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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
三章 下半分と自称聖職者と里がえり
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1.それはどう考えても

三章です。よろしくお付き合いください。

2018/7/19リアの心情面追加しました。


「これはどう見ても、バラバラ殺人事件です」


「死んではいないんだが」


「事件……!」


 何故かアーサはごくりと生唾を飲んだ。


 心の準備ができていなかったせいで、体の一部と切断面を見た後、破裂してしまいそうな心臓を落ち着けるのに時間がかかった。

 ゼスティーヴァで生首だけと相対した時は、色んな感情が渦巻いて気を張っていたからだろう、ここまで怯むことはなかった。余裕がなかったんだなぁと感慨深く思い出す。


「というか、何を今さら。俺の体が入っていると最初から分かっていただろうに」


「だってあんなぶつ切りで入ってるとは思わなくてですね。それに宝箱って開ける時ちょっと期待しちゃうじゃないですか。あのわくわく、アーサなら分かりますよね?」


「分かる。瞬発力の勝負だもんね」


「瞬発力?」


「罠やミミックとどっちが速く攻撃を繰り出せるかって」


「……そういう楽しみ方はしてなかったなぁ」


 改めて、宝箱もとい筐体に入ったトリムの上半身を見る。

 首から先と左手、そして腹から下がスッパリ綺麗に切断されている。断面は例のごとく、もうほんと、まんまだ。


 ちなみに裸ではない。黒に近い灰色のゆったりめの服に、中に青っぽいのを着ているのが見える。

 服の裾を触ってみたら滑らかな厚手の生地で、明らかに良質の素材と縫製。リアの一世一代の大きな買い物とも言える高性能コートなど足元にも及ばない。

 さらに腹チラ部分は白く、力仕事とは縁のなさそうな筋肉のつき具合、というか肌が白魚のようである。憎い。


 どう見ても、金持ち。


 リアとの命楔時、簡単に資産をくれると言ってはいたが、所詮生首、とあまり考えてはいなかった。しかし目の前で資産家っぷりを確認すると気後れしてしまいそうになる。小者なので。


 考えてもみれば、トリムはとんでもない魔術師であるから、働き口は引く手あまただ。鍬持って畑仕事はあり得ない。あっても頭脳労働の高所得者である。

 あるいは、アーサのような元々裕福な貴族。だとしたらリアは散々暴言を吐いており、私刑で裁かれても文句は言えない。金に執着なさそうな感じからするとこっちっぽい。


 …………考えないようにしよう。トリムさんともちょっとは仲良くなったし、何とかなるなる。


 知ったところで態度を今さら変えるのもおかしいと思い、言ってくれるまではと棚上げにした。


 上げかけている腕をちょんと触ると、想像通りの硬さだった。抵抗を無くした、という彫刻のような時の状態なのだろう。

 ふとトリムを見る。

 思うところがあるのか、無言で離れた位置にある自分の上半身を眺めている。リアの視線に気付き、見つめ返す。

 リアは両手を伸ばしてトリムの頬を包み、持ち上げた。少し驚いた表情のトリムをそのまま持って膝立ちになり、筐体に横たわる上半身の鎖骨の位置にそっと添える。


「わぁ、ぴったり合う!」


「…………当たり前だ」


 眉間に皺を寄せて睨み返されたので、リアは両手を離した。筐体の淵に手を置いて体重をかけ、上から見下ろす。


 下半身と左手を視界に入れないようにすれば、ただ仰向けに寝転んでいるだけのように見える。

 それになんとも不思議な気持ちになった。喜ばしいことなのに、リアにとってのトリムは生首でしかないので、違う人であるように思ってしまう。


 これからは生首(トリム)を持つこともないのか、などと考えかけ、やっと現実的な問題に思い当たった。


「……てけてけ」


「手、毛?」


「なんでもないっす。それより首だけならまだしも、半身ともなると隠しようがありませんよね。というか移動……トリムさん自分で匍匐前進するんです?」


「揃わぬ状態で封じを解けば、体を切り裂かれたと同義だ。死ぬつもりはない」


 接着面だけ魔術コーティングを解くとか、そういうものではないらしい。体を全部集めてからしかくっつけられないようだ。材料を揃えてからしか料理ができないのと一緒、ちょっと違うか。


