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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

無人島だよ!全員集合!

作者: 虎石 容果

ある日、米尾炊は週刊少年ジャムプをごろごろしながら読んでいた。

しつこいアナウンスの質問に答えるまでは。


『無人島に何か一つ持っていけるとしたら、何が欲しいですか?』


気が付いてしまってからはスマホアラームのスヌーズ機能のようにしつこく聞こえる声に、めんどくさがりの炊は何も考えずに答えていた。

「うるせーな、今読んでんだよ。これだよ。持ってくならジャムプ」

次の瞬間砂浜に倒れていた。

いや、気を失っていたのだろうか。日に焼けたのか顔が少しひりひりする。

(思わず答えちったけど、どーなってんだこれ)

物語のテンプレ的には無人島だろうか。

なにやら面倒事に巻き込まれたな、とぼんやりとあたりを見回し、座り。

「とりあえず、続きを読んでから考えよう」

横に落ちていた漫画を手に取る。

「……くっ」

ずっしりと海水を吸っていた。

(オーソドックスにナイフとか言えばよかったかな)


ぴったりと貼りついたページと格闘すること二秒。

ジャムプは砂浜に投棄された。


探索を始めた炊の前に一人の男が現れる。

(島民か…?いや…)

男の頭には蜘蛛の巣と木の葉が絡まり、ぼさぼさの髭と頭、そして。

「なんでマッパなんすか、畑先輩」

「風呂の最中に何が欲しいかと声が聞こえて。ちょうどシャンポーが切れていたんだ」

彼の手にはボトルシャンプーが握られていた。


「ところで米尾は何を持ってきたんだ?服か?」

「なんで風呂スタートで考えるんすか。俺は部屋でジャムプ読んでたんすよ」

「ほう」

「……」

「で、何を」

「ジャムプっす。砂浜で水没しました」

「「………」」


お互いに死んだ魚のような眼で見つめ合う。

((くそ、使えねーな))

心の声を聞こうとしなくてもわかる。しかし、どちらも人のことを言えないのである。


「何も持っていなくても、俺にはこの頭脳がある!」

腰に手を当て胸を張る畑。

ダルそうな表情を隠しもせずぱちぱちとやる気のない拍手をする炊。

「さしあたっては食料の確保だな。この無人島で生き残ってや「あの、畑先輩」なんだ?」

「思ったんですけど、ここって本当に無人島っすかね。とりあえず探索して現状把握する必要があるかと思います。ここ、獣道にしては人の手が入ってそうな綺麗さだと思いません?道って放っておくと荒れて草木が生えたり、こんなに歩きやすくな「よし、さっき川で魚を見たんだ。腹も減ったし。腹も減ったし。腹も減ったからな」あ、はい」

こうして畑先輩の頭脳は炊以下であることが判明した!


「いいか、米尾。俺が魚の獲り方を教えてやる!」

キラリと無駄に白い歯を輝かせて茶色い川へ飛び込んだ。泥色の飛沫があがる。

(すげぇ。素手で魚獲れるのか)

炊は感心していた。

断末魔の悲鳴が響き渡るまでは。

「畑先輩?!」

ザバッと川から走り出る畑。股間に食いつく魚。

(食う前に食われている!!)

畑がとんでもないポンコツであることが判明した!

何とか魚は撃退した様だが、決して食べる気にはなれない。

見るだけで痛い。


「とりあえず、さっきの道に沿って歩いてみて、見晴らしの良いところを探してみましょう」

流血が収まったころ、主導権は炊に移っていた。



歩き続けていると、南国風味な木々がだんだんとまばらになり少し開けた場所に出た。

そこにはorzの姿勢で打ちひしがれる男がいた。

「どうしたんですか!?」

「電波がない!!!ガチャが…!!期間限定のイベントが…!!!僕がいくらつぎ込んだと…!!!」


ソシャゲ廃人だったようだ。

滝のように流れる涙と鼻水を見ないふりして先を急ぐことにする。


『ぴんぽんぱんぽん』


聞き覚えのある声がする。

自分を謎の場所に拉致った犯人と思われる声だ。


『島内にお集まりのみなさん、説明会を行いたいと思いますのでこの無人島の中央、臨時管理棟までお越しください。本島は端から端まで歩いても2時間かからないくらいの小さな島です。集まり次第始めますんでなるべく早く来てね。はーと。以上。ぽんぱんぽんぴん』


