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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
三章 下半分と自称聖職者と里がえり
86/122

2.ゆっくり休んでください


「あまり悠長にしている時間もない」


「ですねぇ、騎士さん伸しちゃいましたし。次の目的地はどこですか?」


「それを今から探る」


 上半身――心臓の在処を探した際は、リアとの命楔の痛みでもって位置を把握した。それも正直なところよく分からない探知方法だなとは思うが、そういうものなんだろう。とうに理解は投げ捨てている。

 体の別の部位で、同じような契約魔術でも使うのかと予想していると、視界の隅で動くものを察知。

 何の気なしに目を向けると、首のない体が起き上がっていた。


「にああぁ!?」


 リアは咄嗟にアーサの背に避難し、震える指をさして叫ぶ。


「う、うごっ、動いてるよ!?」


 筐体の淵に手をかける首なし上半身は、切断された腹部を箱の底につけて()()()。それにより諸々、具体的に言うなら首もとが見えやすくなり、リアの心臓は再び痛いほど脈打つ。


「動かしているからな」


「何で!? 切れちゃうから解けないんじゃないの!?」


「封じはまだ解けないと言ったんだ。結界で遮られていないのだから動かせるのは当然だろう」


「いいい意味分かんないよ!!?」


「……煩い。いちいち叫ぶな」


 静かな声で怒られたリアは、あぅっと息をのみ口をつぐんだ。トリムにとっても不本意な自分の体を、ああも喚き散らせばそれは気分も悪くなるだろう。けれども、驚きと恐ろしさはどうしようもなく、リアの瞳にはじわりと涙が浮かんだ。

 一方、全く動じないアーサは、項垂れたリアを慰めながら問いかける。


「くっつけられないだけで、こっちの体も頭部(トリムさん)と同じ状態ってことかな?」


「ああ」


「ふーん、物理的な解離だけを起こしているんだね。魔力もそれぞれで動いてるみたいだけど、途切れた先が繋がっているのが不思議だなぁ。でもさっきまでは完全に止まってたよね、部位ごとの経時的変化まで無視できるの? あ、もしかして悠長にしてられないってのはそういうこと?」


「……そういうことだ。干渉は受けぬがズレが生じてくる」


「なるほど」


 わっかんねぇ!


 リアだけがおいてけぼりである。だが怒られたので声に出すのは我慢して、二人のやり取りを静かに聞いている。


「それは困るね。うん、僕にできることなら何でも言って」


「そこまで分かっていて協力を惜しまぬと。容易く優位にも立てるだろうに、随分と奇特なものだ。まあ……内心までは推し量れんがな」


「えー? 集めた後に会わせてくれるって約束したからなのに。それに僕、駆け引きとかできないんだよね」


「そういうことにしておいてやる。では聞くが、この国の規模はどれくらいだ?」


「ん? 広さってこと? うーん、中央大陸の三分の二程度……蓮華海と同じくらいって言えば分かるかな」


「そうか。まあ予想の範囲内だな」


「なになに? 何かするの?」


 ……何かの話から何かの話に移っていることは分かるんだけど、国の広さを知ってどうするんだろう……てか全然規模が分からん。れんげかいってどこ。アーサは物知りだなぁ。


 おいてけぼリアが遠い目をしていると、トリムの上半身が腕を組んでいるのが見えた。とても堂々としているので、頭がないのに何故か威厳がある。


「今から次の目的地を指示するが、その後俺はしばらく眠る。お前達は人目を避け、何事にも関わらず、そこへ向かえ」


「ふぁ、なんで」


 トリムの右手の人差し指がトントンと組んだ腕を叩いている様子をじっと眺めていた。少し慣れてきたかもしれない。

 そして空気と化していたリアは話し半分に聞いていたせいで、トリムが眠ると言った理由が分からず思わず聞き返した。


「何故と問うか。己の行いを省みてみろ」


 声は下からなのに、離れた体に人差し指をさされた。その責める人差し指に、反省してるのにまだ言うかとリアは声を荒げる。


「ちーがーう! そっちは分かってるって! しばらく眠るってとこですよ! いや、寝ずに働けとは言いませんけど、前寝ない、眠れないって話してませんでした?」


「何だ、そちらの方か。眠るのは回復を効率的にするためだ。これも以前説明したはずだが」


 トゥレーリオに行く途中、馬車の中で話を聞いたのを覚えている。使いすぎた魔力を回復させるために意識的に眠っていると言っていた。


「つまり、眠らないといけないほどの魔術を使うと?」


「分かっているではないか、珍しい。扱える魔力も大幅に増えたが、広範囲になるからな。どうしても消費量は抑えられん。リアを放っておくのは不安が残るが……お前は俺のことを理解したと思っていいんだよな?」


「そりゃもう、我が身優先で!」


 そこは断言しておかなければならないところである。なんかすごい魔術を使って疲れているところに心配させたままというのは駄目だ。安心して休ませてあげないと、と拳を握った。

 威勢はいいが繋がりは意味不明なリアの返事に、アーサは首をかしげる。


「ならばよい。被る程度に微弱な索敵を展開する。探れない位置に筐体があると考えられるから、そこが次の目的地だ」


「広範囲で、被るって……まさかいつも使ってるのを全世界に?」


 おそらくトリムは、四六時中索敵魔術を使っており、人やらモンスターやら近付くものは全て把握している。


 そんなただでさえ疲れそうなものを世界中に?


