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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
二章 上半身と光の勇者と目の上のたんこぶ
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18.新たな事件のにおいです


 ――また、やらかしてしまった。


 南門までサライドの外壁をぐるりと回った後、馬車は南の街トゥレーリオと繋がる街道を走り行く。

 街道と言ってもこれまた馬車等で踏み固められただけの地面であり、この時期、サライドから出立する馬車も少ないので視界に見えるものはリア達以外はない。


 ほのぼのとキーバスの語る家族の話しを聞いていたら、どうやら彼は急遽、トゥレーリオに()()()()()()ならなくなったそうだ。

 その時点で「ん?」とは思ったが追求はしなかった。御者が見つからず、たまたま実家がトゥレーリオのキーバスが請け負ってくれたのだろうとも思ったからだ。

 意外とおしゃべりなおじいちゃんで、ほとんどうんうんと話しを聞いていたら、慣れない揺れにリアの脇腹が攣ってしまい、荷台で横になっていていいと勧めてくれたのだ。


 扉を開けたら樽が沢山あった。


 何が入っているのかと聞けば、酒らしい。

 何故酒が入っているのかと聞けば、商いに来たかららしい。


 これだけの量、重いものを運ぶにはそりゃしっかりした馬車でなければ、長旅には耐えられまい。


 この馬車は誰のものなのかと聞けば、キーバスが雇われているアバレスト商会らしい。

 アバレスト商会とは何ぞやと聞けば、キビニ酒を中心に取り扱っているトゥレーリオの商会らしい。


 キーバスはすし詰め状態だった酒を半分卸したところで、旦那様から呼び出しを食らったそうである。祭りで捌けさせる予定だった残りのキビニ酒が入用だと。


 本来は祭り後だった帰りの護衛をギルドに依頼していたが、祭りの前に戻らなくてはならなくなったのですぐに請け負える者を頼むと伝えたら、ちょ、待てよと元々依頼を受けていた鎧の男に詰め寄られていたらしい。

 違約金は払ったらしいよ。


 ……ふーん。人違いならぬ、馬車違いだったというわけだな。


 確かに、リアの特徴は伝えておくからと、セリーナには東第一門で待っているだけでいいとか言われたかもしれない。


 まあ、今さら本当のことを言ってもしょうがない。キーバスにとってトゥレーリオに着くという結果は同じなのだから。語らず大人しく護衛役を引き受けよう。


 リアは窓から入る風を感じながら、ガタガタ揺れる馬車の壁に肩を預けている。人を乗せるために造られたものではないからか、クッション性はなく揺れがもろに来る。


「リアの体質も、上手く働くことがあるんだな」


「……なんですか私の体質って」


「意識の有無にかかわらず、厄災を引き寄せる体質だ」


「待って、何それ聞いたことない、え? そんなものが世の中にはあるんですか? 知らなかったです。でも、それなら今までのことも納得できます。……それって治すことはできるんですか? それか少しでも改善することとか。割と本気でどうにかしたいんですけど」


「…………」


「トリムさん?」


「ともかく、面倒な集団から距離を置けて、悪くない方に進んでいる。このままいくといい」


「私の質問は!?」


 客人から護衛になったわけだが、それほどすることは変わらない。というかすることはない。開けた視界にモンスターが現れることはなく、二頭の馬くんも順調に走ってくれているからだ。

 ぼーっとしつつ居眠りこきつつ気付けばあっという間に一日が終わっていた。夜営の準備をキーバスと一緒にして、夕食をとって、就寝時刻。

 護衛ですからぁとキーバスを寝かせて寝ぼけ眼で夜闇に目を光らせる。


「お前も寝ろ。何かあれば起こす」


「……そんな、トリムさんだけに押し付けるわけには」


「リアに体調を崩される方が困る。というか、言ってなかったか? 俺は今は眠る必要もない」


「…………へえっ?」


 眠気に襲われていたせいかすぐには理解できなかった。

 魔術コーティングのおかげで汚れもしないし、食事も必要ないとは言っていたが、ついには睡眠も不要な世界へと昇華したのか。それはもう人ではなく、モンスターというよりも、高次元の何かへと進化しているのではないだろうか。不眠不休て空を飛び回れるなんて魅力的な体である。


 ――ん?


