とある騎士の過日譚3
「おそらく……代表夫人を死に至らしめたものと同じ呪術かと」
『――――そのまま待て』
通信術具で報告を終えると、すぐに調査班を手配するとゼロが言った。しばらくすれば衛士に交じってディーテ村の件を把握した騎士も到着するはずだ。それまで、現場の確保に努めなければならない。幸いにも救助は終えたようで、教会の敷地内にわざわざ入ってこようという者はいないだろう。
細身の性別不明な焼死体は、水分を失った皮膚を黒く縮めていた。すでに鎮火された室内での焼死体というのも異様だが、それより目を引いたのは口元から胸部にかけての歪な傷跡。死因は明らかに、この内側から引き裂かれたような斬殺痕だ。
ジルニアは濃紺の瞳を細めて、転がった赤黒いそれに目を移す。
……無関係のはずがない。
球体から炎が立ち上る姿のまま床に転がるそれは、まるで秀逸なガラス細工のように美しかった。
先日見たばかりの、忌々しい血の炎。その炎が揺らめき続けていれば、ジルニアも体に異常を来していたかもしれない。
血の炎、そして呪術によって殺されたこの人物はユーグスに関係する者だったのだろう。リッカ教会と関係者に調査は入るだろうが、先程の逃げ惑う人々を見れば、全てが関係あるとは言いがたい。むしろこの混乱に乗じて、何かしらの情報を持っている者はすでに姿を消している可能性の方が遥かに高い。
集まった情報の利用と追加調査に関しては、仲間に任せることになる。指示がない限りジルニアは当初の任務のままだ。
ジルニアの意識が向くのはゼスティーヴァで見た人影だった。
全く同様の魔術かは定かではないが、氷属性自体めずらしいものであるし、あれほど広範囲を凍りつくす魔術をジルニアは知らない。
この礼拝堂内の惨状との関係については不明だが、火災を鎮めたのならば人々を救う意図があったことははっきりしている。ならば、そう悪い人物ではないと、つい期待してしまう。
サライドの衛士と、数人の騎士がリッカ教会火災の調査に集まった。
「なんだかいつも中心にいるよな、ジルニアは」
「……やめてくれよ」
ディーテ村から王都に戻る途中だった弌刻のトルテにそう言われてジルニアは冗談じゃないと軽く睨んだ。そこでふと、彼の黒の制服が汚れていることに気づく。
「怪我してるのか?」
「ああこれ? 森狼の群れに襲われてね。怪我は治してもらってるが、服はそのまんまでな」
「森狼? なんでまたそんな深いところに」
「それが街路の近くだったんだ。一人で歩いている子がいて、危ないからと声をかけたところに群れが現れて……調査中だが、ゼスティーヴァの件で森の動物も移動を余儀なくされたのかもな。これまで以上に警戒が必要になる」
瘴気の濃い場所を好むモンスターは、薄れゆくゼスティーヴァの瘴気だけでは留めておけないだろう。活動範囲は散らばることになり、爆発の衝撃もあってか、森の野生動物も混乱状態というわけだ。今までとは異なるでの目撃情報が増えそうである。
騎士団の人員も多くは割けない今、掃討任務もすぐには下らない。通常業務も最低限の人数確保は必要で、想像以上に人手が足りない状況かもしれない。
現場の引き継ぎを終えると、ジルニアは教会を離れる。空は明るくなり、そろそろ馬車の護衛依頼の時間だ。東第一門の付近には多くの馬車が並んでいた。
「場所はここで合ってるはずだよな……」
見回してみても、セリーナから聞いた外観の馬車は見当たらない。大きさが近いもので言えば、煌びやかな黒塗りの馬車がずっと止まっているが、御者の身なりは良く、依頼者の商人という風体ではない。御者は誰かを探しているように視線を彷徨わせ、護衛のような男も何度も辺りをうろついている。
長時間待っていたが、さすがにおかしいと感じ、ジルニアはギルドに一度向かうことにした。
「セリーナさんいる?」
「あ、え、ええっと、セリーナは今、ちょっと対応中で、出てます」
