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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
一章 生首とあまのじゃくと旅のはじまり
23/122

とある騎士の追随記録1

※注意 主人公が替わります※

ダンジョンの外での出来事について、とある騎士の視点で物語が進みます。


リアと騎士さんのニアミスが書きたくて、ついでに村でどんなことがあったかも書いてみたら予定以上に長くなってしまいました。全6話。実際ニアミスは最後の最後に。

文章はかため。キャラクター、固有名詞多めです。こちらも読んでいただけたら幸いです。

 アウレファビアの聖女が不治の病を患って、一年は経っただろう。表舞台から姿を消した彼女の死亡説が話題に挙がる頻度も減り、王都から近い街でさえ、ごく稀に彼女の聖女たる所以を語る程度。

 あれほど多くの人々を癒し、国中から愛された女性でも、たった一年で人々の記憶からは薄れていく無常さを感じ、そして自身もそういった中のひとりであったことを実感させられた。

 神に遣わされた光の化身。

 アウレファビアを救いたもう癒しの女神。

 等々。

 よく耳にした彼女を表す文句を思い出しながら、アウレファビア王国直属騎士団、弌刻に配属されて五年目になるジルニア・ラウカヴォフは弌刻副団長からの説明を聞いていた。


「……以上が、ディーテ村の定期監査報告だ。装飾品は複数の港交村から仕入れているもので、入手ルートは多岐にわたり特定できず。排水溝から一月前のシード街の事件で使用された魔薬に似た成分が見つかったことについては未だ検証中だ。現時点でユーグスの関与の決定打となるものはない」


 ディーテ村は、王都から東方に馬車で向かうと半日もかからず到着する距離にあり、迷わず、必ず辿り着ける場所でもある。何故なら、王都からでも視認できるほど高く輝く目印があるからだ。

 黄金塔ゼスティーヴァといえば、冒険者に知らぬ者はいない最も有名なダンジョンである。大地を穿つ杭のようにも、空へ踏み入る梯子のようにも例えられる、人の手では建設不可能の長大な塔だった。

 そのゼスティーヴァの管理をギルドから任されているのが、近隣の港交村の代表からなる連立議会で、ダンジョン挑戦者の支援や塔の監視等を行っている。その中でディーテ村はゼスティーヴァに最も近く、ギルドとの連携やダンジョンの異状報告など実質的な管理はこの村の仕事だった。

 また、ディーテ村はアウレファビアの聖女の出生地であり、療養地である。だからこそ、ジルニアは人々の記憶から徐々に消え行く聖女に思いを馳せていた。


「さて、ここからが本題だ。今朝、重大な報告が入った。君たちを集めたのは少数精鋭で、隠密に動く必要があったからだ」


 ジルニアは、副団長へと意識を向ける。

 王国の防衛を揺るがす輩の取り締まりは彼らの本分である。

 ユーグスという名の、数年前から破壊活動や非人道的事件に関わりを見せ始めた組織は、その広範囲的な活動のわりに尻尾さえ掴ませず、未だに全貌は明らかになっていない。その有力な情報が得られたのかとジルニアは意気込んだが、思わぬ名前が出たことに首を傾げることになる。


「システィア・カランという名より、アウレファビアの聖女といった方が分かるだろう。その、聖女の言伝てがあるという男が現れた。姿を見せなくなってその名を騙る輩が現れることに関しては珍しいことでもないが」


 そこで一度副団長は言葉を止め、この場にいる団員全員の顔を見渡した。

 弌刻の中でも、騎士の名を捨てることを許されない者達が集まっている。契約魔術によりアウレファビアの為に命を捧げ、骨を埋めることを誓った者。不利益になる情報を得たとしてもアウレファビアへの裏切りはあり得ない者達だ。つまり、国の基盤に関わる重要機密案件である。


「聖女は膨大な魔力を代償に、高位聖職者数十人にも及ぶ癒しの魔術のみ扱える。これは公に知れ渡っている情報だ。だが、影響力のある人物だからこそ秘匿されている魔術がある。聖女はメイトル、という魔術の使用が可能だ……それも、人を媒体とすることができるほどのものだ」


