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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
二章 上半身と光の勇者と目の上のたんこぶ
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31.返ってきた中ボス戦

 その驚きの結果にリアは絶句していた。

 数秒後、眩い光が穴の先から溢れ、通り過ぎていった。見覚えがある真っ白な輝きは、アーサの光の斬撃だろう。

 出口を塞いでいた大きな何かは身を二つに割り、崩れた重い体躯は白壁を伝ってリアのいる穴の中まで揺らした。

 しんとした静寂はほんの短い間で、すぐに歓声が沸き起こる。限られた空間でのその大声量は、地響きの如く空気を震わせる。

 上にいたのは何だったのか、なんて簡単に予想はつく。


「出遅れたどころか、終わってしまった中ボス戦……」


「愚鈍でも人海戦術で削れたようだな。割りに早い勝利でまあ及第点だ」


「……そっすか」


 上で頑張ってくれてた冒険者達にこの偉そうな口振り、何様か。

 リア達の中ボスへの一撃は密かなものになるだろうから、自分も頑張った感を醸し出したいリアとしては微妙な結果である。もう少し早く辿り着けていれば中ボス戦に参加できたのに。恨むべくは自分の体力不足。


 氷の階段が早くのぼれというように出口まで一気に作られた。合わせて、それまでの階段が次々と粒子に返ってゆく、とてつもない勢いで。


 走れと!


 休憩にしても短い時間で、リアは体に鞭打って残りの階段を駆けあがる。

 出口は近く、人の気配が多くある。倒したのなら、次は核の回収だ。この氷の階段が見られたくないからなのか、全力で急かされたリアは血を吐きながら(比喩表現)中ボスフロアへと飛び出した。

 リアの足が離れた瞬間に最後の階段は消え、ギリギリだった。


「っ……ごほっ……っは……は……はぁ」


「トレーニングが必要かもな」


「よけ……はぁ……はぁ」


 片膝をついたリアは声も出ない。

 中ボスの体に囲まれたその場所に、リア達の空けた穴の上から影がかかった。


「ああ、やっぱりトリムさんだった。このモンスターの結界もちもちしててすごくやりづらかったんだ、ありがとう。…………リア、どうしたの?」


 気遣う声は、アーサのものだ。飛び降りたアーサはリアのすぐ前に軽く着地した。

 息を整えるのを待てと片手を上げて応える。


「怪我したの? 大丈夫?」


「ただの運動不足だ」


「ちが……っひぅ」


 トリムの失礼な物言いに言い返そうとしたら、上体を起こされくるんとひっくり返された。否、抱き起された。仰向けになったリアは背と膝裏に安定感ある腕を感じる。俗に言う、お姫様抱っこ。

 初めての体勢に驚き過ぎて息が止まる。


「は……っとぁ!?」


「リア、動かないで。一旦外に出るだけだから」


 リアは咄嗟に押し退けようとしたが、腕から落ちかけることもなくバランスをとられた。そしてアーサは人ひとりを抱えている鈍さなど微塵も感じさせない動きで上へと跳んだ。

 深呼吸を繰り返すリアは大人しく体を預けることにした。心臓がどきどきしている原因は微妙なところ。

 中ボスの体はやはり相当大きかったようで、その様子を見ようと視線を下げたリアは表情を歪めた。


「うぇ……きんも」


「独特だよね」


 中ボスは一見、大蜘蛛の親玉と言える形状をしていた。

 直径10メートル程の球が潰れたような丸い体からは、放射状に蜘蛛に近い脚がのびている。

 しかし、大まかにいうと似ているというだけで、その体のつくりは全く異なっていた。

 頭部も腹部も別れていない体の真上には、絞り口のようなギザギザの口があり、半開きのそこからは鋭い牙が覗いている。体の表面にあるフジツボのような何かからは紫のドロッとした液体が漏れだしている。アーサはそれを踏まないように歩いているので毒だろう。

