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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
二章 上半身と光の勇者と目の上のたんこぶ
33/122

3.なんとか乗り切れそうですよ

 統括長のアークがソファに座ったのを確認し、少し後にリアも腰かけた。

 アークの前のテーブルには資料がいくつか置いてあったが一瞥しただけで、視線はリアを射貫く。それに対しリアは弧を描いた口の中で歯を食いしばった。


「さて、招集連絡もなく急に来てもらって申し訳ない。他でもなく、ゼスティーヴァの爆発およびディーテ村の事件について我々にも話しを聞かせてもらいたい。恥ずべきことだが、ダンジョンに関連する事案にもかかわらず、ギルドは後手に回っている。騎士団は精査した結果を伝えると言ったっきり音沙汰もなく、詳細は知らせないつもりだろう。ディーテ村の出入りは騎士が制限しているため情報収集さえままならない。君が申し出てくれて助かったよ。当然、情報に対し相応の報酬を支払うつもりだ」


 おや?


 リアは身構えていたが、思っていた方向性とはなんだか違うようである。


「……さようでございますか、私にお話しできることであれば、何なりと」


「協力感謝する」


 アークに切り出された話に内心首を傾げつつ、当たり障りのない返事をしておいた。

 ディーテ村とは観光村のことだろう。多分、そんな看板が立っていたような気がするし代表もそんなことを言っていたような気がする。うろ覚え過ぎる記憶力に泣きそうだ。

 そしてディーテ村にいた騎士団とギルドは連携や情報共有をしていない模様。となると、こっそりダンジョンから逃げてきたリアが咎められることはなさそうである。


 光明が差した! ギルドと騎士団が仲悪くて良かった!


 さらには、ギルドはほとんど情報を持っていない口振りだ。トリムのことを避けつつ、ダンジョンの爆発については知らぬ存ぜぬで乗り切り、あとはありのまま話してしまった方が変に誤魔化すよりはリアにとっても良いだろう。足りない頭で無理をして整合性が取れなくなったら困る。


 アークから情報の報酬について提示されると、予想外の高額にリアは思わず値切ってしまう。訝し気な目を向けられて分かることは多くないと説明し、三分の二程まで下げた。

 情報の価値を下げておかなければ罪悪感にいらんことまで口が滑ってしまいそうだったからだ。


「君の報告は記録として残しておかなければならないので、別室に音が聞こえるようになっている。了承してくれ」


 アークがテーブルに置いてある円錐状の何かを指し示す。重石かと思っていたが、音を伝える魔術具か何かなのだろう。断れるものなら断りたい。


「はい、どうぞ構いません」


「では、早速始めさせてもらう。君たちがクエストを受注したのが……三週程前か。その後を時系列順に話してもらいたい」


 片手に資料を持ち、確認しながらアークはリアに話を始めるよう告げた。

 そんなに前だったのか、と日付を確認していなかったリアは密かに驚いた。


「本当に経験したことしか話せませんが……私達のパーティが乗合馬車でディーテ村に到着すると、村の入口にはすでに代表の遣いの方が二輪馬車を用意して待っておりました。何処にも寄ることができないまま、代表の屋敷へと招かれ、手厚い歓待を受けたのです」


「サルカ・カラン代表はゼスティーヴァの管理も行っているからだな。挑戦者があればギルドから連絡を入れるが、そんなことをしていたのか」


「ご存じなかったのですね。私達は代表の……彼らの謀略に嵌められてゼスティーヴァへと赴くことになりました。知ったのはずっと後でしたけれど」


 アークの瞳が細められ、さらに眼光が鋭くなった。

 この辺りからすでに騎士団との情報格差があるようだった。

 レティアナの父である代表が捕らわれたのは何日も前だろう。レティアナと森で出会った時には色々と終わっていたのだから。それすらも知らされていないのか。

 混乱を避けるために村のトップが捕まったことを明らかにしていないのか知らないが、悪人の所業を隠したり、子供だからって見逃したり、公明正大であるべき騎士団に不満が募る。


 いや、レティアナはもうどうだっていいんだけどさ。


 次いで、パーティを襲った状態異常や村で整備された武器や装備の末路についても話す。

 アークは疑いを灯した視線を送る。目力が凄い。


「それは……信じがたい話ではあるな」


「証拠はお話しした通り全て消えてしまいましたし、証明することも私には叶いません。ありのままをお伝えしておりますので、判断はお任せいたします。ただ、私は嘘は申し上げておりません」