 驚きにざわつく者と、疑問符を顔に浮かべる者は半々といったところだ。前者と後者の境には年齢があった。


 メイトルとは、虫やせいぜい小動物を媒体として動きを操り、離れた地へ短い言葉を届ける魔術である。

 現在はメイトルより遥かに遠くへ声を届けることができる優秀な通信術具が市井にも広く流通している。そのため、若い魔術師が敢えて複数属性が絡む複雑なメイトルを覚える必要もなく、知らなくても当然といえよう。

 つまり、わざわざメイトルを使用する事態はほとんどないと言っていい。例えば、それを使うしかない緊急事態、といった場合。

 秘匿された理由にはすぐに思い当たる。聖女のメイトルは人をも操れる魔術で、人心操作と同様に危険視されたからだろう。

 人心操作の魔術は原則的に禁じられているもので、罪人に偽りのない告白をさせる際に、認可証を持つ複数の魔術師が、さらに使用の許可を得て執り行われる操作魔術のみ許される。

 無論聖女といえど、人に対しても有効な魔術であるメイトルの禁止とともに、悪用の危険性を踏まえて隠されたものなのだろう。

 そして、ここで聖女のみが使えるメイトルの話が出たということは、


「男はシスティア・カランと名乗り、自らメイトルで言伝てを伝えに来たと言ったのだ。一般に知られていないシスティア・カランという聖女の名。聖女のみが人をも媒体にできる強力なメイトル。本人である証明はすでに十分だが、加えて、その言伝ての内容が看過できないものだった。ダンジョンに関わるものだが、ギルドではなく、我々が動く必要がある」


 通常、ダンジョンや冒険者関連の案件はギルドが担い、王国の治安維持や国土の守衛等は騎士団の仕事、と住み分けされている。基本的に爵位のある者しかなれぬ騎士と、瘴気に耐性があるだけの野蛮な冒険者がかかわり合うことなどはほとんどない。せいぜい年にあるかないかの大規模な討伐任務程度で、心理的にお互い毛嫌いしている者も多いだろう。

 しかし今回は、治安や多くの人々の人身に関わる事件が起こったのだと暗に示した。


「……経緯は理解したな? では、内容について話そう」


 そうして語られたのは、俄かには信じられないような話だった。


 男は、システィア・カランと面識がある副団長を指名し、端から見れば操られていると微塵も思わせず動き、語りだした。

 システィア・カランは現在、ディーテ村代表の指示でどこかの地下に拘束され、直接伝えることが叶わぬ事情を話した。

 この男はディーテ村の代表の企みに協力している者で、姿を消したことがばれ自分が疑われることも時間の問題だということ。そして、こうまでして伝えにきた企みというのが、ダンジョンへ挑む者の体を利用し、どうやら人工的に瘴気を生み出す実験をしているということだった。

 囚われの状態で探りを入れた結果で、証明することはできないが、これ以上の犠牲者が出る前になんとか助けてほしい、そう言って男は意識を失い、鑑定の結果他者の魔術操作の残留がみられたという。強い負荷がかかったせいか男の意識は今もまだ戻っていない。


「瘴気を生み出す実験……?」


 騎士の一人が思わずこぼした呟きに、副団長は頷いた。


「ああ、聖女はこうも言っていた。裏で手引きをしている存在が必ずいるはずだと。それほどの知識や技術、そして理由すら、ディーテ村は有していない、と。……確証はないが、それがユーグスだとして、今までの支離滅裂に思える行動の理由がその実験であるなら、彼らの目的はただの破壊活動に留まらない」


 副団長は苦々しい表情で目を伏せた。

 さらに副団長が続けた話によると、ゼスティーヴァは元々生還率の低いダンジョンではあったようだが、以前は低層で諦めて戻ってくる者も少数いたとのこと。しかし急ぎギルドへ調査したところによると、近年一年ほどは生還報告が全くのゼロで、おそらくその頃からの関与が疑われた。