受付の女性はどうやら新人のようで、誰かに助けを求めるように視線を彷徨わせ、てんやわんやしていた。治癒班のナルと同じくらいの、成人したばかりの若い女性だ。
昨日以上に少ない人数の館内は、受付職員の数も最低限のようだった。
「そうか。なら、アバレスト商会の馬車の護衛依頼を受けていたんだが、待ち合わせ場所にいないから状況を確認してもらえるかな?」
「は、あい、ちょっと待って、あ、お待ちください!」
見ているこっちが不安になるくらい慌てた様子で、カウンター下から依頼用紙を取り出し、ずいっと差し出された。調べるにしても用紙が違う気がしたが、兼用なのかもしれないと名前と依頼先を記入してみた。
その用紙を奥へと持っていった受付職員に待たされること十分、首を傾げながら戻ってきた。
「あのー、この馬車はもう東門を出発しているようなんですが」
「え? どういうこと?」
「……わ、分かりません」
泣きそうな表情で震えている受付職員に、優しく言ったつもりが怯えられジルニアは困惑する。
涙目の彼女から何とか東第一門から出発の記録が入っているということだけ確認し、何の手違いかは判明しないままギルドを出た。終わったことを言ってもどうしようもないので、乗合馬車の予約所へ向かうことにした。
サライド発の乗合馬車はほとんど空きのようですぐに席はとれたが、出発は最短で明日のようだった。二日おきの出発なので、当初の予定通りといえばその通りであるが、何とも言えない複雑な心境である。
馬車旅のための荷物もすでに準備を終えており、ならばと、昨夜の酒場での言葉を確かめに行くことにする。
陽の位置が高くなる頃。サライドの八門から延びる大通りが交差する街の中央広場で、謳歌祭の開会式が行われた。
背筋がピンと伸びた市長は、白髪に穏やかな笑みを浮かべ開会の音頭をとった。若々しく見える男性だが、あれで四十は過ぎているという。
続いてギルド長の挨拶があった。先日ディーテ村で見た猛々しさとはうってかわった静かな態度に同一人物かと疑いたくなる。全体を見回す視線は、誰かを探しているように鋭い。
ゼスティーヴァの爆発に関することは調査中と軽く言及した程度で、酒場で聞いた攻略者の話は全くなかった。
さすがに、ないか。
騎士団から身を隠すように消えた人影が、ギルドに攻略者として現れるはずもない。彼らは誤った情報に盛り上がっていたんだろう。
ジルニアは早々に広場から離れた。しばらく歩いていると、たくさんの人の雄叫びが聞こえてきて驚き振り返った。方角は中央広場。年に何度か行われているはずだが、まさか開会式だけで毎回これほど盛り上がるのだろうか。
翌日は予定通りにサライドを出発した。
馬車に揺られ、することもなく景色を眺める。同乗者は身なりの良い老夫婦しかおらず、御者兼護衛が二人で、五人だけの寂しい旅である。
座席は板の上に薄い綿と布が張ってあるだけで、じっとしている長時間の移動に体が悲鳴をあげている。自分がこうなのだ、老夫婦は大丈夫かと見れば、馬車旅に慣れているのかいくつかのクッションを持ち込んでいた。
謳歌祭の度に、息子がいるトゥレーリオに行くのだという。祭りは騒がしく、自分たちには向いていない、と言っていた。
安全な旅路は三日目にやっと終わりを迎える。
何もできずほとんど睡眠ばかりだった馬車の旅は、任務だということを忘れそうなほどのほほんとしていた。いつも余分に持ってきているというクッションを皆で尻に敷き、車内で飲み交わすほどの仲になってしまった。
トゥレーリオに着き、まずは到着の連絡を終える。
騎士団のゼロに繋がる専用の通信術具は、遠方からの報告も可能だが、通信術の中継地が必要だ。大きな都市にはその中継地が存在するが、馬車旅の行程やミリオリアがある砂漠では声が届かない。ゼロの告げる副団長の指示は、当初のとおりトゥレーリオに馴染ませている者と合流し、その者からの報告を受け行動しろというものだった。
