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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
一章 生首とあまのじゃくと旅のはじまり
14/122

14.絶対に許しません

突然のシリアス入ります。長め。

「やった、水場ですよ! 水果梨があるかもです!」


 勇んで歩みを早めると、大人一人くらいの高さの崖とも言えない段差の下に、砂利が沢山ある小川に出た。小川には下りず、川沿いに探していると緑と茶色の間に赤い実が見えた。

 背の高い草と地面から飛び出た木の根が多くて歩きにくく、転ばないように気を付けて進み、やっと赤い実の前に辿り着いた。

 小川の方に斜めに飛び出ている樹木に上り、赤々と美味しそうな水果梨のひと房に手を伸ばしてもぎ取る。

 「うぉー」と何日かぶりのまともな食べ物の喜びを地味に噛みしめていると、ふと、その赤い実の横の枝に目がいった。枝にはロープのようなものが括り付けられており、それが下にのびている。その先を辿っていくと、ロープの輪を握って木の根元に立っているあどけなさの残る少女と目が合った。


「……えらい場面に遭遇してしまった」


「誰?」


 枝にロープをかけて、それを今にも自分の首にかけようとしているなんて、これからの行動は一つしか考えられない。リアは動くに動けず、片足を木の幹にかけ片手に水果梨を握っている間抜けな恰好で少女を観察する。

 少女は透き通るような色白の肌に輝く銀髪を持ち、深い紺色の瞳をぱちくりと見開いてリアを見上げていた。ツンとした印象の美少女は、どこか陰気で不景気な顔をしていて、そんな雰囲気の残念美少女を最近見たような気がして、リアは記憶を辿る。


「あ、代表の第二夫人の子」


 にっくき観光村で歓待を受けた時に、もてなしてくれた少女だった。村の代表と名乗った、顔に笑顔が張り付いたような壮年の男が、病弱なもう一人の妻との娘だと紹介していた。その時も無表情で陰気な感じだったが、今はそれに磨きがかかって暗かった。今からしようとしていることを考えれば当然かもしれないが。


「あなたは……うちの装備がとても似合わなかった人ね」


「心外な覚え方されてるぅ」


 それにまさか覚えられているとは思わなかった。確かに「似合わない」だの「着ないほうがいい」だのリアだけに聞こえる声量でちょいちょい貶められていた覚えがある。


「……生きて……いたのね」


 含みのある言い方に、むっとして、リアはとりあえずじりじりと後退し木から降りた。

 左腕にトリムを抱え、右手に水果梨を握ったまま腰にあて、少女の前に来てふんと見下す。


「おかげさまで。それで、第二夫人の子はここで何をするつもりです?」


 少女はトリムを一瞬見てぎょっとしたが、すぐに視線を逸らした。それだけのリアクションで終わり、何も言わない少女にリアは違和感を覚えた。


「………………………………償いよ」


 長い無言の後、少女はぽつりとそれだけ言った。

 リアはその回答に満足せず、じっと見つめ続けて次の言葉を待つ。トリムは我関せずといった感じで何も言わず目を閉じた。

 少女は一方的な視線に耐えきれず、やがて唇をかみしめてリアを見上げた。紺色の瞳が揺れて、ロープを握る両手が僅かに震えている。意を決して話し始めた少女の顔は青白く、美少女が台無しだなとリアは思っていた。


「あなたには……あなた方には、許されないことをした。長く、多くの人達を騙して命を奪う真似をしてきた。その報いがやっと来たのよ。……来たのに、私は子供だという理由で、恩赦を与えられた。知っていて、黙っていたのに。だから、私は…………償いにきたの」


 抽象的な少女の呟きに、リアは少女の行動の目的が分かった。

 この少女は、全て分かってやっていたのだ。村を上げてもてなしている風を装い、陥れる装備を与え、時間差で異常を来す食事を盛り、冒険者が確実に死ぬ道へと導くことをやっているのだと。分かっていたのに、何も言わず、何も抵抗せず、そして罪悪感に苦しめられていたのだろう。

 そして、リア達がダンジョンに入った後に何かしらあり、きっと大人達は捕らえられ、少女は子供だからと見逃された。

 もしかしたら、王都の騎士があんなに早くダンジョンの下に来ていたのは、その観光村の謀略が日の元に晒されたからかもしれない。


 罰されたかったのに罰されなかった少女は、自分で自分を罰しに来たのだ。


 リアはそこまで理解し、同時に怒りが湧いた。


「はあ、それで首吊りですか。全く非生産的な償いですね。というか、言葉の意味分かってます? そういうの、償いじゃなくて、自己満足って言うんですよ。ただ勝手にひとりで死ぬだけじゃないですか」


