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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
二章 上半身と光の勇者と目の上のたんこぶ
31/122

1.街へと入ります

二章始まります。

 村からサライドの街までは、馬車で一時間、歩きで半日とそれほど遠い距離ではない。王都からの一本道は馬車の往来が多く、道もそこそこ舗装されている。


 そこから少し離れた森の端をリアは歩いていた。森の木々が馬車道からの視線を遮ってくれるからだ。

 一般人を乗せた乗合の馬車や商隊ならば、トリムは布に包まれているのでリアが目撃されたとしても、まあいい。野良モンスターや害獣も出ないとは言えない地をひとり、歩きで行く者を見かけても、家出人か頭のおかしな奴だと思われる程度で、わざわざ道を逸れて近付いてきたり、親切に声を掛けてくる者などいない。

 問題は騎士だ。

 あいつらは大体ひとりで馬に乗り、身軽に道を逸れて事情聴取をしてくる。ダンジョンが折れたからか知らないが、以前と比べてとにかく行き交う数が多い。


 システィア母娘(おやこ)宅を出発したばかりのまだ村に近かった場所で早々に一度捕まり、飛び出そうになる心臓を抑え、朝食に木の実を集めてたんですぅと愛想よく答えると、当然ながらその包みを検めるよう言われた。古典的な「あ!」と遠くを指差す技で気を逸らそうとしたら、木の陰から本当に害獣の群れが現れたからその騎士は対処に追われ、リアは言われるがままに大人しく逃げさせてもらった。

 結構な頭数だったが彼は大丈夫だろうか。リアの怪しさは払拭できていないのに守ろうとしてくれるなんて騎士の鑑だと思う。


 そんなわけで遠回りを余儀なくされ、騎士の姿に怯えながらサライドまで向かっている。


(じか)に持つよりはマシですけど、やっぱりこの謎の包みもそれはそれで怪しいですよねぇ。……逆に一目でわかる物の方が説明が必要ないのでつっこまれないんじゃないですか?」


「一理あるな」


 声がもごもごしていて聞き取りづらいというのもあるし、気づかない内にはだけていたりして持ちづらかったりもする。

 ふむ、と思案するリア。


「そうですね……鍋はどうでしょう」


「ふざけているのか」


 一蹴された。

 持ちやすさで言ったものだが、蓋を閉めたらトリムが外の様子を見れないのは確かに困る。あと蓋を開けたら人の頭部が入っているってビジュアル的に相当アレだなとも思ったが、今さらだった。


「え、駄目? じゃあ……カボチャの中身くり抜いて使うとか」


「真面目に言っているのか? 何故変なところで工夫を凝らそうとする。兜でいいだろうが」


「あ、なるほど」


 武器や装備もサライドで揃えるつもりなのでちょうどいいだろう。


 時刻は朝と昼の間。朝から歩き続けてそろそろお腹が鳴く頃合い。サライドまではまだもう少しあるし、ご飯タイムといこう。

 システィアが包んでくれた食事は堅めのパンと干し肉と干し果物? がそれぞれ二つずつ。あとは木の実が少々。トリムが食べないことは分かっているはずなのに二人分入れているなんて律儀だなあと思いながら、一応トリムに確認。案の定、不要との回答。

 トリムを膝に乗せ静かにもそもそと食べる。味は悪くないが、やはり温かい食事がいい。特にそう思うのはなんだか肌寒いせいだろうか。


「ふぁっ」


「パン屑を落とすな」


「ふひまへん……んむ、じゃなくってトリムさん、横……」


 リアの視線の先には、すでに絶命した魔狼が一匹倒れていた。悲鳴を上げる間もなく凍らされているその死に様は、明らかにこの生首の仕業だ。

 指をさして問う。


「いつの間に?」


「ん、魔狼か? お前が座った時だ」


「そ、うなんですね……びっくりしましたよぅ、ひとこと言ってくれてもー」


「武器もなく役に立たないリアにいちいち言えと? 身を守ってやっているのに何が不満だ」


「それはいつもお世話になっておりますが、役に立たないは余計です。いや、何ていうか、知らない間に色々終わらせられそうな不安が……私の知らない間に誰か殺してませんよね?」