ジルニアは冒険者ギルドに向かう。荷物の授受の依頼を出しているそうなので、それを受け取るためだ。指示されたとおりギルドの受付で登録証を提示し片手に乗るほどの小箱を渡される。
これからしばらくトゥレーリオで冒険者業をすると、受付の男声に軽く挨拶をすると、はいはいとすげなくあしらわれた。小さいギルドだったので、親しくなれれば情報も得やすいだろうが、時間がかかりそうだ。
外に出て、先に送られてきていた小箱の鍵を使って解錠すると、中からは人指し指サイズの通信術具が出てきた。
「ジルニアだ。トゥレーリオに到着した。返答を頼む」
対になる通信術具にむけて呼び掛ける。対はトゥレーリオにいる協力者が持っているはずなので返答をそのまましばらく待った。しかし静かなままなので出られる状況でないのかと、先に宿を探すことにした。
これからミリオリアに入り浸ることになるので、拠点となる場所を確保しておく。高い建物のない広い街並みを眺め、ジルニアはギルドに近い場所から動き始めた。
安宿を一先ず二週間とり、馬車旅で嵩張った荷物からやっと解放される。
『遅いっす』
窓から人の少ない街並みを観察していると、突然そう呼び掛けられる。
特徴のない声音の男声は、何故か機嫌が悪そうだった。
ジルニアは通信術具に触れ魔力を流す。
「悪い。詳しく話を聞きたい。どこにいる?」
『ソッコー来てください。道すがら報告しますんで』
「来てとは……どこにいるんだ?」
『ここに何しに来たんすか、ミリオリアに決まってます』
淡々と、さも当然のことのように言う。
確かに声の言うことに否定はないのだが、状況説明どころか名前も場所も告げない返答に釈然としない感情が生まれる。
「すまないが、簡単にでも状況と名前を教えてほしい」
すると、あからさまに溜め息が聞こえてくる。母音が尾を引いた、相手に聞かせるための溜め息だった。
『ミリオリアの合同クエストっつって、皆で明日にはダンジョンに入るんす。アンタ出遅れてますよ? あとオレの名前は、騎士サマに呼ばれるようなことはないんで言う必要ないっす』
「そう……分かった」
トゲのある言い方はわざとなのだろうか。ただ、今回の任務の協力者なのだから良好な関係が望ましいと、ジルニアは文句を飲み込んだ。
口振りから、声の主はどうやら騎士ではないらしい。副団長の私兵ということかと、特に驚きもせずに納得する。おそらく、あちこちに彼のような情報網となる者達がいるのだろう。
名乗る必要がないというのも、報告や連携は全て通信術具を通してのやりとりになるということだ。確かに、トゥレーリオでは余所者になるジルニアがその協力者と共にいるのは他者の意識を留める理由になりかねない。目立たなければその方が良い。
ギルドにほとんど冒険者がいないのは、どうやらその合同クエストとやらに参加しているからのようだ。多くの冒険者に混じっていればミリオリアの空核の入手もし易い。副団長の懸念に加えて、ミリオリアの調査をする格好の機会だが、まだ何も情報がない。
「ミリオリアまでの移動手段はラクダか。確か入ってすぐに……」
『今回借りてる人数多いんで全部出張ってますよ。ビルダ砂漠はそんな寒暖差があるトコじゃないんで、走って来りゃいいっす』
「は……本当か?」
ジルニアは思わず疑わし気に問いかけた。
大人数に借りられているといっても、砂漠地帯に面する街で一匹もいなくなるというようなことはないだろうと思っての問いかけだったが、協力者は嘲るように挑発してくる。
『まさか騎士サマとあろうもんがそんな体力もないんすか。冒険者より軟弱なんすね。軟弱でも最低限水だけは持ってきてくださいよ、干乾びてもオレの知るところじゃないんで。
それはそうと無駄な質問してないで、さっさと出発したらどうすか? 待ってたこっちの身にもなってくださいよ。ついでに砂漠入るまではいちいち連絡しないでもらいたいっすね。じゃ』
一方的にまくし立てられ、ジルニアは言葉を失う。