 口にした言葉は、自分でも驚くほど冷たいものだった。

 しかし、驚いたのも一瞬ですぐに怒りがリアの胸中を埋め尽くした。


 リアの知らないところで事件は解決してしまった遣る瀬無さとか、子供だからという理由で罪人を見逃す甘さとか、そういうやり場のない怒りもあった。だが、真っ先に矛先が向いたのは、少女の自責の念がとても分かり易いことだった。


 少女が、子供が、幼くもひとりの人として自分の罪を認めて償いたいという殊勝な気持ちが、リアには何故だか許せなかった。


 少女は驚いた面持ちで固まり、僅かに口を開き、結局何も言えずに俯いた。そしてリアに言い返すためではなく、自分に言い聞かせるようにか細く声を漏らした。


「自己満足、なんかじゃ……」


「ない、と? まあみんな死んじゃったから、あなたがそう言い張れば、そうなのかもしれないですね」


「……いいえ、……生き残ったあなたがそう言うなら、これは、自己満足だわ。じゃあ、被害者の……あなたの言う通りに償いをさせて」


 あっけなくリアの言い分を認めた少女は、辛そうに、縋るようにリアを見上げた。


 悔やんで、責めて、おそらくやっと選んだ償いの方法を自己満足だと否定されて、それでも少女は酷い言いがかりに反抗しなかった。

 本当に償いたいと思っている。

 誰に告げるでもなく、ひとりで深い森の中で命を断とうとしていた少女の気持ちは、火を見るより明らかだった。


 それが、気に食わなかった。


「どうして私がわざわざあなたのために考えてあげないといけないんです。こっちはやっと生還して、生きてる喜びを噛みしめていたのに、不景気な子供の顔見せられて、とても不愉快なんですよ。そもそも、あなたには償う気なんてないんでしょ。自分が楽になりたいんでしょ? 責められたくなくて、逃げてきたんでしょ?」


 リアは吐き捨てるように言い、怒りと恨みを込めて少女を睨みつけた。

 その瞳の中には、そうあってほしいという願いの色も含まれていた。


「そんなこと、ないわ。……誰も私を責めない。私には罪がないと言う。……そんなはずはない。私は、私の罪から逃げたくない。……どうしたらいいか分からないの。きっと父さまは命をもって償うことになる。なら、娘である私もそうあるべきだと、思ったの」


 震えるか細い声を、リアはぐっと堪えて聞く。偽りを探そうと必死だったが、リアの蔑みの言葉に少女は揺るがなかった。揺るがすことができなかった。


 逃げなければと、そう思った。


 リアは、少女の想いを、目の前の真実を否定できないことを悟り、目を逸らす。

 逃げなければ、リアのこの気持ちが――――恨む気持ちが崩れてしまう。

 そんなのは耐えられない。


「……じゃあ、そうすれば? あなたが死んだところで、あなた方に殺された人達は、あなた方に大切な人が殺されて……残された人達には、何の償いにもならないけどね。……さよなら」


 捨て台詞を吐いて踵を返し立ち去ろうとする。

 このまま放っておいて、少女がどうなろうが、知りたくも考えたくもない。それなのに、


「待って」


 呼び止められて、リアの足は止まった。

 一刻も早くこの場から逃れたいのに、気持ちに反して、少女の言葉に従ってしまった。


「償いにならないなら、どうしたらいいの? どうしたら…………許して、くれるの?」


 消え入りそうな声を拾い、リアは振り返った。

 許して、というその言葉にリアは再び熱が生まれるのを感じる。

 逆に少女は自分の言ったことに驚いているようだった。

 無意識の本心が漏れ出てしまったことに、戸惑い、立ち竦んでいた。


「許してだなんて、よく言えますね。やっぱり、償いたいなんて嘘じゃないですか。自分が許されたいだけじゃないですか。そんな身勝手なこと、自分で考えてくださいよ」


 水を得た魚のように、リアは責め立てる、が。


 なんで?


