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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
二章 上半身と光の勇者と目の上のたんこぶ
52/122

22.地味に目立ってました?

「アーサは熟……年上の女性が好きなんですね」


「年上というより、落ち着いてて安心できる女性が好きなんだ。できればふくよかで、目尻に優しい皺があって、白髪を抜いてあげたりして、ばあやみたいな女性と恋人に、ううん、そんな女性と出会えれば添い遂げたい」


 僅かに顔を赤らめて言うアーサは、今回のように出会って数分での告白を断るため等ではなく、本当に熟女好きなのだろう。歳の差が激しいが、他人の好みに口を突っ込むほど野暮ではない。

 だがおかげさまで、立ち席でアーサと向かい合った近い距離で話してもリアの鼓動が早まることはなくなってしまった。

 このイケメンはばあやが好きなのだから、と意識にインプットされてしまったからだ。


 女性は美しい女性に憧れる。それは、容姿なりスタイルなり所作なり様々だが、その憧れに近付くために若さを保ちたいというのは共通した認識だろう。一般に、早く大人になりたいとは聞くが、早くおばあさんになりたいとは聞かない。

 アーサはそんな女性達の努力の真逆を行っていた。

 すでにパーティを脱退していた事実により、アーサを捨て置いたことが確実な彼女達は、どんな気持ちだったのか。

 念のため告白されたのか問えば、肯定を得たので深くは聞かなかった。自信のある美人さんだったんだろうなあと少しだけ同情した。


「それにしても、随分ときっぱり断りましたね」


 他の部分はぽやぽやしているのに。


「うん。兄さん達に期待を持たせるくらいなら、すぐにはっきり断りなさいと言われてるから」


「へぇー」


 確かにこれほどの美貌だと愛憎劇が激しそうなので、家族なりの処世術で守ろうとしたのかもしれない。末っ子想いの兄達である。熟女好きを狙ったのかは甚だ定かではないが。


 それはともかく、立ち席の丸テーブルに(トリム)を置いて、本来の目的についてこそこそと話し合う。

 先程話題に出た、ミリオリア合同クエストを受けるか、単独で受けるかだ。


「どうせ被ってしまうなら、受けちゃってもいいかなと思います。動きづらいのは変わりないし、協力し合った方が安全じゃありません?」


 アーサは何も言わず、うんうんと頷く。


「……ひとつ疑問だが、そのクエストとやらを受けないで臨めばどうなるんだ?」


「受けないで……? うーん……まず、もし攻略できても報奨金がもらえないですよね。あとはギルド運営上、ダンジョン挑戦者の名簿を記録に残す必要があるから必ずクエスト受注して行ってって言われて…………え?」


 待って、まさか。


「そうか。問題はないのだな」


 リアはふるふると首を左右に振る。

 問題ないはずはない。主にリアにとって。

 今回、ボスの間にトリムの心臓がある可能性が非常に高い。そうなると未だ誰も辿り着けないボス部屋の扉は絶対に開けなければならない。解錠できるであろうトリムと、馬鹿強いアーサがいる。つまりはダンジョン攻略が手に届く範囲にあると言っていい。

 しかし、クエスト受注していなければ、攻略を成功しボスの核を持っていったとしても報奨金はもらえない。それは、攻略者達がへとへとになったところを狙って核を奪い、偽りの攻略者が生まれることを防ぐためである。

 そして、金の為、名声の為、あるいは力試しの為等理由は異なっても、命懸けで臨む以上クエストを受けない者などいるはずはない。

 トリムは、そのちょっとした名簿に名前が載ることすら避けたいのだろう。ギルドに目をつけられているのだから、仕方がない。いや、仕方がないわけでもないのではないか。


「雑魚の核ならば、持参すれば金には換えてくれるんだろう? なら、問題はないな?」


 両手を握り締め、俯いたまま首を振り続けるリアは、アーサが単独でクエスト受注するということで納得させられた。




*****




 準備を済ませ翌日、リア達はラクダの背に乗り砂漠を行く。

 ミリオリア合同クエスト(リアは受けていない)は現地集合だ。砂漠の移動は各々必要で、銅ランク以下の貧乏、否、ルーキー冒険者達でラクダを借りる余裕のある者達が、ずらずらと列を作っている。目的地は同じなので、道中のモンスター遭遇にも備えるためつかず離れずの距離である。

 ちなみに切羽詰まっている者達はすでに昨日から出発しているらしい。勿論徒歩で。世知辛いね。

 リアは列の最後尾にいる。アーサは列の半ばにいる。口止めをしたうえで、彼には人寄せパンダになってもらっている。

 列の半ばが膨らんだ形になっている様子を見ながら、リアは吐き気を抑えていた。


「……気持ちが悪い」


「軟弱な」


「左右に……めっちゃ揺れるん……すよ……」


 初めて見る、そして乗るラクダにはしゃいでいたのは最初だけであった。ゆらぁゆら緩慢に揺れる体重移動に、馬にさえほとんど乗ったことのないリアはラクダ酔いを起こしていた。

 数少ない女性冒険者と妬みの男性冒険者の集中砲火を浴びているアーサとは、気を紛らわせる会話もできやしない。トリムは楽しくおしゃべりなどしてくれるはずもなく、砂と空しかない景色だけでは、限界が近かった。