「はあ、そういうものなんですか。それは駄目ですね。じゃあ今まで通り私が運ぶことに……待って、それって移動中ずっとこの大箱を持ち歩かなければならないってことじゃ」


「そうだな」


「目立つー。そもそも私こんな重いの運ぶのなんて無理ですけど。ひ弱ですよ、私」


「知っている。だから勇者と組んだんだろうが」


「だから、って……え、アーサを誘ったのって……」


「ああ、勇者にしかできないことだからな」


 ……そりゃこの中ではね!


 戦力的に組みたいと言っていたのは、体力的にという意味合いが隠されていた。確かにせっかく体を手に入れても、持っていけないのでは意味がない。

 アーサはトリムの存在をすぐに受け入れたし、重いものを運び続けられるだけの体力があって()()()()()()

 予想外の理由でアーサを欲していたトリムに、リアはまた脱力感に襲われた。同時に、仲間だと喜んでいたアーサに申し訳なく思う。


「なんかごめんなさい」


 ついでに嫉妬したことも心の中で謝る。


「うん? 僕にしかできないことなんでしょ。仲間だもん、当然だよ」


 そう聞いても全く気にした様子のない笑顔のアーサ。むしろ嬉しそうにさえ見えるのは気のせいだろうか。

 最初から好ましくは思っていたが、これだけ善を体現しているアーサは正にお伽噺の勇者のようだ。強くて優しくていい人で好感度がうなぎ登りである。熟女好きはささいなオプションだ。


「はい……えへへ、じゃあ私の助けが必要な時は言ってくださいね。私にできることならします、仲間ですから」


 きっかけは何であっても仲間になれて良かったと心の底から思い、リアも相好を崩した。


「うん。ならじっとしてて、できるよね?」


 いい笑顔で返された。


「…………はぁい」


 責められている感覚に渋い表情のリアは、転がしたままだったトリムを抱え、定位置につかせる。

 待ってましたとばかりに、アーサが期待に満ちた目でリアの前に座った。視線はトリムをロックオンしている。


「じゃあさ、質問いいかな?」


「……次の目的地の話をしたいんだが……まあ、仕方ない、一つだけならば答えてやろう」


「一つかぁ、えっと、ちょっと待って」


 アーサは顎に人差し指の第二関節をあてて考え始めた。

 こんなところでトリムさんとシンクロするとは、とリアは夕べのジルとのやり取りを思い出す。


「うーん、ならしょうがないかな…………じゃあ、トリムさんって魔王と関係ある人?」


「!」


 リアは思わず身を強張らせた。


 その疑問はもっともであり、リアもおかしいとは感じていたが見て見ぬふりをしていた部分である。その理由は、もしそうであれば、これまで築いたトリムとの関係全てが無に帰してしまうからだ。


 勇者が魔王を見つけ出せたなら、討伐が最優先事項である。勇者の契約書には保護ないしは捕縛とも書いてあったが名目上で、自分達の国にとって脅威となる存在を排除すべきと重々説明された。

 魔王に豊穣を捧げているというダンジョンの、ボスの間に体があったなんて、どう考えても無関係とは言い難い。


「魔王とは……誰のことだ?」


 だがトリムは訝し気に聞き返した。


「あぁ、そっか。ここでは魔王って言ってるけど、二年半前の声の主のことだよ」


「声? 何のことを言っているのか分からんな」


「…………え、トリムさん声知らないんですか? 我は支配者だーってやつ」


 リアは幾分か体から力を抜きながら話しかけた。先の不安はなんてことないかもしれないと、そう感じたからだ。思えばトリムと出会ってすぐ、魔王とダンジョンの話をしたような気がする。


