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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
二章 上半身と光の勇者と目の上のたんこぶ
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トーク集5.ジルニアと協力者

おまけ。

44話のあの後。

 腹部がとても苦しい。


「う……っ」


「気付いたっすか」


 何故かラクダの上でうつ伏せになっていた。軋む肋骨の痛みに耐えながら体を起こすと、後ろには特徴のない顔の男性。


「……君、は?」


「ただの冒険者の一人っす」


「ああ……ダイル、だったか」


「うっわ、なんで名前知ってんすか、気持ち悪っ」


「え……? 勇者さんのパーティにいたダイルだろ? ……それよりどうして……いや、迷惑をかけたようだね、ありがとう」


「ええ、本当に」


 助けてくれた様子に礼を言えば、返事は芳しくない。本当に迷惑をかけたようだとは分かるが、何かが引っ掛かる。


「……すまない。悪いが、俺が気を失っている間に何があったか教えてくれると助かる」


「別に何もないっすよ」


「そんなことはないだろう、今はどこにいるんだ?」


「ラクダの上っす」


「……それは分かる。この状況を教えてほしい」


「勇者さんにぶっ飛ばされて気を失った滑稽な騎士サマをひとまずトゥレーリオに持って帰ってる最中っす。もうすぐ着きますよ、いやあ野郎二人乗りの苦行からやっと解放されるわ」


 引っ掛かるどころか、ジルニアは確信を得た。ついでに言葉の節々から伝わる傍若無人さは、間違いようもない。蔑ろにされ続けた扱いと、やっと姿を現した放置云々の恨みに、ジルニアは仏頂面になる。


「それはどうも悪かったね。ついでに君が協力者ということも把握できたよ、ありがとう」


「うわぁ、さすがっすね。騎士サマはとんでもない慧眼をお持ちのようだ」


「隠す気ないよな? ……で、見ていたんなら勇者さん達はどうしたんだ? 何か彼らの目的とか、今後の行動とか、手がかりになるようなことは分かるか?」


「さあ? ふっつーにオレ見つかってたんで、どうしようもなかったっすから。あんた回収してさっさと立ち去れと言われたら勇者さんに逆らう選択肢なんてないじゃないっすか」


「……どうだか、君なら気づかれずに追えたんじゃないのか」


「やだなあ、オレが優秀なのは事実っすけど、買い被り過ぎっすよ。騎士サマみたくぶっ飛ばされるなんて御免すもん。キレーに飛んでいきましたもんね、マジ吹き出しそうでした」


「なあ……君に嫌われているのは分かるんだが、それが理由じゃないよな?」


「ははは、嫌いだなんて冗談。あんたに毛ほども興味ないっすけど。正確に力量を見極めた結果っすよ」


「……そうか。なら、いいんだ。…………………………いや良くはないな」


「ボケてんすか」


「あーー……何と報告したもんか。そうだ、今からでもミリオリアに戻って……」


「どーせすぐ勇者さんに見つかりますよ。まともな会話もできなかったくせに意味ないんじゃないすかね。またぶっ飛ばされたいなら止めはしませんが、ラクダは渡しませんから、一人で頑張って行ってください」


「そうだよなぁ、状況が異常なほど変わったし一度指示を仰ごう……少し、疲れた」


「脆弱っすね。こんなんで音を上げるのが部下にいてナダローさんには同情しかないすわ」


 ジルニアは深い溜め息を吐く。心身ともに疲労いっぱいの状態で、彼の毒は正直重い。もう気を遣うのも疲れる。


「別に優しくとは望まないが、もう少しオブラートに包むとかないのか。君は誰に対してもそんな口の悪さなのか?」


「…………オレは結構長くトゥレーリオにいたんでそれなりに仲間意識はあります。気の良い奴が多いんすよ」


「突然何だ……まあ、そうだな……親切な人達だ」


「ええ。オレがナノンちゃんと呼ぶまでにどれだけかかったか分かります?」


「は? 何?」


「半年っすよ。これは平均的な日数っす。集計しましたから」


「……はあ」


「その平均をぶっちぎって無視してきた野郎がいたんすよね」


 言いたいことはよく分からないが、これは自分のことだろう。


「…………好きに呼べばいいじゃないか」


「はあぁ!? 分かってないっすね! これだから! これだから顔面無自覚ヤローは! そのハードルがどれだけ高いか! 少し親しくなれたと思ってからの一声の! ハードルが! どれだけ緊張するか!!」


 後ろで叫ばれてジルニアは顔をしかめる。顔面無自覚という意味の分からない単語を聞くのも面倒くさい。


「何が高いんだよ……呼び方がどうあれ、俺なんかより彼女が気を砕いているのは長く付き合いのある君らだろ? というかこれ何の話だ」


「オレがあんたを嫌いな理由です」


「やっぱり嫌いなんじゃないか。いや待て、最初から態度は悪」


「ま、それに関しては許してやりますよ。どうせ騎士サマは長くはいないんでしょうから。勇者さんの女に手を出してぶっ飛ばされたって、面白おかしく吹聴しておくんで安心して帰ったらいいっすよ」


「そ、ちょっ、違うだろ! そもそもリアちゃんは勇者さんの恋人じゃない!」


「やだなあ、情報操作は必要っすよ。自然でしょ? これは仕方のないことなんすよ」


「……腑に落ちない。痛ぇ、くそ」


 叫んだことでズキズキと軋む脇腹を押さえて前のめりになる。


「化けの皮が剥がれてるっすよ。女の前だからって恰好つけるからあんなことになるんす。大人しくナノンちゃんに治癒してもらえば良かったじゃないすか」


「あぁ……まさかいきなり勇者さんに攻撃されるとは予想できないだろ……治癒は王都に戻ってからで構わないと思っていたんだ」


「王都っつっても遠いっしょ。我慢するつもりで? マゾヒストなんすか?」


「なんでだよ。まあ、それに……ナノンちゃんは、ほら……少し、覚悟がいっただろ?」


 怪我の具合にもよるだろうが、治癒術の痛みで失神するなど聞いたことがない。加えて万全に治るかの懸念もあった。


「ハッ、選り好みした自業自得じゃないっすか。良いモンばっかに慣れて、ありがたみを分かっちゃいねえ」


「そうだな……反省するよ」


「ナノンちゃんは一所懸命に治癒術の鍛錬を頑張ってるんすよ。まだ不完全な治癒の、あのゾクゾクする痛みは一度味わっておくべきなのに。からの、最後のとびきりの笑顔、最高、天使」


「ああそう」


 まさかそれを受けたいがために、あえて怪我をしていないだろうなと、それ以上は言わなかった。

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