……合わなそうだ。
先行きを不安に感じながら、ジルニアは宿を出た。
ギルドでそのミリオリア合同クエストについて尋ねると「ビビりどもが集っていくだけだ」との言。どうやら、銅ランク以下との制限付きのもので、銅の上位から銀ランク以上の稼ぎの良い冒険者がサライドの謳歌祭に行っている間に多人数で臨むからそのようなこき下ろした言い方をしているようだ。受注中にも色々尋ねてみたが、依頼掲示板を読めと払うように手を振られた。
依頼者はエイラという女性冒険者で、ミリオリアへの挑戦は明日の朝と記載されている。あまり情報収集もできずダンジョンへ臨むことになるが、副団長の信用を得ておりトゥレーリオとミリオリアに詳しい協力者が必要と判断しているのだ、向かわないわけにはいかないだろう。
細く日焼けに黒くなったラクダ屋の主人は「行けなくはないけど、素人にはおすすめしないねぇ」と言ってラクダを貸してくれた。併せて、ミリオリアを示す方位磁針など必要物資を購入し、砂漠に臨む。
「ラクダは借りられたよ」
『……チッ』
ミリオリアへの出発を告げたジルニアが、フードを目深に被って風の雑音を遮ると、通信術具から舌打ちが聞こえてきた。
本当に信用していいんだよな……?
『ちょうど返却されたんすかね。運が良かったんすね。んで、早速ですが、トゥレーリオにいる冒険者のほとんどが今謳歌祭に行ってます。今回ミリオリアに参加してるのは、貧乏であんま強くない奴らっすね。ついでに言うと強くないってのは性格的にもっす。他は冒険者業を片手間にやってるか、ダンジョンで動けるほどの耐性がない奴らなんで、ナダローさんの求めるのには当てはまらない感じっす。じゃあ、一人ずつ言っていきますよ?』
副団長の名を親し気に呼ぶ彼は、ジルニアの来訪理由を正確に把握しているようだった。疑ってしまったことに申し訳ない気持ちを僅かに抱きつつ、続きを促す。
『まずはメル・フォーア。生まれはトゥレーリオの商家でしたが九年前に両親は他界、年の離れた弟が一人いて、ずっと冒険者業してます。受けるクエストは専らミリオリア関係で、たまにルーキーのパーティに頼まれて依頼を受けたりしてるようっす。ギルドとクエスト以外はだいたいが直行直帰。姉御肌で優しくてオレはまあまあ好きっす。
次ナノン・クロイス。二年前にトゥレーリオに一人で現れて冒険者を始めつつ、宿場に住み込みで働いてて、それ以外は勉強ばっかしてますね。当時は自分の世話さえできず訛りが北部寄りだったんで、サゼン暴動から逃れてきた貴族の生き残りのようっす。雷属性の魔術と治癒術が使える努力家で、かわいくて性格が良くて美人でかわいくて大好きっす』
「君の情報収集能力は素晴らしいんだが、最後のは必要か?」
当人の外見を見知らずこのままの調子で多人数の話をされるのかと頭を抱えたくなる。なるほど砂漠に入って道すがら伝えるのが妥当だ。黙々と聞く必要がある。ただ、できれば不要な情報は付け加えないでほしいところだ。
『さあ? 判断すんのは騎士サマっしょ』
「そうだが……はぁ、続けてくれ」
彼の一貫してジルニアを蔑ろにした態度に、気にしない方がいいと諦め、集中して聞くことにした。
それからも次々と話す冒険者は女性ばかりだった。ジルニアに分かり易く男女別に分けてくれているということだろうか。
『エイラ・メイニン。今回のミリオリア合同クエストの発案者っす。半年前にトゥレーリオに現れて、来た時は魔術を使えるって言ってたんすが使ったとこは見たことないっす。主武器は弓で、ライシンさんとよく一緒にいますが、夜中にトゥレーリオから出てくのを二度見たことがあります。かわいいっちゃかわいいっすが、オレのことは無視してくるんで嫌いっす』
まあまあ好きか、大好きのどちらかだった中に、嫌いとはっきり言った女性がいた。否が応でもジルニアの記憶に残り、どうにも毒されている気がしてならない。