 世界の支配者と名乗る魔王の声は、リアがまだ実家に引きこもっていた頃、全世界に響いたものだ。イタいお兄さんが拡声器でも持って喚いているのかと初めは思っていたが、そうではなかったと後から知った。


「声明か何かか? まだ俺が封じられている時の話だろう。知る由もない」


 その本当に分からなさそうな態度にリアは安堵する。良かったと、まだ旅を続けられると思ったところで、トリムが「……だが」とぼそっと言った。

 その後が続かないので、リアは斜め上からトリムを覗き込む。

 伏せていた瞼を上げ、リアを数秒間見た後、アーサに視線を移した。


「……お前達の言う魔王と同一かは定かではないが、魔王を自称する馬鹿は知っている」


「自称……魔王」


 それはちょっとカッコ悪いな。他者(ひと)から呼ばれてこその魔王だろうに。


「その自称魔王さんは、魔王なの?」


「だから知らんと言っている」


「そっかぁ……じゃあ、その自称魔王さんに会わせてくれる?」


 トリムの紅い双眸が細められた。


「……何故だ?」


「魔王なら、倒さなくちゃならない」


 いつもと変わらぬ様子でアーサは微笑んでいる。

 人情に左右されず、自身の役割を正しく遂行しようとする勇者の姿勢に、リアは喉の奥が苦しくなった。


 自分はどうなのだろう。

 トリムが親しげに馬鹿と呼ぶ人物が魔王だったならば、自分はトリムと敵対できるのだろうか。


 ……したくはない、けど、


 勇者の使命として、責務として、果たさなければならないと思っている。それは紛れもなく、現状寄り道はしているがトリムとの契約が終われば当然ながら戻るつもりでもある。

 だが、その使命にトリム自身が関わってくるとなれば話は別だ。どちらを優先するべきなのか、途端に分からなくなってしまう。

 トリムは命の恩人だし、助けになりたいくらい好きになっている。それでも、勇者の使命と天秤にかけた時、どちらに傾くか、決められないでいる。

 魔王は世界の敵である。しかしそれ以上に、リアを救いだしてくれた元パーティの――大好きだった勇者様の願いだったのだ。


 今なら、命楔を使えば……


「そうか。体を取り戻した後ならば構わんぞ」


「え!?」


 選択を迫られた時のことをぐるぐると悩んでいたのに、トリムがあっさり了承の返事をしたので驚いた。


「何だ」


「か、構わんの? 倒さなくちゃいけないかもなんですよ? 絶対に違う人なんですか?」


「さあな。間違っても勇者が倒しにきたとあらば本望だろう」


「何その本望。でも、親しい人なんじゃ……」


 トリムはただ「別に」とだけ言った。

 言葉は続かず、それ以上語るつもりはないようだった。


「そっか、じゃあその自称魔王さんに会ってからだね。良かった、せっかく仲間になれたのにどうしようかと思ったよ」


「お前と敵対するつもりはないと言ったろう」


「うん。でも勇者の役目だからね。ねえ、その自称魔王さんは、どんな人なの?」


「いずれ会うのだから自分で確かめろ。それに、質問は一つだけのはずだな?」


「あ、そうだったね。ごめん」


 へへっと気まずそうに笑うアーサは、殺伐とした話をしていた名残は微塵もない。


 何だか話がまとまってしまった。

 どちらであっても、トリムの望みを叶えてからになることが分かり、リアは密かに胸を撫で下ろす。とりあえずは先延ばしができたことに後ろめたさを感じながらも僅かに微笑んだ。

 三章に入るまで半年もかかってしまいました。今年中に完結させたいなあとなんとなく思ってましたが、展開考えると無理そうです。大体の予定が延びてるので確実に無理ですね。

 あと見切り発車かつゆるゆる設定でここまで来たもので、色々と厳しくなってきました。どうしても立ち行かなくなったら以前の分を書き換えることも検討しますが、その際はお知らせいたします。

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