「すまない、疑っているわけではない。続けてくれたまえ」


 あとはもう仲間が死んでいった経緯くらいしかないが、彼らの勇敢な最期を話しておきたくて靄がかかった記憶を探りながら言葉を紡ぐ。想像以上に冷静な自分がよく分からない。


「八十階層まで辿り着いたのか……やはり最短で銀ランクまで行ったパーティは伊達ではないな、惜しい者達を亡くした。だが、そうなるとゼスティーヴァの崩壊はどう逃れたのだ? 爆発の原因は……まさか、君が?」


「まさか! 八十階層まで行けはしましたがその時点で私一人になってしまいましたので、引き返すことにしたのです。弱い私一人ではボスに挑んだとしても勝てるわけがありませんから」


 的確に真実を突いてきたので思わず叫んで否定してしまった。怪しくなかっただろうかとひやひやしつつ、慌てて弁明する。

 アークは瞬きを繰り返し、無言の後、幾分か柔らかくなった声音で言う。


「武器も装備もない状態で最後まで生き残ったのだから、謙遜されなくても」


「そんな、事実でございます。すでに食料も尽きておりましたので急いで引き返す道中、大きな揺れを感じました。確認しに上がるとゼスティーヴァの上層が崩れており、私はその崩れた箇所から外へ出ることができました。間一髪でしたが、爆発の原因は私も分からず、混乱のままに外壁を伝って脱出したのです」


 はぐらかしたいことがあれば、真実の中にちょっと嘘を混ぜると良いって誰かが言っていたことを実践してみる。

 アークは頷きながら聞いており、成功した様子に内心ガッツポーズ。


「なるほど……そうなるとゼスティーヴァの爆発はディーテ村の事案と関係性があるとも言い難いな。では代表の謀略の目的は何だったのだ?」


「さあ……存じ上げません。それこそ騎士団の方が分かっているのでは?」


「ふむ、詳しい説明もなしに極秘裏に協力を強制させられたが、当事者である君にも知らされないのか。全く、騎士団の秘密主義には手を焼かされる」


 まあ私、騎士には当事者だって申し出てないからね!


「我々も把握できているのは聖女の快復だけか……それについては?」


「詳しくは……」


 リアは知ったかぶりで言葉を濁した。

 レティアナが路地で話していた耳の遠い老人が、聖女様が舞い戻ったと言っていたくらいしか知らない。逆によくそれだけ覚えていたなと。

 知らない聖女より聖女らしいシスティアを知っているので、あんまり興味もなかった。


「では、今までの話の中には出てこなかったが、君を助けた人がいると聞いている。その者についても聞かせてもらえるかな」


 うはぁ! 来た!!


 リアは激しく脈打つ心臓と全身に走った緊張感を見せないように、僅かに目を伏せる。視線を横に長し、寂しげな表情を作った。


「私を助けてくれた……私の心を救ってくれた方なのです。仲間を失い、やっとのことでゼスティーヴァからは逃れましたが、ディーテ村で失意のどん底にいた私を支えてくれました。今こうして平静でいられるのも、その方のおかげございます」


 精神的に支えてくれた人なのよと、そんなニュアンスを匂わせてダンジョンとは関係ない人物像を作り上げる。

 アークは「ああ」と納得した表情で頷いて無言になる。それ以上はプライベートなことに触れると思ったのか、詳しく聞き出すことはしない。狙い通りだ。

 ただ、リアの鳥肌がヤバい。実在の人物が生首(アレ)なだけに、意識に生首がチラつき飛び回り自分で言っているものの、ギャップが激しすぎて相当な苦行である。


「そうか……うむ、改めて、有益な情報の提供感謝する。急な対応も含めてな」


 静寂の時間が辛くなる前に、アークはそう言って顔を上げた。

 報告の終わりが見え、リアは傍目には分からないよう喜びを噛みしめた。


 乗り切れそうですトリムさん!


