ってもいいですか?」
面接で座った事務机を指さす。
「あ、はい。僕はこっちに座ります。それからえーっと、何でも好きに使ってください。倉庫の3つの扉以外は出入りも自由です」
好きに使っていいっていうのは、ダイニングキッチン部分もってことかな?さすがにカップとかは自分の持って来たほうがいいよね。
「で、私は何をしたらいいですか?」
仕事の内容を尋ねただけなのに、社長が固まった。
「何をお願いしたらいいでしょうかね?」
と、苦笑いしながら首をかしげる。
知りません……。
「あの、しばらくはその、仕事をしながら、助けてもらいたいことをひとつづつ助けてもらっていいですか?で、慣れてきたら何かをお任せする感じで」
そんなこんなで、仕事が始まりましたが……。
「作業着、どういうものがいいと思いますか?希望があれば言ってください」
社長はコーヒーを入れてくつろぎタイムのようです。私にもコーヒーを入れてくれました。
仕事は?
とりあえず、何もしないというわけにもいかないので、パソコンの電源を入れる。パソコン2台あるうちの、片方がインターネットに接続できるもので、もう片方は接続できないものだそう。
「作業着を調べてみましょうか」
インターネットにつながるパソコンに作業着と打ち込んで検索。
「おお!入力、早い!」
社長が私の手元を見て目を輝かせました。
OLなら普通……いや。最近の新入社員はスマホのフリック入力は手早いけれど、パソコンのキーボード打ち込むスピードはそれほどでもないかな。
社長が出てきた作業着の画像を見て嬉しそうな顔をしている。
「これ、かっこいいなぁ~」
指をさしたのは、近年出てきた扇風機付きの作業着だ。
「最近使われ始めた、炎天下でも快適に作業できるように空調付きのものですね。倉庫内は空調きいてますか?炎天下での作業の予定はありますか?ないなら必要ないと思います」
ちょっとがっかりしている社長。
「ん?これは?これ、涼子さんに似合いそう」
と、社長が指さしたのは「スーツ風作業着」。
私、スーツが似合いそうなイメージなのか。
伸縮性のある汚れにくい記事を使って、スーツ風のデザインに仕上げられた作業着。見た目は濃紺のスーツそのものだ。
女性用はパンツスーツになっている。
「いいですね」
女性だからとスカートじゃないところが考えられてる。婦人警官の制服も看護婦の制服も、スカートの時代じゃない。会社の制服がスカートが主流なのは甚だ疑問だ。
「そう?うん、ちょっと買ってみよう。えーっと、どこに売ってるの?」
社長が気に入ったようなので画像から販売ページを開く。
「電話番号どこ?注文の電話を」
はい?
「電話で注文ですか?」
首をかしげる。
「どっかで売ってる?」
「いいえ、社長、このまま通販で購入できますよ?電話ではなくても。あ、それとも大量購入ですか?それなら販売店舗ではなく製造元を調べますが」
社長がぽんっと手を打った。
「そうだ!通販。そう、インターネットで物を買うことができたんだよね。忘れてた。じゃぁ、早速買おう!涼子さんにお願いしていい?全サイズ10着ずつよろしく。あ、支払いは代引きで」
は?全サイズ10着ずつ?