 少女の嘘を暴いたはずなのに。形勢逆転したはずなのに。


 なんで……。


 少女は向けられた侮蔑の言葉を受け入れ、真っすぐ見つめ返していた。


 強い風が通り抜け、握っていたロープが少女の手から離れ、木からぶら下がる。何の意味もなくなったそれは、滑稽にくるくると回りながら落ち葉と遊んでいる。


 リアは少女の紺色の瞳から、目が逸らせないでいた。

 逃げようとしたのに、付け入る隙を見つけて糾弾したことを後悔した。

 手遅れだった。

 何故なら、どうすればいいか分からず自責の念に揺れ動いていた少女の想いが、今は固まってしまった。

 彼女は自分で自分の答えに気づいたのだ。


 罪があると認めていた。その罪に対して真摯に向き合った。そして償いが必要だと思った。

 どうして必要だったのか、――――許されたいと思ったからだ。


 死んだ者に許しを乞うことなどできない。ならば、誰に、何に対して許してもらいたかったのか。

 ダンジョンに臨み、死んでいるはずのリアがこの場に現れたのは完全なる偶然だ。少女の償いは、償いの為の行為は、誰に向けてのものだったのか、リアが知ることはない。


 しかし無意識であっただろう償いの裏にある自分自身の想いを直視できて、少女は紺色の瞳に決意した光を宿していた。

 少女は泣きそうな顔で、けれど絶対に涙は零さない意志を宿して、深々と頭を下げた。


「ごめんなさい」


 少女の小さな肩が震えている。


「私は、許してほしい。許してほしくて、償うの。身勝手で、浅ましい、この想いのために、あなたを巻き込んでしまってごめんなさい。黙っていて、あなたの大切な人達を奪って、本当に、本当にごめんなさい」


 大人だとか子供だとか関係ない。許してほしい気持ちがあろうとも、嘘偽りのない、誠意しか感じられない謝罪だった。


「…………そうですか」


 そう呟くと同時に熱が冷めていく。


 少女の償いの気持ちが許せなかった一番の理由は、リアの気持ちの捌け口が消えてしまうことだった。

 村人はみな悪で、多くの人を陥れて嘲笑っている外道である、そう思っていたかった。彼らの事情なんて、気持ちなんて、クズ以外の何ものでもなく、復讐されて当然の人々であるはずだった。そうでないといけなかった。


 だが、駄目だった。

 どうやったって、リアの捻じ曲げたい望みは、真実には叶わなかった。認めて、諦めるしかない。リアが憎んで作り上げた村人像はここにはない。少女は違う。心から悔いて謝っている。


「ま、許しませんけど」


 その言葉で、強がるしかなかった。

 顔を上げた少女は不安そうにリアを見た。


「何か、するつもりなの? ……まさか、塔を落としたのは、あなた?」


 リアは肯定も否定もせず、肩を竦めてみせた。

 何かするつもりだった。その通りだ。真実を知るまでは、その通りだった。


「何もできませんよ。せっかく、復讐しようと思っていたのに、先に捕まってしまったんじゃあどうしようもないです。国に赦された残っている村人達に手を出したら、今度は私が大罪人になってしまいます。憎い人達のせいで私がさらに不幸を被るのは勘弁ですもん。悔しいですが、恨むしかないですね」


 はぁ、とこれ見よがしに溜息を吐いた。

 事実、これほど騎士団の目が近い状態で、裁かれた後の村に手を出すなんて、できるか否かはともかく、デメリットが大きすぎた。トリムとの契約に支障をきたすことは明らかだし、復讐についてはリアの気晴らしの意味合いしかない。それも、ダンジョン内にいたときに生き延びるための活力で沸々と考えていたことであるし、外に出て彼女に出会ったせいで、話してしまったせいで、完全に諦めていた。


「待って、私には罪があるけれど、他のみんなは知らないの」


 しかし、リアの恨むという発言を、優しい少女は気にしてしまう。

 憎まれ、恨まれるべきは、捕まった者達と少女だけで、村人全員に非はないのだと主張し、リアの気持ちを否定してしまった。


 ああ、なんて純粋で、誠実な少女なのだろうか。

 真実を正しく見て、正しい判断を下せる。正直で清廉で、正しい人間だ。


――――気持ち悪い。


 リアの表情が消える。


「…………知りませんよ」


 初めのような怒りは生まれなかった。ただただ冷えていく思考で、思ったままの感情を吐き出した。


「あなた方の、誰に罪があって、誰に罪がないか、なんて知りません。代表の娘だろうが、何も知らない村人だろうが、あなた方には等しく報いを受けてもらいたい、償うというならあなた一人だけでは足りない、そう思っています」