「それほど精密なものではなく、範囲もこの国だけだ。大体の場所さえ分かればいいからな」


 簡単に言っているが、それでもとんでもない大規模の索敵魔術を使うのだと分かる。そりゃ回復も必要になる。というかそんなもの、一人の魔術師が使えるものなのか。


「無理してるんじゃ……」


「否定はしない。移動しつつと考えていたが、面倒な者達の存在と……どうやら、当初の期限まではもたないようだ。ズレが大きくなる前に、探し出してしまいたい。早ければ早いほどいい」


 もたない……?


 不安を煽る発言に、リアはトリムを抱く腕に力が入る。当初の期限とは命楔のことだろう。となると半年間はあったはずだ。それまでもたないというのがどういう意味なのかは、怖くて聞くことができない。


「あの……どのくらい……」


「そうすぐではないさ」


「大丈夫だよ、リア。僕達はトリムさんから魔王のこと聞かなきゃいけないから、そんなことにはならない」


 アーサは気負うことなく微笑む。リアを安心させる意図よりは、実現を確信している自信からのようだ。具体的に答えてくれるつもりはないらしく、リアもただ頷いた。

 手遅れにならないよう気を付ければいいと、それだけ思った。真実を知ったことにより、死別の道はないのだと、それを心の拠り所にしていることを自分でさえ気付くことなく。




 残されていたラクダは一匹だけだった。ジルの分とリア達二人乗り分としていた二匹の内の一匹は気絶させたジルを運ぶのに使われた。ダイルの分もあったはずなのに数がおかしいのは、逃げたのか誰かがちょろまかしたか。というか、トゥレーリオに戻らないのでレンタル分を返せないことになる。かといって手放すわけにもいかず、一応善良な心を持つリアは申し訳ねぇと遠い空に謝罪を送った。多分届かない。

 砂漠の間はラクダに黒い箱を固定させ、リアが一緒に乗ることになっている。アーサは引いて歩くことになるが、体力面から仕方がない。


「ふむ、こういったところから考え直すべきか。いずれ致命的になるやもしれんしな」


「何ですか?」


「いや。始めるので騒がないように」


「はい」


 答えてくれないので、また考え事の独り言かと思い流しておいた。


 体同士は近い方がいいということで、上半身(トリム)は砂漠に座り、すぐ横にリアが生首(トリム)を抱いてスタンバイ。顔に表さないようにしているが、どうにも上半身の近くに寄るだけで緊張してしまうのでリアの視界は明後日の方向を見る。


『リィーベァタ、アドゥルフィエコール、シュティオラ、ロゥグ』


 いつもの意味の分からない言葉の羅列と共に、ぶわっと密度の濃い魔力が辺りを包んだのを感じた。呼吸がしづらいような生暖かくかつ冷たい空気の奔流が渦巻いている気がする。

 リアは咄嗟に目を閉じていた。その片方をそっと開けると、青白い塵(ダイヤモンドダスト)が空中を漂い、上昇気流のように昇っていくのが見えた。淀みなく滞りなく流れが続くのに、辺りに満ちる魔力が途切れることもない。


 アーサが「わー」と楽しそうな声をあげたので、集中しているトリムの邪魔にならないようリアは「しっ」と人差し指を口にあてる。アーサは同じように人差し指を口の前につけ、にこにこしたまま頷いた。


『レイ』


 一気に肌に感じる空気が凍った。痛みと錯覚するほど冷えた空気に、リアは無意識に息を止める。


 輝く塵は瞬時に消失し――――しかし待てども変化は知覚できなかった。


「ぷはっ」


 そして緩やかに風が吹く。それはビルダ砂漠に恒久的に流れるものだ。トリムによって取り払われた日常(邪魔なもの)が戻ってきたのだろう。


 しばらく誰も声を発することはなく、風の音だけが耳に入る。やがてトリムは長く深い息を吐き、口を開く。


「…………南西252に6890と、北28に約580万……南西が近い、か……まずは、そこに」


「分かった」


 その数値情報だけでアーサは把握したようだったが。


「わ、分かんない……けど、そこら辺のダンジョンに行けばいいわけですね」


 リアは把握できない。南西にあるダンジョンが近くて次の目的地ということだけ。


「そうなの? 北は分かるけど、先に行くとこにダンジョンなんてあったかなぁ。イェルリ断地帯のど真ん中だよ」


 ミリオリアに行くのを決めた時はダンジョンであることが前提だったので、今回もそうだろうと思っていた。だがなんか色々詳しそうなアーサが知らないとなると違うのだろうか。


「そのイェー……えっと、そこに必ずダンジョンがあるわけではないんですかね…………トリムさん、起きてますか?」


 どうなのか確かめようと、静かになっていたトリムに呼びかける。


「…………ああ……間違いはないから、とりあえず向かえ。詳しい話は後でいい……移動方法、は」


「大丈夫。任せて」


 途切れ途切れ話すトリムに、アーサは笑顔で即答した。すごく安心感がある。


 うんうん、任せよう。


 そう思ってトリムを見ると「そうか」と僅かに口元を綻ばせた気がする。閉じてゆく瞼に従い、トリムの真紅の双眸は光を失っていく。


「ゆっくり休んでくださいね」


「ああ……あとは…………どうにか、リアを……」


「ん、私?」


「……鍛えておけ…………アーサ」


 トリムはそのまま口も閉じた。リアはそういえばどのくらい眠る予定なのか聞きそびれたことに気付いた。

zzz...

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