「ダンジョン攻略は死さえも自己責任、難攻不落の謳い文句を隠れ蓑に、どれだけの挑戦者が犠牲になったか計り知れない。あるいは、他のダンジョンでも同様のことが行われているとしたら……由々しき事態だ」


 王都の目と鼻の先で、これほど長期にわたる悪事を見過ごしていたのなら、王国の人々を守るべき騎士の名折れだ。

 早急に悪事を暴き、汚名を返上しなければならないと、決意を固めた。




*****




 ジルニアは鉱糸帷子の上に魔防がかけられた潜入用の私服で身を包む。腰のベルトには銀鋼製の折り畳み式短剣を潜ませ、即座に取り出せる位置に調整。長めのジャケットを手に取り、袖を通しながら更衣室から出た。

 通路には冒険者風の防具を着込んだルーイ・サヴェラスが、ジルニアに気付き、寄りかかっていた壁から背を離した。


「やあ、なんだか、いつもとあまり変わらないね?」


 人懐こそうな笑顔でジルニアに親しげに話しかけるルーイは、サヴェラス爵の三男で、ジルニアの一年後輩になる。

 歳が近いこともあり、弌刻でよく組まされる二人は、砕けた態度をとれる友人と言える間柄だった。


「俺はただの観光客だからな。それより……ルーイは正直言って、似合ってないな。駆け出しの冒険者。騙されやすそうなルーキーってところだ」


「身も蓋もないね。着られているとは思っているよ。武骨な鎧しかすぐに用意できなかったようでさ、これで我慢してと言われたんだ。父親から譲り受けた鎧って設定らしい。ギルドに協力を仰ぎに行くついでに、サライドの街の中古店で武器も揃える予定」


 一般人に紛れることはあっても、冒険者のふりをすることなどなきに等しい。鎧を着るのならば、防御力が高く、存在を知らしめる騎士団の漆黒のものだ。大体は騎士団の名でもって鎮圧する事態が多く、こういった真逆の任務はイレギュラー中のイレギュラーだった。


「武器すらないとは、騎士団の剣でも持っていくか? うーんしかし、野蛮な役は俺の方が向いていると思うんだが。少なくともその鎧は俺の方が着こなせるな。ルーイは、そうだな、平民に話題の観光地に興味本位で訪れた貴族の箱入り息子、とかどうだ?」


「どうだ、と言われても。魅力的な役ではないよね。あと、僕ら冒険者は最後まで動けないから君がやるのは駄目だよ。君が動けないんじゃ、皆が困る」


「ははっ、なんでだよ」


 雑談に笑い、並んで歩き出す。

 任務は既に与えられている。タイムリミットは遅くとも明日の夕刻。ルーイ達冒険者役がディーテ村の、おそらく代表の屋敷に招かれる日。

 ギルドには通常の手続きに紛れ込ませダンジョンに挑戦者が向かうと先に届け出ているので、遅くとも明朝には村に連絡がいくはずだ。

 ジルニアは定期便の乗合馬車で先にディーテ村に向かい、潜入員からの情報を元に調査と、必要であれば対処に務める。

 ルーイ達が屋敷に入り込める前に証拠と聖女の居場所を掴まなければ、彼らも動くことができないのだ。聖女の救出も含めて、時間も情報も少なすぎる任務になる。だが、やり遂げなけなければならない。


「じゃあ、僕はこれで。後から仲間達と行くからよろしく」


 騎士庁舎の出口で、ルーイは足を止めてそう言った。仲間達とは同じ冒険者役の騎士だろう。共に出口まで来たのでてっきり同じ馬車で出発かと思っていた。


「ん? なんだ、わざわざ見送りに来てくれたのか」


「うん、向こうでは話せないだろうからね。気をつけて」


「村で今のルーイを見たらに笑いを堪えきれなかっただろうから助かったよ。君こそ渦中に飛び込むんだ、助けが必要なら白馬の王子のように迎えに行ってやるから、俺を呼べよ」