「さすがに人は慎重にするさ。特に騎士はな」


「…………」


 目線を逸らして干し果物を頬張る。甘く、初めてなのに何故か食べたことのある感じがする。


 これからサライドの街へ入るにあたって、人との接触は不可避だ。誰もいないダンジョンや隠れさせてくれたシスティア達の村とは違って、不特定多数の目にリアは晒される。

 そこで例えばリアがヘマをして、生首というだけでも問題のあるトリムが多くの人に目撃でもされれば、彼は殺戮者になる可能性がある。それだけの力はあるし、必要と判断すれば躊躇しないような気がする。


 そんな発言もしてるし、否定できないのがなぁ。


 安易にサライドに向かってしまっているが、中々リスキーだと今更ながらに気づく。トリムとシスティア達は良好な関係だったし、二日程ほのぼのと暮らしたから気が抜けていたかもしれない。


 あ、でも、さっきの騎士さんには手を出す素振りなかったな。


 今朝リアが騎士から事情聴取を受けた時、トリムは害獣の群れが来ていることは把握していただろう。だからそちらに気を取らせ、敢えて手を出さなかった。見つかれば即アウトというわけではなく、利用できるものがあれば殺人は回避できる。トリムが人に対して慎重を期しているのは事実なのだから、万が一の場合いかにリアがうまく立ち回れるかによって、結果は大きく変わる。


 気をつけねば……できるかなぁ。


 とりあえず索敵術具(コンパス)を取り出してみたが、両手が塞がってしまったのでバックにそっと戻した。




 口数少なめにこそこそと森の中を移動して、昼過ぎ頃にサライドの外壁が見える位置に辿り着いた。その間、野獣にもモンスターにも(多分)出遭わず、リアは密かに胸を撫で下ろしていた。

 灰色の高い外壁に囲まれた街は広く、壁の向こうには多くの建物の頭が見え、門には鎧を着た人影が二つある。


「ふむ、入門審査が必要か。壁を上るか」


「不法侵入はちょっと……。私だけちゃちゃっと行って買い物と情報収集してきますよ」


「駄目だ」


「え、駄目、なの? 心配しなくても、前にも一度来ましたし、大丈夫ですよ? ギルドでパーティの解散手続きと再登録してもらえば、次からは審査なしで入れますし」


 ギルドはこういった大きな街に入る際の手続きの簡略化にも一役買っている。通常一般人は入門の際色々と面倒な申告や検分があるが、冒険者や商人といった各地を転々とする者達はギルドで登録を行っておくと、登録証が証明となり、本人確認だけで審査をスルーできるのだ。

 登録時に色々と個人情報が抑えられ、それが国内全ギルドに情報共有される。万が一大きな問題を起こしたら一気に全国指名手配だから、下手なことはできないのだ。それでも毎年何人かは馬鹿をやらかすそうだが。

 リアはパーティ単位での登録しかしていなかったので今回の入門には審査が必要だ。ギルドに行って、その解散手続きと個人での再登録をしておけば、次回から荷物に生首があったとしても基本的に検められることはない。ただ明らかに怪しい死体とか持っていれば話しは別なので隠す必要はある。

 なお、リアは他の仲間が死んだため解散手続きと言ったが、死亡事実の証明ができない限りは脱退扱いとなる。


 トリムの顔を覗き込むと、眉間に皺を寄せ何やら考え込んでいる。

 パーティに身を寄せていたとはいえ、情報収集くらいは難しくも何ともないのだが、トリムに頼りっぱなしのあれこれがあったから任せておけないと思われているのかもしれない。


「んーそんなに信用ないですか。ギルドのお姉さん親切だから、結構教えてくれますよ」


「……そうではないが……次のダンジョンの方角は俺しか分からないだろう。装備の見極めも必要だからな。一人何度も行き来すると怪しまれる」


 そうかなあ……なんだろう、私を一人で行かせたくない理由でもあるのかな。


 そんな空気を読んだリアは、また何か考えがあるのだろうとトリムに別案を提案することにした。基本的にトリムの是非に反抗するつもりはない。


「じゃあとりあえずさくっと登録手続きだけして、すぐ戻ってきましょうか。そしたら安心して一緒に入れるし。それでどうでしょう」


「まあ…………そうだな」


「よっしゃ、すぐ帰ってくるのでちょっとだけ待っててくださいね」


 リアは辺りを見回し、ちょうど良さげな木の(うろ)を見つけるとトリムを布に包んで中に入れる。何か隠すものはないかと探し、太腿程の倒木を引きずってきて洞の前に置いた。