「あれ、羽は生えてなかったですっけ……? ……多分、寝ぼけてるんで、私寝ます」


「そうしろ」


 眠りに落ちる直前、そういえば呼び掛けたらいつもすぐに返事してくれていたなあと納得した。




*****




「あれ? でも寝てることもありましたよね?」


 今日も今日とて暇である。


 午前中はキーバスとおしゃべりをし、開き直ったリアはトゥレーリオの街の見所や特産品なんかを聞いたりした。

 特産品はキビニ酒で、酒蔵巡りとかおすすめされたが、酒に良い思い出がないリアは別のものをとお願いした。

 すると原料であるキビニという実を使った甘味も中々人気らしい。これを目当てにしよう。甘いものは良いよね。


 そして、脇腹を再び痛めたリアは荷台で樽と揺られながら、ふと昨夜の会話を思い出したのだった。


「……ん、ああ、昨日の話か。魔力を消耗し過ぎたため意識的に眠るという行為が必要だっただけだ」


「ほう。寝て回復するのは普通の魔術師と一緒なんですね。でも、意識的にっていうのは?」


「抵抗を弱めることなく意識を閉じて、眠っている状態に近付けるんだ。消費量を抑えることで効率的な回復を図っている」


「へー。なんか器用なことしてるってだけ分かりました。ただ寝るだけでも一苦労なんですね」


 疲れたから休むって簡単なことさえままならないのは嫌だよなあ、とリアは同情して兜の頭を撫でる。

 しばらく撫でながら窓の外をぼーっと眺めた。


 昨日までの旅は、まだ街道に緑があり、涼しい風が頬を撫でていた。

 今日は、南方に向かうことに伴う僅かな気温の上昇を感じ、景色は緑があまりないものへと変化している。大岩が多く、その隅にひっそりと低い雑草が寄り添うばかりだ。


「ん? あれなんだろ」


 進行方向から少し逸れた先に、岩ではない細長い影が見えた。

 トリムは何も言わないので、コンパスを取り出して見てみると黒い針は反応せずモンスターではないことが分かる。動く様子もなく、ただの珍しい岩かとなんとなく眺め続けた。


「いや、人じゃない?」


 視認できる程の距離になり、風にたなびく服が見える。精巧な案山子でもない限りはどう見ても人であろう。

 トリムは何も言わない。


「ねえトリムさん、あれって人ですよね?」


「…………もう、関わるな」


「そんな心配しなくても、安易に近寄ったりしませんよ。ただの確認です。こんな何もないところで仁王立ちしてる人なんて怪しすぎでしょ」


「分かっているならばいいが……人か、まあ人間ではあるようだ」


 なんでそんな曖昧な言い方?


 眺めていると姿形が分かるまでに近付いた。

 まず目を引いたのは陽射しに輝く明るい金髪で、次に男性ということ。後ろ姿だが、体つきはしっかりしていて背も高いようだ。そして、


「石像じゃないよね?」


 微動だにしないのだ。

 それは風に捲れるコートの裾と対比して、体だけは全く揺れていないのが分かる。足が地面に縫い付けられているのかとでもいうように。

 何かを待っているのか、あるいは動けないのか。


「動けなくなる魔術ってあるんです?」


「あるが、あれは違うから放っておけよ」


「はーい…………あ」


 人影がパタリと倒れた。

 今までの石像が嘘のようにあっさりと、突然金髪男性は倒れた。


「倒れましたね」


「そうだな」


「何か分かります? 瘴気の反応はないようですけど、危ないガスとかそんなの……っうおっとと」


 今度は馬車が緩やかにスピードを落とす。

 一体何だとリアは素早く立ち上がり、御者台に繋がる小窓に駆け寄る。すぐに小窓は開き、困った表情のキーバスが顔を見せた。


「何かありました?」


「リアちゃん、悪いんだけどさ……」


 言い淀むキーバスはむーんと悩んでいる様子で、緊急事態が起こったというわけではなさそうだった。リアも肩の力を抜く。


「ちょっとだけ、頼まれてくれないかな?」


「ええ、私にできることなら。キーさん働きっぱなしなのに私役に立ててないですし」


 夜営の準備もほとんどキーバスが行い、食事もご馳走になっている。勘違い、いや不幸な事故があったので仕方がないが。


 したことないけど、馬車の操縦代わってとかかな?


「いや、夜安心して寝れるだけで充分だよ。私の話も聞いてくれるし、リアちゃんで本当に良かったんだから気にしないで」


 実は私も寝てましたなんて口が裂けても言えない。


「あそこの金髪の彼はリアちゃんも気付いた? 少しだけ様子を見に行きたいから、馬車を見ててくれないかな?」


 どうやら、キーバスも金髪男性のことは気付いていたようだ。ならば倒れたのも目にしたはずで、善良な一般人であろうキーバスが心を砕くのも理解できる。

 だが、兜から却下の指示が来たので断らなくてはならない。申し訳ない。


「キーさん、あの人自身が罠という可能性があるんですよ。盗賊なんかは助けてあげようと近付くと逆に襲ってきたりして、善良な心につけ込む悪党なんです。すいませんが、怪しすぎるのでここは離れましょ」


 こういった資源を乗せた旅路で、モンスターに次いで厄介なものが盗賊である。

 振り切れればいいのだが、この馬車は重く、すぐに追いつかれてしまうだろう。さらには酒なんて男にとったら宝の山みたいなもので、根こそぎ奪われてしまう。


「なるほど、そういうこともあるのか」


 良かった、納得してくれそうだ。


「でもね、サライドに行く時もいたんだよ、彼」


「……え?」


「五日前だったかな、同じ場所にね、声かけたら手は挙げてくれたんだけど。トゥレーリオの商人仲間に気になって話しかけに行った人がいてね、人を待ってるって言われたらしいんだよ」


「五日前から……」


「話しかけた仲間はもっと前だったから、いつからなんだろうね。いくら人を待ってるって言っても、さすがに目の前で倒れられちゃ、放っておいたままは心苦しくてさ」


「……確かに」


 リアが納得させられてしまった。


 やめろと主張するのは分かるんだけどねトリムさん、多分このままだと金髪さんは死んじゃうんじゃないかと思うんですよ。

キーバスさんとは仲良くなりました。

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