「いちいちひどいなぁ。それ、僕じゃなくて好きな子に言う台詞じゃない? 殿下は馬に乗らないし、僕も一応騎士なんだけど。ともかく、お互いに気をつけよう」


 律儀な友人に軽口を叩いて、騎士庁舎から出ていく。


 乗合馬車の停留所まで歩くと、ベンチには大柄な男性が一人立っており、ジルニアに気付き振り返った。


「どうもこんにちは。あなたもひとりで旅行ですか?」


「……人の目がない内は普通に話してくれ、アホらしく思えてくる」


 他人行儀なジルニアに呆れた様子のリードは、同じく弌刻の先輩で今回の任務につく。

 通信術具で連携はとるが、基本的に単独、あるいはペアで怪しまれない様情報収集と対処をするので、初対面の(てい)である。

 ジルニアは肩を竦めてみせ、周囲に人がいないことを確認したうえで笑う。


「どこで見られているか分かりませんから念のためですよ。ところで、乗合は初めてですか?」


「……何故分かった」


「そわそわしてますもん。も少しリラックスしないと違和感があります。旅行なんですから緊張してたらおかしいですって」


「む、分かった」


 しばらくして大型の馬車が騒音をたてながら現れ、停留所前で止まった。細い鋼鉄製の柵と厚い皮で覆われた馬車の入り口には屈強な男が立ちジルニア達を見下ろしている。


「どこまでだ?」


「ディーテ村まで。こっちのお兄さんも同じらしいよ」


「ひとり七千五百だ」


 お金を払い乗り込むと、囲いのような席の半分以上が埋まっていた。当然ながら隣同士に座り、リードに「晴れて良かったですね」なんて雑談を振ったが、重々しく頷いただけだったので話し掛けるのはやめた。

 反対側に座る女性三人組も目的地が同じようで、途中からは彼女達と話題に花を咲かす。なんでも、訪れるのは二回目らしくしきりに案内を提案された。


「じゃあジルさんは傷心旅行なのね。こんな格好いい人を振るなんてみる目ないんだわ」


「僕が悪かったんだよ……仕事ばかりで構ってやれなかったから」


「私なら文句なんて言わず支えてあげるのになあ。じゃあ知ってる? ディーテ村に現れる恋の呪い(まじな)師のこと。私達その噂の人を探しにきたのもあるのよ。この子が彼と最近上手くいってないからって」


 二の腕をぐいと引っ張られて、端に座っていたおっとりした雰囲気の女性が「もう」と一度頬を膨らまし、ジルニアに困った笑顔を向ける。


「お恥ずかしいことに、彼とは最近喧嘩ばかりでして……気晴らしに来たのと、その呪い師が売ってる恋の御守りが欲しいんです」


「へえ、その話気になるなぁ。僕も新しい恋を探したいし、詳しく教えてくれない?」


 彼女達の話しによると、呪い師はローブを着た小柄な老婆の姿で、夕暮れの時刻決まった場所に露店を出すという。ただ毎日というわけではなく、旅行中に会えるかは分からないので探しにきたということらしい。

 人から聞いた噂だけど、という前置きをつけてから、その老婆から購入した御守りで想い人と結婚できたとか、呪い(まじな)どおりにしたら運命の人と出会えたとか、その内、姿を見掛けるだけで幸せになれるといった話にまで発展した。


 午後一番に出発した馬車は、まだ夕陽に染まる前の村へと着く。おすすめの宿屋を教えてもらい、三人の女性達とはそこで別れた。


「よく次から次に嘘が出るものだな。何が傷心旅行だ。お前に女の影なんて見たことがない」


「こんな軽装で、男のひとり旅なんて理由がないとおかしいじゃないですか。自然でいるために必要なことです……とか言ってモテない私のちょっとした見栄なんで、許してください」


 いつの間にか近くにいたリードに笑って誤魔化すと、ふんと鼻をならしただけで返事もせず去って行った。ここからは別々に行動することになっている。リードは港の方ですでに着いている仲間と合流し、ジルニアは村の中央部――ディーテ村代表の屋敷近辺を単独で動く。決行時の主戦力部隊が各人息を潜めて調査をしているはずだ。