「いいえ、とんでもございません。ギルドへの協力は私達冒険者の当然の義務ですから。お役に立てたようであれば嬉しい限りです」


 解放感のあまり満面の笑みでリアがそう言うと、アークは一瞬固まり、


「……君は、あまり冒険者らしくないな。いや悪い意味で言っているわけではないのだが、野蛮な冒険者とは……ん?」


 やば、お客様対応やり過ぎたか。


 作り笑顔で頬が引きつってきたのでそろそろお暇させてもらいたい。

 思い込みのおかげで初めよりは緊張はなく落ち着いて対応はできていると思うが、いつヘマをやらかすか分からないので長居は無用だ。

 それなのに、アークは興味深げに手元の資料に目を走らせる。


「個人登録をしていないのか……それで、高ランクパーティに所属、と……それも最近。勇者の称号を借りる位なら素性は問題ないのだろうが……盗賊? この妙な肩書きは何か意味があるのか」


 喜びが一気に急転直下する。ダンジョン以外のことで引っかかってほしくないなあと微笑みを抑えてアークに向く。鋭い目には早くも慣れた。見た目の割にそう怖くはない。


「……今回はダンジョンにかかわるお話しではないのでしょうか? すでにギルドに登録されている私に不審な点がおありで?」


 リアが変な経歴なのは自分で百も承知だ。追及されても別に構わないが、それはまた違う機会にしてほしい。調べれば分かることだし、何だったらセリーナに聞けば大体話しているのでこれ以上時間を取らせたくはない。

 ちゃちゃっと、と言ったのにトリムを相当待たせている。帰らせてくれ。

 話せることは話してしまったので、少しだけ気持ちが大きくなっているリアである。


「いや、失礼。珍しい経歴だったものでな。冒険者には様々な事情を抱えている者も多い、特段不審点はない」


「では、お話しは終わりでございますか? 私は先程この街に着いたばかりで、まだ宿も手配しておりませんし、このような見苦しい恰好でいつまでもいたくはありません。できれば失礼させていただきたいのですが」


「それは申し訳なかった。宿と替わりの服はこちらで手配しよう」


 ……なんで?


 突然の手厚い待遇に不信感か勝るリアは、上手い話にはできるだけ自分から飛び込みたくはない。というか、そんなの居場所を把握されているようなもので安心できない。


「いいえ、結構でございます。私がお話しした情報に関しては正当な報酬をいただくのですから、お気持ちだけありがたく頂戴いたします」


「君の話が真実であるなら、その報酬では見合わない」


「そうでしょうか? 妄言ともとれると、言われましたが」


 あっ、あばばばばこれはトリムさんに言われたんだった! ボロが出る!


「君がゼスティーヴァに挑んだことは確認がとれ、生還したのは疑いようがないのだから、君の情報にはそれだけ価値がある。特にディーテ村の件は……騎士団がまだ重要な事実を隠していることが把握できた。利用されるだけというのは、ギルドの沽券にかかわるからな。……あとはそう、瘴気で脳がやられて現実と妄想が分からなくなる者も稀にいるが、そうではないだろう?」


「自覚しない内に、なんてことはあるかもしれません」


「ははは、そうであれば、もっと酷い者はわんさかいる。平常であってもまともに会話さえできない者ばかりなのだからな」


 別に笑わせるつもりはなかったが、リアは口を滑らせた焦りのあまり変な方向に誤魔化してしまう。ただアークの瞳だけは笑っていなかったので、彼は冒険者対応に苦労しているのだろうかと少し同情した。

 誰に言われたのかという点を追及されなかったのでほっとしつつ、早く話しを終わらせようとする。


「ともかく、必要以上のお気遣いは不要でございます。何かあれば協力はいたしますので、私は失礼させていただきますね」


「では、まだサライドにはいるつもりなのだろう? 宿が決まったならば、ギルドへ連絡してもらえないだろうか」


「…………何故でしょう」


「現時点では我々の方針は未確定なのだよ。君の情報をもとに話し合わなければならないから、詳しく聞き取りが必要な部分が出てくるかもしれない」


 うーん、仕方ない、のかな……?


 アークが語るのは正当な理由のようだし、露骨に突っぱねると逆にリアが怪しまれる。妥協点はここだろうかと、曖昧な判断しかできない不安を感じつつ了承することにする。


「分かりました。明日またこちらへ伺います。それでいいでしょうか?」


「足労をかけてすまない。待っているのでよろしく頼むよ」


 やっと解放されることにふうっと息を吐く。短いようで長い戦いだった。


「ではセリーナに全てまとめて精算させよう。呼んでくれ」


 アークは後ろに無言で立つ男性に片手を上げると、彼は魔術具に向かって話し出した。

 リアとしてはボロを出したくないので黙っていたかったが、アークが雑談を振ってくるので対応せざるを得ない。セリーナさん早く。

 部屋の外に誰かの気配があり、終わりかとリアが視線を向けると、突然ドアが開け放たれた。

真面目な口調にするだけで誰だお前になりますね。

ひとりでも頑張りました。

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