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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
二章 上半身と光の勇者と目の上のたんこぶ
54/122

24.誤解が解けたわけではないようです

 多少疲労の色が見えるものの、しっかりした足取りでリアに近付くナノン。

 横に立つアーサに一瞬視線を送り、すぐに離す。少しだけ強張った表情は、我慢しているようにも見えた。


「メルからお名前は聞きました。リアさん。私はナノン・クロイスと申します。お見知りおきを」


「……どうも」


 ひらひらと動くものが視界の隅に映り、ちらと目をやるとメルが手を振っていた。ついさっき名乗ったばかりで、すぐにモンスターに遭遇したというのにいつの間にそんな話をしたのやら。

 ナノンが話しかけたせいで、今まで彼女に注目していた視線が全てこちらに集中してしまっている。リアの名前も意図せず知れ渡ってしまった。

 そして、目の前にナノン、後ろにライシンと呼ばれていた女性軍がおり、挟まれて逃げられない。「どういうこと?」と背後から聞こえた。

 ナノンは彼女達に視線をやって頷いた後、フードの奥を覗き込むようにリアを見た。


「最後のデザートスコーピオンを倒したのは、リアさんだと伺いました」


 周囲が僅かにざわっと沸き立った。


「……誰にです?」


「勇者様に」


 見上げると、アーサは口の端を上げて小さく首を傾ける。

 聞かれて素直に答えたんだろうが、正直ナノンは半信半疑のようである。遠くにおり確証もなく、勇者の言うことだから信じている気持ちと、信じ切れていない気持ちが見え隠れしている。


「だよね?」


「まぁ、そうですけど」


 ライシン達の非難は、合同クエストを受けた皆が協力してモンスターに臨んでいる中、一人サボっているリアを責めるというよりは、勇者に特別扱いされていることへの不満が大きいように感じる。なのに、勇者の口から事実であれ庇うような言葉が出たということに、また妬みを募らせているだろう。

 この勇者、絶妙に空気を読まない。

 流れとして、自分で戦いましたよーの証明をしなければならないとか、あほらし過ぎる。どうにもめんどくさい展開になりそうな予感しかない。


「あの爆発……あなたも魔術師なのですか?」


 誤解を解く必要性も感じられず、口を濁して早くフェードアウトしたいのが本音である。だが、ナノンは信じている(てい)で聞いてくるので、自分から違いますというのも変な話だろう。


「いや……あー、まあ、そうですね」


 うっかり魔術師であることを否定しそうになった。


 危ない危ない。そういうことになってたんだった。


「でも、あれは矢で射っただけですよ。あの爆発は火石です。火石の矢」


 曖昧な物言いから次いだ言葉に、ナノンは細い眉を寄せる。


「矢で射っただけ、ですか? あの距離から、強い風も吹いているのにですか?」


 ナノンは驚き、少しだけ疑いの感情を織り混ぜて問う。


 ん?


 リアとしては魔術師らしいナノンに魔術のことを聞かれでもしたら確実にボロが出るので、そういうことにして話しをさっさと終わらせるつもりの発言だった。

 実際はトリムの手助けは受けたものの、狙って放ったのは間違いないので矢だけの攻撃であればそう特別視されるとも思っていなかった。

 だが、どうやら反応が予想したものとは違う。確かに遠くのものを撃つ技術は人より上手い自信はあるが、訝しげに見られるほどのものではないはずだ。


 何かまずかった?


「えと、ここの風は変則的でもないですし、このモンスターもそれほど動きは速くなかったじゃないですか。そんなに難しくはないと思いますけど」


「そう……なのですね。それほどの経験と技術があるのにランクは鉄なのですか……?」


 うん? 鉄ランクなのにそんなことができるのかって話ですか。


 メルはリアのランクもナノンに伝えていたようだ。

 一体何のためにだ、とじろっとメルを見たら、彼女は腕を組んで神妙な表情になっている。メルも納得できない様子であるので、リアの方が訳が分からない気持ちになった。


「何ランクかってそんなに関係ありますかね?」


「もちろん、強さの指標ですから。一般に鉄ランクは、新人冒険者を指します。身に付けた技術が形になり、ギルドへ申請して問題なくクエストを成功させると銅に上がれるのです。

 リアさんのそれは、既にその域に達しているかと思います。それが本当なら……いえごめんなさい、どうして鉄のままでいるのかと不思議なのです」


「……それは、登録証もらってまだクエストを受けてないからで……」


 ごにょごにょと言う。

 トリムに相当馬鹿にされ続けているが、リアもさすがになりたてほやほや冒険者よりは弱いと思っていない。それを示す材料がないだけで。


「元々実力がおありで、これが初めてのクエストということなのですね。それでしたらば、分かります。稀にですが、効率的にランクを上げるためミリオリアのクエストを受ける方もいますから」


 だが言い訳のようにも聞こえたリアの言葉に、ナノンは納得してくれたようだった。

 他の冒険者からも「ふーん」とか「ああー」とか呟きが聞こえ、リアに対する興味が薄れていったようでばらけていく。しかし背後の女性達からの威圧感はまだ消えてくれない。何故か隣にいた勇者は消えた。


 なるほど、冒険者にとってランクは中々に重要なファクターらしい。クエスト受ける時の適正レベルの目安程度にしか考えていなかった。これは箔をつけ、今後同様な言いがかりに悩まされないためにも上げておくべきなのかもしれない。

 そう思いついたところで、このダンジョン攻略を成功しても申請もクエスト受注もしていないので鉄のままだということに気付き肩を落とした。


「ええ、まあ、似たようなもんです。ランクもそうですね、申請なんかはしてないので、追々上げることができたらいいですよね」


「あら、本当に冒険者になったばりなのですね。内容によって事後申請でも受理してくれることがあると聞きますから、ギルドに話してみると良いですよ。鉄から銅に上がることはそう難しくありませんもの」