 



 まず、ディーテ村に足を踏み入れた感想は、普通、だった。

 簡素な家屋が建ち並び、行き交う人々も特筆する珍しさもなく普遍的な態度で、強いて言えば、見馴れぬ訪問者に対しても親切、といったくらい。観光を主としているので異邦人に寛容なのだろう。


 だが、行き交う人々の間を縫い、しばらく進むと村の様子は突如変化した。

 統一感はないが、カラフルで芸術的とも言える建物は見る者の目を楽しませる。同時に、大通りに構えた店や露店で、そしてそれに足を止める人々で道は埋まってくる。港が近く、商業化に対応した村人達は少しでも購買意欲を向上させようと工夫を凝らし、活気に溢れていた。


 少し人通りの少ない路地に逸れ、露店で購入した焼き菓子を頬張りつつふと視線を上にあげると、堂々と佇む黄金塔の手前に、先が尖った赤い煙突のようなものが見えた。


「なんだ、あれ」


「代表の屋敷にあるディーテ村のシンボルらしいですよ。常識的な感性から逸脱した、とても良いセンスをしていますよね」


 ジルニアが歩きながら思わず呟いた独り言に、静かに近づいてきていた猫背の男性が自然な様子で並び、小声で返事をした。


「一体何を象徴としているのか分からないな。ゼスティーヴァを模倣しているわけでもないようだし……うーん、長ニンジン?」


「分かりかねますが、例えが田舎臭いです。そんなくだらないことより、今朝までの動きがこちらに」


 嫌味は潜める気のない潜入員のロクから、中に報告書を丸めて収めるペン状の筒を受け取る。ジルニアは壁を背に預け、ポケットの中で開封した紙を取り出して一瞥し、くしゃっと握り潰した。

 その短い間にロクの姿はもうない。他の騎士にも同様にそれぞれの情報を渡しに行くのだ。


 聖女の病状は悪化の一途を辿り、回復の見込みなく面会謝絶の状態、というのがディーテ村の代表であり聖女システィア・カランの後夫である、サルカ・カランの言い分であった。

 システィアには前夫との間に娘がいたが、前夫が事故で亡くなりまた自身も不治の病を患ったため、生活の面倒を見てもらい、療養に専念するためにサルカの第二婦人として婚儀を結んだという。現在は有用な治療法なく、多くの他港から情報を集めるため、また村を活気づけ病床の彼女に元気を与えるために積極的に観光地として発展させたのがサルカだった。

 アウレファビアの多くの人々を救ってきた聖女へと尽くすのは、彼女の生まれ育った地の代表として当然のことだとサルカ・カランが語った話は、比較的知られている感動話だ。


 ロクから受け取った報告書には、代表の屋敷の大まかな見取り図、また(かよ)いで働く従者の人数と、自宅及び出入りのある家屋が記載されていた。代表の家族や住み込みの従者、それ以外の例えば私兵や傭兵などはさすがに明確な人数は分からなかったようだが、目星をつけて短時間でこれだけ集められただけでも僥倖だろう。

 さらにサルカ・カランは一週間前に冒険者を出迎え、ダンジョンへと見送るために姿を現しただけでその後は動きは確認されていないとあった。

 やはり挑戦者でなければ直接接触はできないようだ。


 騎士団の名で強引に突入することも最悪不可能ではないが、誇りある王国騎士であるがゆえに権威を笠に着た愚直な行為は許されない。正当と認められる理由が必要となるのだ。

 特に現時点で犯罪集団でもなく、非人道的な実験の確証もないならなおさら。そんな世間的には善良である代表の家に乗り込むには国王の名の下の許可が必要となり、そもそも証拠不足の本件に許可が下りるのかさえ不明だ。その間にでも証拠隠滅されればそれこそ本末転倒となる。

 実質、聖女のメイトルでの報告だけで今回の任務を課した副団長の命令は、果たして英断となるのか、はたまた騎士団の名がこき下ろされる材料となるのか、ジルニア達の働きに全てがかかっていた。

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