表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/72

完結まで執筆済。テンポよく更新していきます。

 うちの会社は驚くほどホワイトだ。


「先輩、物知りですごいです!またいろいろ教えてくださいね!って言ったら、もうことあるごとにどうでもいい話されてさぁ、うんざり」

 入社3年目の子の声が耳に届く。

「わかるわ。お局さぁ、この間も、会社の名前の由来とか、くっそどうでもいい話されて」

「あはは、あれだよねー、うちの会社はこういう経緯でこれこれだから、経営理念がなんとかでって、あれ!」

「そう!経営理念に合わない対応を客にしちゃだめだとか、うるせーっての。遠回しにねちねち。こういう時はこう対応してくださいって一言で済むだろう」

 確かに、よく経営理念の話は後輩にした。理念を理解すれば、自然とお客様にどう対応すればよいのかわかるだろうと思ってのことだったのだけど……。

 むしろ、こういう時にはこうするべきだというマニュアルを求めていたなんて知らなかった。

「俺さぁ、お局に入力頼むの嫌いなんだよ。なんかいちいち内容チェックされてさぁ、この数字おかしくないですかとか言われて」

 え?お客様にお渡しする見積もりの数字……明らかにおかしな箇所を見つけたら報告するようにしていたけれど、それは不要な話だったの?

「うわぁ、何それ。私わかってますみたいな顔したいのかなぁ?」

「仕事できますアピールしなきゃ、いる価値ないからじゃないのかぁ?もう30歳だろう?若くもかわいくもない、職場を華やかにするどころかねちねち職場の雰囲気悪くするだけじゃん」

 確かに、先月30歳になった。若いとは言えないし、かわいくもない。だけれど……私が、職場の雰囲気を悪くしていた?

 ねちねち言った覚えはない。ただ、一生懸命仕事を教えていただけ。丁寧にわかりやすく教えようとして、ちょっと言葉が多くなることがあったけれど……それがうっとおしいと思われていたということ?

「僕も言われたことがありますよ。こうすると、こういう効果があって提案してみるものいいんじゃないですかとか。知っていて、もしそうすると僕の負担が増えるからあえて提案しないってのに……」

 え?

 お客様のために提案してあげるといいと思っての言葉だったのに、めんどくさいから提案しないだけだったの?

 そんな……。給料もらって仕事しているんだし、お客様にも会社にも利益が上がることならば積極的に提案していくのが普通じゃないの?

 負担が増える?増えるといっても、連絡する場所が1か所増えて、連絡する回数が2,3回増える程度、ああ、確認事項が増えるとチェックするため足を運ぶ回数が増えるんでしたっけ。

「あとさぁ、お茶入れるふりしていちいちチェックされるのもめちゃ苦痛!」

「わかる。手が止まってるの見つけると、何かわからないことがあったら聞いてねって声かけてくるけどさぁ。あれって、何なの?サボってるのを遠回しに注意してるの?それとも、わからないっていうのを待ってるの?」

「あははは、教えたがりだし、教えてください待ちじゃないの?」

 私が新入社員だったころ、誰に何を聞いていいかわからなくて、困って手を止めているときに先輩に「大丈夫?わからないことがあれば何でも聞いて」と言われてうれしかったから。だから、私はその先輩のようになろうと。声をかけていたのが……そんな風に思われていたなんて。

「そういえば、課長にまでパソコンの使い方偉そうに指導してるの見たことあるわ」

「あー、あったあった。勇気あるよなぁ。ってか、あそこまでいくと病気?」

「まぁでも、時々仕事終わらなくってデートに遅れそうなときに残業変わってくれたり、お局にもいいとこあるよ?」

「ぷぅ。それ、お局が彼氏もなくてひまなだけじゃん。ってかさ、こういう課の飲み会とかもいっつも来るよねぇ。今日も来るんでしょ?残業終わったらって言ってたけど……」

 はい。さっきからいます。

 すっかりお酒が入って楽しそうに話をしている皆さんに背を向けて立っています。

「残業あるなら無理しなくていいですよって言ったのに」

 はい。気を使っていただきました。

「お局来ると、言いたいことも言えないから盛り下がるんだよなぁ」

「ほんっと。空気読めって言いたい。無理しなくていいですよって、来なくていいですって意味だっつの!」

 そう、だったんですね……。

 そのまま店を出て、店に電話をし、課の人たちへの伝言を頼む。

「体調が悪くなっていけなくなりましたと、伝えていただけませんか?」

 辞めよう。

 もう、辞めよう。

 年を重ねて先輩たちも皆いなくなり、お局と呼ばれるようになってからちょっと浮いた存在になっているのには気が付いていた。

 まさか、あれほど課の人たちに疎まれていたなんて……。

 次の日には辞表を課長に提出。

「引継ぎはきちんといたしますが、辞めることは直前まで言わないでもらえますか?……その、いつも通り過ごしたいので……あと、寿退社でもありませんし、いろいろ噂されるのも、辛いですし」

 課長はそうかと小さくつぶやき、内緒にしてくれた。

 それからは、引継ぎができるように自分の仕事は皆に振っていき、教えていく。ずいぶん細かいところまで口うるさいと思われているだろうと思うと心が痛む。だけれど、教えないわけにはいかないので、何とか笑顔で乗り切った。

 それから、マニュアルをひたすら書き留める。こういう時はこうすると。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