 ナノンは幾分か柔らかくなった表情でリアに微笑みかける。親切に教えてくれるが、残念なことにクエストを(以下略)。

 遠い目をして「へー」と言うリアに、続けてナノンは説明してくれる。


「ただ、その次の壁が大きいのです。銀ランクになるためには純粋な実力のみならず、豊富な実績、他の人を率いる統率力が伴ってなければなりません。そして冒険者になったからには、上を目指すのは当然です」


「そーなんですか。上の人は大変そうですね」


 聞く限り、強いだけじゃ駄目ならばおそらくアーサは銅止まり。それから色々劣ったリアが個人で上がることなど到底できそうもない。

 元パーティは銀になったばかりだったが、そんな大変な経緯があったんだろうか。


「そうでないやつもいるようだがな」


「そうだ、搾取するだけの働かない野郎もいる」


 ナノンの後ろで残っていた男達から不満の声が上がる。何やらトゥレーリオには根が深そうな問題があるようだ。核を奪われるというアレか。

 さらに、彼らは高ランク冒険者のあるべき姿にこだわりがあるみたいで、そんな期待も含めて大変そうだなと思った。


「残念なことに、一部の冒険者にはランクを笠に着て乱暴な行いをする方もいらっしゃるようです。私たちは下位の冒険者に対しても恥じない行いを心掛けるつもりです。そして今は力不足の私たちは助けあうことが大事なのです。だからあなたも、協力してくれますか」


 何と言うか、優等生の言葉だな。


 今回のデザートスコーピオンの討伐に加わったか定かなところは分からないリアを追及することはせず、次からは分かるように協力してねと言っているのだろう。ナノンは善良ではあるが苦手なタイプだ。

 助け合う素敵なトゥレーリオの冒険者仲間に加わりましょうと、暗に誘われている気がしてならない。


「もちろんミリオリア攻略には協力しますよ」


 はいともいいえとも明言せず、とりあえず限定的に答えておいた。どちらにせよ、この街に長く居ることはないのだから問題はないだろう。

 ナノンは、リアの回答が予想したものとは違うのか目を丸くした。


 あれ、また変なこと言った?


「わ、私たちは旅する身ですから、ミリオリアの攻略が終わったら出ていくので、あんまり気にかけてもらわなくても大丈夫ですよ」


 そう補足しておく。


「…………そう、ですか」


「長いことここにいたらまたモンスターが出てきますよ。早くダンジョンに向かいましょ?」


「……そうですね」


 頷いたナノンに、話は終わったようだと彼女に背を向けると、まだ背後にライシン達がいたので、踏み出した足を地に下ろせずによろめいた。

 ライシンは他の冒険者とは違って、未だ疑いの視線を弱めず睨んでいる。


「あんた、嘘言ってんじゃない?」


「別に信じてもらわなくても結構ですよ」


 ライシン達とは表面上だけでも仲良くできさえしないなと、負けじと睨み返した。他の冒険者達が移動を始めている。しばらく無言で睨み合っていたが、ライシンは「ふん」と鼻を鳴らすと去って行った。


「リア!」


 呼ばれた声の方を見ると、いつの間にか姿を消していたアーサが駆け寄ってくる。そばにいてとは言わないが、一言は必要じゃないのか、アーサも大概自由である。

 溜息を吐いてリアは自分のラクダに向かう。


「順次出発しているようですので私たちも行きましょうか。アーサのラクダはどうしたんですか?」


「さっきので逃げたラクダがいるんだって。だから僕が借りたのを貸してあげたんだ」


「は」


 ……良い人すぎない?


 アーサのその対応に呆れて絶句する。体力は消耗するが行けないことはないし、ラクダレンタルにもお金はかかっているのだから、放っておけばいいのにと咄嗟に思ってしまった。

 困っているからといってそんな自己犠牲精神を発揮するなど、高貴な人は思考が違うのだろうか。リアには絶対できない行動だ。心の、いや懐の余裕の違いか。

 今さら貧乏性は変えようもないので、彼は彼、私は私、とそれぞれの美点を尊重すべきであろう。貧乏性の良いところは、うん、その、物持ちが良いところかな。


「そう、ですか。頑張ってくださいね。ところでアーサ、すいませんがこのラクダ座らせてもらえませんか?」


 ならば彼は走って行くのだろうと激励後、無視を決め込んでいるラクダの手綱を引っ張る。ラクダは首を少し動かしただけで、ぷいとそっぽを向いた。


「うん」


 アーサは容易く座らせる。

 分かっていたラクダの従順さに頬をぴくりと動かしたが、ここは大人になろうと、何も言わずラクダに乗った。

 そして、リアの後ろにアーサが乗った。


「え? アーっひゃ!?」


 がくんとラクダが立ち上がり、振り返りかけたリアはバランスを崩した。その肩を安定感ある腕が抱きとめる。見上げればにこっと笑顔を向けられたので、リアも引きつった笑みを返す。

 それからミリオリアまでは、アーサが(たか)られることもなく遠巻きに見られながら道中を行くことになる。

 ひとりではそこそこな実力の主人公。中の上くらい。

 ただ今まで周りが凄すぎて自己評価が低く、今までの行いからトリムの評価も低いです。

 信頼できる仲間と協力し合うという限定的な状況下ではそれなりの加点が与えられたりもしますが、武器がなければ簡単に死ぬよ!

 ついでに戦いはそれなりでも、頭があぽーで精神が不安定なので、個人で銀に上がれることはないでしょう。

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