トーク集3.聖女と副団長
とある騎士の追随記録5の通信内容。
二人の関係性が書きたくて。
聖女救助後、復活したシスティアと副団長との通信内容。
「ナダロー、わたくしを湖へ連れて行くよう命じてくださいませ」
『君は突然……体は大丈夫なのか? 衰弱が酷いと聞いていたが』
「そのようなことはどうだって良いのです。時間がないのですよ。このままでは村は瘴気に沈められてしまいます。早く対処しなければなりません。わたくしが最も適役です」
『何を、知っているんだ。まずは説明してくれ。本来は我々が対処しなければならない務めのようだが、難しいようであれば君にも協力』
「あなたにお話しする時間が惜しいのです。わたくしの言うことが信じられないのですか!」
『……分かった。説明は道中に聞こう。それでいいな?』
「ええ、構いません」
騎士と二人乗る馬上で再び通信術具を渡されたシスティアは説明を始める。
「湖の中に、瘴気を増幅させる何かがあるようですの」
『……続けてくれ』
「はっきりとは分かりません。それは波……いえ、鼓動のように脈打つのを感じていたのですが、それが激しくなっているのです。おそらく、わたくしはあの地下にあった陣で、ディーテリンダルレイクに繋がる河の瘴気をせき止める役割だったのでしょう。湖の中の何かにこれ以上瘴気の力が加わらないように、わたくしの魔力が使われて、浄化されていたはず」
『何の、ために』
「その時が来たら、ディーテ村に証拠を残さないよう沈めてしまうためでしょうね。わたくしの魔力が尽くか、あるいはわたくしが助け出され地下の陣から外されれば、やがて瘴気は湖に辿り着くでしょう」
『どちらに転んでも、湖の瘴気を溢れさせ、ディーテ村を、村人を殺すつもりか。いやらしく用意周到だな。村人の避難は進めているが、間に合うか……治癒術と回復術が使える者をそちらに向かわせている。使ってくれ』
「ありがたく。……それで終わらせられると、嘗めていたのでしょうけれど……わたくしがいるのですから、必ず間に合わせますわ」
システィアは一度言葉を切り、迷いを瞳に湛える。だが、一呼吸置くと再び話し始めた。
「あの子は最後に話していました。レティアナは王の為に連れて行く、と」
『王? 他国の間者だとでもいうのか……それか、魔王か』
「それも明確に否定はしていませんでしたが、世界を統べる王、と」
『こそこそと卑小な輩が世界か、仰々しく出たものだ。ふざけたことを』
「わたくしが囚われた当初は、あの子以外にも数人の協力者がいたのです。サルカの従者達ではない、外の者でした。何故、最後にわたくしの前に現れたのがあの子だけだったのかは、分かりません」
『我々の手にも、代表の関係者とその少女以外には捕らえられていない。規模のわりに異常だ。村のほぼ全域を調べたというのに』
「一枚岩ではないのかしら……ともかく、そちらはナダローにお任せいたします。詳しいお話しは、また後でいたします。わたくし、騎士団の方にお力を分けていただいたんですもの、十分に働いてみせますわ。今はとても、元気いっぱいですから!」
『……そうか。君の力に頼りきりで、申し訳ない。……助けに応えられなかったことも』
「あら、あなたがわたくしに謝るなんて、どうしたのかしら。何か、ご自分の選択に負い目でも感じてらっしゃるの?」
『冗談はよせ。私は自分の選択に後悔は持たない。……がタイモンには悪いと思っている』
「……そう。思い違いをしているようですけれど、わたくし自身は助けを乞うた覚えはございませんわ。これ以上の犠牲を出す前に止めてほしかったのです。それについては応えてくださったではありませんか。わたくしは聖職者としてできることをしているのですから、あなたも遠慮せずどんどんあなたにしかできないことをしてくださいまし。たとえずうっと放っておかれたとしても、わたくしは怒ったりしません」
『君は……意地が悪いな』
「聖女と呼ばれるわたくしにそのようなことをおっしゃるの? なんて、ね……あなたが、わたくし達に気を遣ってくれていたことは分かっておりますよ。不器用なあなたを知っていますもの。負い目など、感じなくていいのです」
『……君は、本当に……意地が悪い』
「ふふ、知っています」
悲し気に微笑んだ聖女は、一度瞑目し、真っ赤な湖に眼差しを向けた。瞳に灯るのは、闇を越えた、強い光であった。




