トーク集4.トリムとアーサ
二章24話と25話の間の会話。
ミリオリアへと、ラクダに乗り砂漠を行く道中。
アーサの腕の中で、いつの間にか唸り声から穏やかな寝息に変わったリア。
「寝ちゃった」
「こいつは神経が太いのか細いのか分からんな」
「そうなんだ。おもしろい子なんだね」
「そんな言葉で片付けられないぞ、この問題児は。変なところで思い切りがいいからな、目を離した隙にとんでもない事態を引き起こす。正直、首輪でも付けておきたいところだ」
「あはは、しっかりしてそうなのに。……うちで飼ってたミールっていうリスがいるんたけど、小さくて、ちょこちょこ動くかわいい子でね、僕の頭の上で寝るのが好きなんだ」
「?」
「その子は、なんていうか、おっちょこちょいでよくうちの物を壊してた。それだけならまだいいんだけど、ある時、肩に乗って一緒に外を散歩してたら野犬が飛び出してきてね、びっくりしたのかミールは自分からその野犬の口の中に飛び込んじゃって。なんとか無事ではあったんだけど、それから外に出るときは首輪で繋ぐようになったんだよね」
「何故そんな話をする」
「似てない?」
「……洒落にならん」
「冗談だよ。どちらかというとリアは僕の二番目の兄さんに似てるよ。しっかりしてて優しい兄さん。でも僕より弱いから守るんだ」
「まあ、とりあえずはそれでいい。さすがにあれだけ言えばこいつも自重するだろう」
「うん。それより、僕はトリムさんの方がおもしろいなって思ってる。トリムさんの体を覆ってる魔術も、トリムさんが使う魔術も、アウレファビアのものじゃないよね?」
「……まあな」
「中央とか東南大陸の序説はそんなに変わらないって聞いたから、僕の知らない魔動なら、西セール大陸とか、灰石海の向こうとか?」
「よく知っているな。だがお前の知らぬ土地だろうよ」
「へえ! やっぱり、トリムさんが一番おもしろいよ。どうしてそんな遠くから頭だけここに来たの?」
「来たくて来たわけではない。この国が最も大きい大陸の最も大きい国だったから、たまたまだ。体も一応この国のどこかにある、はずだ」
「ふーん? 連れてこられたってことかな?」
「そういうことだな。どうやってかは知らん」
「誰に?」
「……知る必要はないだろう」
「そっかぁ、残念。リアくらい仲良くなれば教えてくれるのかな?」
「仲が良いわけでは…………それにリアは何も知らない」
「知らないの? うーん、じゃあ僕が教えてもらえるのはずっと先かあ」
「これには教えるつもりはない。危う過ぎる」
「え、そうなんだ? ……トリムさんとリアって不思議な関係だよね。パートナーって感じでもないし。師弟ともちょっと違うかな……トリムさんがなんていうか、そうだ、お父さんみたい」
「やめろ」
「あ、ごめん。でも何も教えないままリアと一緒にいるのが不思議だなって思って」
「…………」
「それも知る必要がない?」
「ああ」
「そっか。うん、分かった」
「……お前もリア以上に分からん奴だな」
「そう?」
「物分かりの良さが不気味だ」
「えーそうかなあ。大丈夫だよ? トリムさんの言うことは守るって。仲間だもん」
「随分と曖昧なものを理由とするんだな」
「理由がなくても信じるから仲間なんだよ。トリムさんとリアもそうでしょ?」
「根底が不安定だな……俺達は違うが……まあ、いいだろう。お前のことは行動で判断するしかない。リアの身を守ることを最優先に動けば、あとは自由にするといい。敵対は避けたいからな」
「敵対なんてしないよー。それに僕もリアも勇者だからね」
「それが理由になるのか?」
「なるよ。弱きを助け、悪を挫く。私を滅し、国に尽くす。勇者であるための前文だ。ダンジョンを潰すことも含まれる」
「その意識とリアに相違がある気がするんだが。少なくとも欲望を滅しているところを俺は見た覚えがない」
「そうなの? そういえば、前言ってた暴挙ってどんなこと?」
「そうだな、コレの行いを話しておこうか」
砂漠の夜が近付いてくる間、リアが目を覚ますまで話しは続いたのだった。
すやすや。