犯人はいったい何がしたいのか。

おそらく、はーと、のところで島中の人間のヘイトを一身に集めたに違いない。

「よし、米尾、急ごうか」

「あ、畑先輩。よろしければこちらをどうぞ」

炊は足元に生えていた蕗の仲間のような大きめの葉っぱを差し出した。

「おお、ありがとう」

どうせならズボンをよこせと目が言っている気がしたが、持ち前のスルー力で無視する。

パンイチで知らない人に会えるほど炊は開放的ではないのだ。

もう一つ言うと、先輩と肌色面積が同じくらいになるのもなんだか同類視されそうで嫌なのだ。

炊の優しさ成分は少なめに配合されているのである。


「イベントーーーー!!!!」


廃人が復活していた。土埃をあげながら、やけにきれいなフォームで二人を追い抜く。

「視線だけで人を食い殺しそうな顔してましたね」

「俺は魚に食い殺されそうになったけどな」

HAHAHAHA

炊は、コン〇ームが食い殺す某ホラーコメディ映画を思い出した。タイトルしか知らないけど。



なだらかな丘を登ると、人の集まるプレハブ小屋が見えてきた。

近づいていくと、高いフェンスと有刺鉄線に阻まれ中には入れないようで、罵声が飛び交っている。

見慣れない形の機材がいくつか並んでいる。

そのうちの一つは例えるならあれだ。

スズメヲウツノニタイホーヲ………なやつだ。たしか。


しばらく待つと中から人が出てくる。

白衣を着た少女。顔立ちは悪くはない。けど。にたりと不気味に笑った。

マッドなサイエンティストだ。可愛いか否かと言われれば否である。

表情と雰囲気が素材の持ち味をいかんなく殺していた。


「ふむ。皆様おそろいのようですねぇ。では、今回この島にお越しいただいたわけをお話しいたしましょう。あ、だめだめ。この柵の中バリア張ってるから、物投げても私には当たらないんだから。うふふ」

怒鳴っていた人が投げた焼酎のペットボトルが、何かに跳ね返されてゲーム廃人にぶつかった。ほとんど空なのが不幸中の幸いだったが、彼のスマホが弧を描いて飛んで行った。無事を祈るしかない。

謎技術に呆然とする面々に、マッドな彼女は一方的に言い放つ。

「無人島に一つだけもっていくなら何を持っていくかって、いろんなケースを見てみたくなってね。ちょっと前に開発した転送技術を使って実際にやってみようと思ったの。でも意外だったわ。一般的に言われてるオーソドックスな答えのナイフってのが一人もいなかったのよね。ランダムで抽出したつもりだったんだけど、なんか変なやつばっかりひっかかったのかしら」


おそらく、こいつは天才である。

他人を無意識にイラっとさせる天才だ。

「質問いーですかー?」

若干イラついたものの持ち前のマイペース力で炊が手を挙げた。

「はい。いーですよ」

「何の説明もなくいきなり拉致されて、不利益を被った方も多いようですが、それについての補償や実験に協力した報酬などはどのようにお考えですか?」

不利益を被ったのは炊が知る限りでは三人。

ジャムプを水没させられた炊、マッパで連れてこられ傷だらけの畑、そしてスマホが逝ってしまって慟哭しているゲーマーだ。

炊の言葉に賛同者が声を上げる。

ふむ、と首をかしげながら考えこむそぶりをするマッドちゃん。

やがて、右手をゆっくりとあげ、まるでネギでも振り回すように斜めに上下させ……。


「そんなものはない♪そんなものはない♪」


「「「「はあああああぁぁぁあああ?!!!」」」」


「だからみんな、忘れてくれるとうれしーな。はーと」


どこから現れたのか、たらいが降り注ぎ集まった人がバタバタと倒れていく。

(天才科学者なのに、マッドサイエンティストなのに、素材だけなら美少女なのに、記憶の消し方が、物理……!!!)


誰一人として納得のいかないまま元いた場所へと転送されるのであった。



「なあ、炊、お前海外旅行行ったのか?すっげー日焼けしてるけど。おみやげは?水着の美女はいたか?」

「無人島に拉致られてた。バカしかいなかった」






無人島だよ!全員集合!-完ー

お付き合い下さり、ありがとうございました。

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