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1.1 僕の思いと裏腹に

僕の名前はアーノルド。

戦争孤児で、親を知らない。

孤児院に預けられて育ててもらった。


孤児院ではお金がなくて貧乏ながらも、先生や仲間と協力して楽しく暮らしていた。


12歳になったとき、僕と4人の仲間は今後の身の振り方の選択を迫られた。



「俺はやっぱり冒険者になりたい!そんでダンジョンをいっぱい攻略して勇者になるんだ!」


みんなをいつも引っ張てくれたダイエン。

ダイエンが孤児院の院長先生が読んでくれた絵本の勇者に憧れていたのはみんな知ってた。


「冒険者になるなら、私の援護が必要かしら?」


若干12歳で魔法使いの才能が認められたヒスイ。

いつも笑顔で大人しいと思われてるけど、実はダイエンの心を折ることが趣味の腹黒女だ。


「……僕もみんなについてく。」


基本的に話さないし、話しても声が小さいタガメ。

ちなみに今の言葉も僕以外には聞こえてないくらい小さい。


「私はみんなと行けない。このまま孤児院に残って、ゆくゆくは教会に奉仕する修道女になるわ!」


僕が淡い恋心を抱いていたヴァネッサ。

綺麗だけど腹黒なヒスイと違って、素朴だけど小さい子の面倒を率先してみたりする彼女の姿が僕は好きだった。



ヴァネッサが孤児院に残るなら僕も残ろう。

そして修道士になって孤児院を経営して、最終的にはヴァネッサと夫婦になって、2人で貧しいながらも幸せな孤児院を経営していきたい。


そう思って口を開きかけた時にヴァネッサは僕に向けて言ったんだ。


「アーノルド。みんなのこと頼むわね!」


「……うん?」


「アーノルドがみんなのこと見てくれたら、冒険者っていう危険な職業についても私は安心だから!」


全てを信じ切った笑顔で僕に言ってのけたヴァネッサの顔を見たら、僕は孤児院に残るなんて言えなかった。


「わかった、僕も冒険者になる…。」


僕の思いと裏腹に、僕の去就が決まってしまった。

もう乾いた笑いしか浮かべられない。



ヴァネッサが院長先生の手伝いに行き、冒険者組だけが残った。


「アーノルドがいれば安心だぜ!」


白い歯を輝かせながら、ニッコリと笑うダイエン。

普段は何とも思わないけど、今はお前の笑顔が憎たらしいよ。


「多分脈なしね、ドンマイ!」


僕の恋心を見抜いてるヒスイ。

ダイエンだけじゃなくて僕の心も折ってくるのか。


「……。」


そしてタガメは何か喋ってくれ!

無言で慰めの瞳を投げかけられても虚しいだけなんだ。



僕は本当にこんな仲間とやっていけるんだろうか?

でも多分やっていけるだろう。

物心ついた時から知ってる気心の知れた仲間だ。


少し残念だけど、熱い男のダイエン。

美少女だけど、性格がねじ曲がってるヒスイ。

全然話さないけど、心の優しいタガメ。


前途は多難だけど、なんとかやっていけるのかな?





そうやって決意してから時間は案外早く進むもので、僕らはとうとう孤児院を出立する時が来てしまった。


さすがに12歳の子どもにいきなり冒険者は難しい、というかそんなのは死にに行くようなものだ。


だから孤児院の出身で冒険者をやってるモヒート兄ちゃんを院長先生が手配してくれて、僕らは師事することになった。



みんなを優しく見守ってくれた好々爺の孤児院の院長先生と、厳しく口うるさく指導してくれたシスター。

僕らとたびたび喧嘩しながらも慕ってくれた後輩孤児のみんな。

そして、孤児院に残って修道女を目指すヴァネッサ。


モヒート兄ちゃんに連れられて行く僕らを見送ってくれる孤児院のみんな。

名残惜しいけど、仕方ない。

ヴァネッサにみんなを任されたんだから、僕がしっかりしないといけない。


「ヴァネッサに気持ち伝えておかなくていいの?」


ヒスイが僕に耳打ちする。

僕の気持ちに気付いていたヒスイ。

茶化されたり冷やかされた記憶しかないけど、僕の背中を押してくれることもあるんだな。


「やっぱりちょっと行ってくる!」


心を決めて、僕は振り返ってヴァネッサの元に駆けて行く。

そうしたら、ヴァネッサの僕の方に来た。

僕は最高潮に気持ちが高鳴っていく。

そして、ヴァネッサは僕の前で立ち止まって…いや立ち止まらなかった。


僕の横を横切って、モヒート兄ちゃんの前に。


「モヒート兄ちゃん!私ずっとモヒート兄ちゃんが好きだった!

これお守りです!四年前のモヒート兄ちゃんが旅立つ時には勇気出せずに渡せなかったけど、今度こそって思ってたの!」


手縫いのお守りをモヒート兄ちゃんに手渡すヴァネッサ。

モヒート兄ちゃんはヴァネッサの頭をポンポンと軽く撫でてから、お守りを受け取っていた。


その光景を見て、僕は膝から転げ落ちた。

モヒート兄ちゃんとヴァネッサ越しに見えるダイエンとタガメは2人を微笑ましそうに眺めていた。


そしていつもはクールビューティを貫くヒスイだが、僕を見ながらニヤニヤが抑えられていない。


僕の背中を押しておいて、なんてやつなんだ。

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