猫になりたい僕は
僕のともだちのAからとんでもない告白をされた。
好きな子ができた、らしい。
「どんな子?」僕だってそーゆー話題は大好きだ。
「めっちゃキレイ。いや、かわいい」
「へぇー」
「なんかすらっとしてて、一緒にいてすごく楽しい」
「なんていう子?」
「名前は知らない」
「ん?一緒にいて楽しいんだろ?カラオケとか行ったんじゃないの?」
「シロさんはカラオケなんか行かないよ。公園だよ、会うのは」
「今時、公園?いや、いいけどさ。‥どこまでいったの?手繋いだ?」
「手もぎゅっとしたし、抱っこもした。この間なんかうちにきてずーとベッドで遊んでたし」
「そこまでいってんのかよ!すげーな」
「でも、シロさん、人気あるからな。この間なんか鈴木さんとたのしそーにジャれてんのみて。俺、嫉妬しちゃったよ」
「鈴木さんって女子じゃん。嫉妬なんかしなくても、友達だろ、たぶん」
「そーかな」
Aはため息をついた。シロさんと女子がじゃれるのをみて嫉妬するなんて、これはそーとー重症だ。
「あ!シロさん!」
Aが駆け出す。その先にいたのは一匹のシロ猫。
え?
Aが猫を抱き上げ、頬を寄せる。猫は猫で、Aの顔をペロペロとなめる。
「紹介するよ。シロさん」
にゃーん。
数年ぶりに帰省した僕が、コンビニから家までの道をぽてぽて歩いていると一匹のシロ猫が目の前をよぎった。
「シロさん?」
そんなわけない。でも、にてる。卒業式のとき、Aが俺に紹介してくれたシロ猫に。
にゃーん。金の瞳と白銀の毛並みが艶かしい。
ひらりとシロさんが塀に飛び乗る。その傍らには黒猫が。
猫のことなんてよく知らない。けど、どこかで会ったことがあるような、なつかしいような。
黒猫はにゃあ、と鳴いた。笑っているようにも見えた。
やがて、二匹、いや、ふたりは姿を消した。
卒業式以降、Aの行方は知れない。