『次は、サディオス・ユーイック。美人な元銀ランクの嫁と、あーあと息子もいましたね。息子はコルオリカ。あんま興味ないっす。エト・トルネリリ。キザ野郎っす。興味ないっす。ザラン・シ』
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 情報量に差がないか?」
男性パートに入ると明らかに内容が適当になった。話しの途中で止められたことに再び舌打ちが聞こえた。
『野郎の話なんてして何が楽しいんすか』
「……楽しい楽しくないの話しじゃない」
『ああ、騎士サマはそっちの。男所帯っすもんね。オレは偏見ありませんよ』
「なんでそうなる。そうじゃなく君の主観で」
『ああ! オレとしたことが、女の子もう一人いました! 昨日トゥレーリオにきたばっかの余所者でまだ名前も顔もランクも分からない子っす。声とチラッと見えた目元だけっすけど結構若い子のようで、ずっと兜だけを小脇に抱えてます。謎の多い女の子は嫌いじゃないっすね』
マイペースに話を再開させられて、ジルニアは項垂れた。こちらが真面目に対応するのが馬鹿を見ているようだ。
「はぁ……兜だけ? ……なんとも怪しさ満点というか」
普通に考えたら、顔を隠すことは後ろめたい何かがあるからだろう。
『そうっすね。まあでも勇者さんのツレなんで、微妙なところです。証は本物のようでしたし』
「っ勇者がきているのか!」
ジルニアは興奮と共に驚いたが、あり得ないことでもない。
勇者――勇敢なる者という使節が始まり、すでに十三のパーティ、総勢七十四名の勇者が発った。
二年半前、世界中に轟いたであろう声があった。
当時の全ての人々が聞いたという声は、地の底から響くような低い男の声とも、耳障りな甲高い女の声とも言われた。聞き手によって異なる印象を与えたその声は、告げる内容だけは一致していた。
曰く――我は世界の支配者である。生命現象は全て我が手中にあり、彼の地で待つ――と。
明確な意図も不明であり、対処のしようもない、言葉だけの支配者の存在。神のお告げと言って言葉に従う国と異なり、信仰心の薄いアウレファビアの国民はただただ混乱状態に陥った。対抗策が必要かさえ分からない“声”に国営に重要な騎士団を動かすといった予算は割けない。だが放置もできない。
そこで王は人々の不安を退ける象徴を作る。
支配者と名乗る者を見つけ出すべし。国内に限らず、調査、保護、捕縛あるいは滅せよ。そのための国外への移動も可能な使節――勇者という肩書きだった。
無論、実質的な結果も求めるものであるが、最も重要なものは、王の派遣した勇者が救う、というイメージ戦略である。これはアウレファビアに契約魔術で縛られた者のみ開示された情報だが、さといものは気付いているだろう。支配者を魔王と分かりやすく名称付けたのもその一環だ。
勇者となるものは、滅私奉公を前提とする、実力の確かな者達である。人々の希望となる羨望の的として、大々的に王が後ろ盾となっているのだ。
王国直属の騎士団とは管轄が全く異なるので詳細な情報は知り得ていないが、三つのパーティが協同国(アウレファビアに協同の意思を示した国)以外の他国あるいは未開拓地まで調査を進めている。四つのパーティは人跡未踏の国内に所在を確認しており、六つのパーティは未報告または死亡扱いの行方知れずとなっている。
王都に比較的近いトゥレーリオにきているならば、最近出立した勇者であろう。ジルニアはディーテ村に向かう前は王城の守衛をしており、もしかしたら見たことがあるかもしれない。
「名は?」
「アー……っと、モンスターが出たんで切りまーす」
「えっ」
中途半端なところで通信は中断させられてしまう。
僅かに興奮した声音が伝わってしまったのか知らないが、通信を再開した後もジルニアの質問は無視され続け、陽が完全に沈んだ頃にやっと教えてもらうことができたのだった。
男の子の憧れ、勇者です。




