1.3 僕らの適正
ギルドの受付で新規登録を頼むと、ギルド職員のお姉さんに連れられて、会議室みたいなところへ通された。
「このたびは冒険者ギルドへのご登録ありがとうございます。まずは簡単な説明をさせていただきます。」
お姉さんから冒険者ギルドの設立目的や施設案内、ランクの説明などの事務的な説明を受け、同意書にサインを求められた。
ちなみに同意書の内容は命を落としても冒険者ギルドは一切の責任を取らずに自己責任であるというものだった。
僕は内容にギョッとしたが、平然とその同意書にサインをする仲間たちを見て、胆力があるのかよく読んでいない馬鹿なのかわからないと感じた。
「次に君たちの適正を測りたいと思います。」
お姉さんは同意書を回収すると、水晶を取り出した。
「私はギルド職員ですが、鑑定士のクラスを保持しているので、あなた方の適正を検査していきますね。もちろんあくまで適正なので、あなた方の道を決めるものじゃなくて参考として教えておくものです。」
冒険者は死と隣り合わせの危険な職業である。
そんな危険な職業だからこそ、自分の適正にあったクラス選択が重要になってくる。
クラスとは冒険者の中の役割のようなもので、剣士や槍術士、魔法使いや盗賊、治癒士や付与術師など多岐に渡る。
「まずはダイエンくん。
君は体力、筋力、瞬発力に並々ならない才能を感じますね。剣士や槍術士、騎士などの物理系の戦術が向いてる気がします。」
「昔から剣を鍛えていて、ゆくゆくは勇者になりたいんだ!勇者は剣だけじゃなくて魔法も使える!だから魔法適正とかも教えてください!」
ダイエンは院長先生から読み聞かせてもらった勇者の絵本に憧れていた。
その憧れが僕たちを冒険者に誘ったから、当然将来は勇者のクラスを志望している。
「魔法適正もまずまずですね。魔法属性も調べるので少し待っててくださいね。」
魔法適正もまずまずと聞いて、ダイエンの顔もほころんでいる。
「勇者だから光属性がないと成れなかったわよね?」
ヒスイが言うように勇者クラスへの道のりは剣士や槍術士などの前衛クラスを経てクラスアップしていき、騎士、聖騎士になったあとに勇者クラスとなる。
騎士から聖騎士にクラスアップする際に光属性の適正が必要なのは有名だ。
「ダイエンくんの魔法属性は…火属性と闇属性か強いですね。残念ながら、光属性の適正は微塵もありません。」
お姉さんからの衝撃の一言。
光属性の適正が微塵もないと聞いて、ダイエンは膝から転げ落ちた。
なんか数日前の自分を見ているようで、不憫に思って同情した僕は涙が出てきた。
ちなみに横を見ると、笑いを堪えて涙が出そうな美少女が一人。
ダイエンの心が折れる姿に笑いを堪えているが、口元が少しニヤニヤしているぞ。
やはり、ヒスイ。
人の不幸は蜜の味がヒスイの本性。
性格がねじ曲がってるよ。
立ち直れてないダイエンをよそに、お姉さんは次にヒスイの適正を見始めた。
「次はヒスイさんですね。
あなたは魔法の才能がすごいですね。特に水属性と風属性の潜在能力は類を見ません。あなたは間違いなく天才です。」
ヒスイは小さい頃から魔法の才能を顕現していた。
才能があるのはわかっていたけど、冒険者ギルドのお姉さんを唸らせるほどだったとは…。
「あの、光属性の適正はありますか?」
そう聞いたヒスイの母の裏には嗜虐的な性格が垣間見えてしまうのは僕だけだろうか?
「水属性と風属性は先ほど述べましたけど、光属性もわずかですが適正がございますよ。」
「光属性の適正もあるんですね!ありがとうございます!じゃあ私は勇者を目指せるかな?」
ヒスイの言葉はダイエンに更なるダメージを与える。
やめてあげてほしい…、もうダイエンの精神的ダメージは計り知れないよ。
次はタガメの番だった。
「タガメくんですね。
あなたは隠密や手先の器用さに一廉の才能がありますね。盗賊や工芸士、道具職人などに適正があると思います。
魔法適正も土属性だけですが、まあまあですね。ゆくゆくは忍者とかもオススメですよ。」
「……ん。」
相変わらずコミュニケーションが苦手で口数の少ないタガメ。
お姉さんにもその返事は聞こえてないぞ。
ただタガメは昔からみんなの背後を取るのがうまかった。
かくれんぼでも絶対に見つけられなかった。
隠密スキルが優れてると言われても納得だな。
あとは一人で黙々と作業に没頭してる姿もよく見かけたし、折り紙とかもうまかったな。
本人がどのクラスに進むかわからないけど、お姉さんが提示してくれたクラスはどれも適任な気がしてる。
タガメならなんとなく盗賊を選びそうな気がするよ。
「剣士に魔法使いに盗賊か。なかなかバランスが取れてる良いパーティになりそうだな。あとは回復役の治癒士とかがいれば完璧かもな。」
モヒート兄ちゃんがここまでの3人のクラス配分を見て言った。
そして僕のクラスの狙いは紛うことなき治癒士。
これには深い理由があるんだ。