 丸い体の倍以上ある太く、長い脚は、左右ではなく等間隔に十本生えているので死角もなさそうだった。


 もちもちした結界を使ったというのだから、これと正面からやり合うのは、視覚的な面も加えて戦い辛いだろうなあと思う。


 地面に降り立ったアーサに下ろしてもらう。

 おそらくとどめをさした立役者に注目が集まるのは当然で、そんな勇者が救いだしたリアにも視線が集中する。

 とても痛い。

 私のことは気にしないでと片手を顔の前で振り、アーサの背に隠れる。その変な行動に眉を寄せながらも、冒険者達は中ボスの核の回収にパラパラと移っていく。

 ふぅ、と息を吐くと、神妙な顔でメルが近付いてきた。


「リア……あんた食われてたの?」


「いや、ちょっと下に」


 現れ方からそう見えなくもない。

 下という言葉に首をかしげたメルに説明しようとしたところ、ナノンが駆け寄ってきた。


「リアさん! お姿が見えなかったので心配しました。ご無事でなによりです。……それは良かったのですが、後でお話しがありますのでよろしいですか?」


「え、う、それはちょっと」


 ほっとした表情のナノンだったが、その後の笑顔に何か圧がある。どう考えてもアーサ関係だ。否定していたのに想い人にお姫様抱っこされてたならそりゃな。

 じり、と後ずさると今度は背後から冷たい声がかかった。


「あんたまた? 一体どこで何してたの?」


 リアはむっとして振り返る。

 また、というのは、またサボっていたと疑った物言いだ。


「もぉ、ライシンてばそんな言い方、心配したのよねぇ?」


「くたばられちゃ勇者様が気に病んじゃうじゃない」


 イーナがフォローしているが、ライシンとの溝は埋まりそうもない。バチバチと火花を散らせる間にため息がつかれる。


「オレ、穴に落ちるとこ見たんだけど」


 コルオリカがおずおずと言った。半信半疑の少年の疑問視には応えねばなるまい。


「ちょっと舞台裏に忍び込んで、下にいたモンスターを全部やっつけてきました」


「何それ? 逃げ込んでただけじゃないの」


 笑顔で答えたリアの元に、再び火種が落とされた。


「はあ!? 違いますし! ちゃんと倒した証拠がありますから自分の目で見てきてくださいよ!」


「そんな危ないとこ行けるわけないじゃない。私を嵌めようとしてんじゃない」


「しっつれいな!! 言いがかりもいい加減にしてください! ちゃんと確かめて、謝ってください!」


 ライシンはこれっぽっちも信じていない様子で肩をすくめる。

 リアはさらに言い募ろうとしたが、それをメルが止めた。


「まあまあ、それがホントならこの穴の下には核がたくさんあるってことだよね? 確かに途中から大蜘蛛(スパイル)が全く出てこなくなって、今回は中ボス(ドイラーバイル)まで出現した。この人数で勇者様がいたから良かったけど、いつもならこいつが出てくる前にミリオリアの変動で帰ってるところだよ。まだ時間あるし、下で倒されたっつー核を回収できれば相当な稼ぎになる。てことで、とりあえずあたいが行くわ」


「え、ちょっとメル?」


「ロープ借りてくんねー」


 驚いたライシンに対してメルは片手をひらひらさせて他の冒険者にロープを借りにいった。無言の気まずい時間が流れる。

 他の班の冒険者も連れて戻ってきたメルの耳元には通信術具がついていた。対になるもうひとつの通信術具をライシンに差し出す。


「な? あたいの言うことならライシンも信じてくれるだろ? それともあたいもグルになってるって言う?」


「……っ、自分の目で確かめるわよ! 一人じゃ危ないでしょ! イーナ、あなたも行くわよね?」


「ええぇ、もぉしょうがないわね」


「オ、オレも」


「お前はだめだ。父さんが行く」


「自分が行きたいだけだろ!」


 中ボスの核を取り出し、邪魔な身を寄せたところで、わちゃわちゃとそんな話に食いつく人が多数。

 意外とみんな裏側には興味があるようで、今回のように下に穴が空くことはあっても、時間の都合上入ることは叶わなかったようだ。せっかちなトリムの恩恵がこんなところに。

 合同クエストだったおかげでロープも余裕があり、いくつか繋ぎ合わせた縄梯子状の長いものができあがる。

 いや、降りるのはともかくそれ登るのかと、リアは冒険者達の体力に戦いた。


 だが、メルが一番に降りるはずが、ここで名乗りをあげたのが意外な人物だった。

 トリムが言うにはゼスティーヴァにいたという騎士の冒険者。何やら彼は魔術で飛べるというのだ。何だそれすごい。

 まずはその自称冒険者(騎士)が危険がないか見てくるという。

 彼からはちょいちょい視線を感じていたが、徹底して避けていた。なんてったってモンスターのことは教えてくれないトリムがいちいち知らせてくれるのだ。危険視度が半端ないので素直に従っておくに限る。


 そんな颯爽と落ちた自称冒険者の大丈夫そうだという通信に女性陣が俄かに沸き立ち、次いで降りていったメルのすっげーという通信に全体が盛り上がった。

 余所者への隔たりを感じつつも、女性冒険者達は真実を見抜いている。

 自称冒険者は見目はそこそこだが、戦いも人への態度もスマートで、荒々しい冒険者の中では珍しい清潔感がある。何より、すごく甲斐性がありそう。王都の騎士様だから、そりゃあ家計は安泰だろう。


 次々と穴を降りた冒険者達は、引き上げる者達とリアを残して二十名弱。

 核を引き上げる作業に大忙しの冒険者達を横目に、今なのかなあと、リアは彼らから静かに離れ、黒扉の前に行く。アーサはなんかナノンに捕まっているが、そこは任せておこう。

 今ならば、邪魔をするモンスターもおらず、人の目も少ない。落ち着いてボス部屋の扉開けに臨めるというものだ。


「こうなると分かってのことですか?」


「最良ではないが、多少は役に立った者達だからな、目こぼししても問題はないと判断した。あの騎士さえいなければ、いてもいなくても大した妨げにはならん」


「ちなみに最良は?」


「誰の目もない方が良いに決まっているだろう」


 それ即ち、リア達以外をこの場から消し去るということ。離脱できればなんて考えていたリアだったが、トリムは彼らを全て穴に落として塞いでしまうこともできるのだ。下手したらこの世からも消し去ってしまう。

 及第点がもらえていて良かったなと思う。


「何事も完璧を求めるのは良くないですよね。人生においてはベターがベストです」


「真逆を行くお前がいるからな、最良でちょうどいい気もするが……まあ、いい。さて、リア、開けてみろ」


 ――――え? 初っ端から……?


中ボスのすの字だけお披露目。

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