「はぁ……気持ち悪い……」


「ねえねえ、大丈夫?」


 空を仰ぎ、頭をぐらぐらさせていたリアは、その声に視線を下げた。

 見れば、ゆったりとしたマントにターバンを巻いた女性がスピードを落として近づいてきていた。小麦色の肌に水色の瞳を輝かせる女性は、快活そうな顔つきでにかっと笑った。


「ぶつぶつ言ってるの聞こえてさ。酔ったの?」


 声は抑えていたつもりだが、聞こえてしまっていたようだ。また独り言が激しい人認定されてしまうなと思いながら、リアは青い顔で頷いた。


「その服脱ぎなよ、暑そうだ」


「これは……高性能コートなので……暑くは……ないのです……」


「ふーん。じゃあこれあげる。咥えるとすっきりするよ」


 差し出された葉っぱを言われた通りにすると、すーっと清涼感ある空気が鼻から抜けていった。これはだいぶ楽になる。しばらくその爽やかな芳香を感じていたら、小麦肌の女性は真横に来ていた。


「どうも、ありがとうございました。これでなんとか生き延びれそうです」


「あはは、大袈裟。これから助け合う仲間なんだ、これくらいどうってことないよ。あたいはメルってんだ。銅ランク。あんたは?」


「リアです。登録証発行してもらったばっかりなので……まだ鉄かなぁ」


 前のパーティは銀だったけど、もう抜けちゃったしなぁ。


「じゃあ新人くんかー。何々、どういういきさつであの勇者様とパーティ組んでんの?」


「何故、それを」


 アーサに勇者であることを口止めすることはしていないが、離れて移動し顔を隠しているリアがその勇者と仲間だということを見破るとはこの女性、できる。

 メルは一瞬その透きとおる瞳を丸くしたが、すぐに吹き出した。


「そりゃ目立つからでしょ。聞けば勇者様っていうし、その隣にいる兜持った謎の女。あたいギルドで見てからずっと気になってたんだ。何で兜だけ持ってんの?」


 確かに個性は際立っていたかもしれない。


「……頭部の防御力に不安があって」


「は? なにそれ? 頭だけでいいの?」


 駄目だった。やば。えっと、えっと……。


「……御守り、なんです」


「あー……そっか、そうなんだね。色々あるよね」


 咄嗟に思い浮かんだ理由を述べれば、何故か可哀相なものを見る目で納得してもらえた。追及されないのなら、どう思われようともういい。


「はい、色々と不幸な出来事が重なって、アーサとはたまたま偶然突発的に組むことになったんです。人生って分からないものですよね……平穏が一番ですよ」


「ぷっははは! あんたおもしろいね! 冒険者になったばっかのくせして早いんじゃない? これからダンジョンに行くんだよ、まだまだ人生には色んなことがあるさ」


 一定のクエストを成功させなければ上がれないギルドのランクで、銅の彼女はリアに先輩風を吹かせている。冒険者としての多彩な経験値はメルが何倍も上だろうが、命の危機的頻度が異常に多いリアとしてはげんなりする。


「やめてください……そのフラグはとても怖いです……堅実に戦って、着実に攻略しましょうよ……」


 メルは再び笑い声をあげる。そんな面白いことを言ったかなとリアは彼女を見ると、メルは笑いながら見つめ返し、それからふと止まって眉間に皺を寄せた。


「え、あんた、攻略ってマジ?」


「マジ? 攻略するために、この大人数のクエストがあるんじゃないんですか?」


「いや……そう、そうあるべきだよね、うん。あたいも気ぃ抜いてた」


 リアはメルの言っていることが分からず首を傾げた。不思議そうな視線を受けて、メルはバツが悪そうに苦笑しつつ説明を始める。


「あんたは最近来たばっかのようだから知らないだろうけど、実はこれね、普段不遇な扱いを受けてる冒険者の集まりなんだ」


「はぁ」


 メルが言うには、今回の合同クエストは、偉ぶる中堅冒険者がサライドの謳歌祭に行っている間に、トゥレーリオを基盤とした底辺冒険者達が発案し仲間を募ったものであった。

 普段から中堅冒険者に「守ってやってんだろ? なら分るよな?」とモンスターの核を奪われがちな不満をかかえた者達が賛同して形になったらしい。

 よって実態は、鬼の居ぬ間に日時合わせて一緒に行こうぜってノリだったようで、攻略云々よりはモンスター狩りがメインとのこと。銅ランク以下の縛りはこのためだった。

 聞く分にはなんとも意気地がない感じがするが、生活がかかっていればそんなものかもなあと、トゥレーリオのギルドを思い出す。


「まぁ……あのギルドの人、ヤル気なさそうでしたもんねぇ。裏でそういう圧力があったとしても放置ってわけですかね」


「そう! そうなのよ! あんの糸目ヤロー、強いヤツにばっかへこへこしちゃってさ! あたいらのこと後回しにするわ、態度悪いわ、最っ低なの!」


 メルの暦年の恨み節を適当な相槌で同意していると、前方で騒ぐ人声が聞こえてきた。

 合同クエスト、ギルドはただの人数が多いクエストのひとつとして扱います。バラバラにダンジョンクエスト受けるよりはそっちの方が楽でもありますし、いんじゃね? 勝手にすれば、という感じ。

 正直なところ、彼らは攻略するつもりというか、できるとはこれっぽっちも思っていません。あくまで、安全に稼ぎに行きたかったんです……。

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