 額の汗を拭い一息ついたところでトリムに名前を呼ばれる。


「はい?」


「後で話しがある」


「後でですか? 今でもいいですけど」


「ああ、長くなるからな。命にかかわる、重要な話だ」


「え゛」


 命にかかわるようなことを何故今ではなく、後回しにするのだろうか。

 不穏な話に続きを強請ったが、トリムは口を閉ざし全てを無視し出した。決定を変えそうもなかったので、すべきことを終わらせて早く話してもらおうとリアは走って門を目指した。




 鎧を着た男性二人は、若い方が一般人の手続きを、歳食った方が登録証持ちの手続きをしているようだった。

 リアは五角形の透明な板を取り出して、薄髭の生えたおじさんの前に行く。


「あの、これ」


「はいはいっと、んー? これパーティ用のじゃない。個人の出してね」


「ないです」


「んー? 珍しいわね。じゃあお仲間さんは?」


「死にました」


「なら駄目だよー。不備ある登録証の人は向こうに並び直してねー」


「こっちじゃ見てくれないんですか?」


「んー? 決まりだからねー。さ、行った行った」


 ぐぬう、暇そうにしてるくせに。


 半音上がった「んー?」という口癖が妙に鼻につくおじさんに追い払われ、若くて感じの良いお兄さんがいる一般の列に並ぶ。そう、列である。

 おじさんの方はスッカスカなのに、お兄さんの方は審査があるからか人の列ができ、一人で忙しそうにしている。手伝えばいいのにと思う気持ちは皆同じのようで、リアの並ぶ列から厳しい視線が送られていたが、おじさんはどこ吹く風で鋼の精神力を保っていた。

 トリムを待たせているので焦る気持ちでおじさんを睨んでいたが、待ち時間が長く飽きてぼーっとしていたら、リアの順番が回ってきた。


「はい、待たせたね。まずは名前と年齢と今回の街へ入る目的を教えてくれる?」


「リア・レイエル。十七歳です。クエストの報告とかでギルドに行きたいです」


 板の上に乗せた紙に書き込んでいたお兄さんが、顔を上げて首を傾げる。目尻の下がった柔和な顔立ちが子供に人気そうで、あんまり門兵っぽくない。


「冒険者かな? 随分待ったでしょ、隣のゲートからも入れるよ」


「あのおじさんにこれじゃ入れないって言われまして」


 リアは再びパーティの登録証を見せると、お兄さんは「他の仲間は?」と聞く。


「死にました。個人の登録証持ってないのでこっちに来ました」


「ああ……そっか、辛かったね」


 残念そうに微笑みを向けられて、リアは「うん」と小声で頷く。


「こっちでも確認はとれるから貸してくれる?」


 持っていた登録証をお兄さんが預かっていき、奥で何やら照合した後間違いないと戻ってくる。返してもらい、バックの中身を見せて終わりだった。登録証のおかげか、一般人より短かった。

 こっちでも、と言っていたということはおじさんの方でも確認できたんじゃないかと思う。仕事サボっているぞあのおじさん。


「お兄さん仕事押し付けられてません? 私から働けって言ってきましょうか」


「あはは、ありがとう、けど大丈夫だよ。彼はああ見えてとても強いからね。乱暴な人もたまにいるから、彼が暇な方が僕も安心して仕事ができるんだ」


「……そうですか」


 上手く使われているような気がしつつも、本人がそう言うのならリアがこれ以上できることはない。バックからレティアナに貰った飴を取り出してお兄さんに渡す。


「くれるの? ありがとう。じゃあ手続きはこれで終わりだから入っていいよ。ようこそ、サライドへ」

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