 理解してもらおうなどとは思わない。

 その通りに、少女は理解に苦しんでいる表情で問う。


「どうして……」


 少女の言い分は認めている。謝り、償いたいという気持ちも受け入れた。また少女のように、謀略に加担したことを知って同じように悔やんでいる者もいるかもしれない。

 しかし、それとこれとは話が別だ。

 リアは償いの気持ちは認めたが、許すつもりなど毛頭なかった。


「私は聖人君子でも断罪人でもありませんからね。事情を知り、背景を考慮して、許そうなどどは微塵も思いません。大切な人達が目の前で失われて、自分の無力を見せつけられて、死を何度も身近に感じて、知らなかったから、で許せるほどお人好しではありませんし、命でもって償うというのなら、あなた一人では足りません。他の村人が償えないというのなら、あなた一人が死んだところで、私の気持ちは晴れません。…………どうせ無理なんだから、恨むしかないじゃないですか。この恨みは、生き残った私だけのものです。とやかく言われる筋合いは、ない」


 理解も肯定も要らない。だから、否定も認めない。


 復讐する場を奪われて、恨むことさえ許されないなんて、あまりにも酷いじゃないか。


 少女の姿が滲んでいる。

 辛そうで、泣きそうで、見ているこっちが謝りたくなるほど少女は想いを殺しているのが分かった。少女は再び頭を下げる。祈るように。


「ごめんなさい」


 やめて。


「……ごめんなさい」


 やめてよ。


 リアは奥歯をぐっと噛みしめて、揺るぎそうになる決意を立て直した。

 許してしまいそうになる自分を、認めてはいけない。


「だからっ! あなた一人では足りないと言ってるんです。あなた一人に謝られたところで、ゼロと同じですよ。私をあなたの気持ちの捌け口に使わないでください」


 リアの裏返った声に、少女はゆっくりと上体を起こした。


「でも……」


 どんなに暴言を放っても、少女は気遣うように見つめてくるだけだ。

 慰められているようなその視線に、リアは耐えきれなくなって下を向いた。

 ぽた、ぽた、と雫が落ちていく。


 どちらも言葉を発することができずに、静かな森の音だけが辺りに響いている。




 一体何をしているんだろう、とリアは右手の赤い実を見ながら思った。


 ……なんでこんな子供に私は構っているんだろう。なんだか疲れてきた。せっかく食べ物を手に入れられているのに、なんで食べれていないんだろう。


 ぐちゃぐちゃになった気持ちを見ないように思考を逸らすと、とても疲れていることに気づいた。

 つい、感情的になってしまったことを後悔した。怒りに任せて幼い子供に噛みついてしまった大人げなさを反省した。トリムの言っていたとおりに、放っておくのが良い選択だったのに、何故話しかけてしまったのだろうかと悔やんだ。


 少女のくせにこれほど成熟した考えができるのがいけない、というより、何故トリムはずっと黙っているのか、止めてくれないトリムのせいではないのか、と責任転嫁を始めた頃だった。


「それなら、私があなたのためにできることはある? 私の命で足りないというのなら、私の一生を懸けてでもゼロと同じ?」


「…………は?」


 突然話を再開した少女についていけず、リアは気の抜けた返事をした。


「生き残った……生きていてくれたあなたに、私が死ぬこと以外に、償えることはある?」


 そんなものはない。

 どうやったって、リアにとっては償いにはならない。

 替わりなどいないのだから。


 少女はリアの八つ当たりの主張を律儀に考え続けていたのだろうか。


 ――――はあ、真面目過ぎる。


 馬鹿らし過ぎて思わず笑ってしまいそうだったので、誤魔化すように言葉を返す。


「あー……まだ、それなら生産性は、ありますね」


「ええ……私にできることなら、なんでもするから」


 付き合ってあげないと、駄目かなぁ、終わらなそうだなぁ。


 リアのほうから自殺は償いにはならないと言ったものの、最終的に自分の気持ちのことなのだから勝手に考えて勝手に折り合いをつけてほしい。

 だが、この話を終わらせるチャンスでもある。逃げるタイミングを失ったリアは、もうなんでもいいと適当に考えながら適当に答える。


 一生を懸けて……? 一生楽して生きれるような報奨金を逃したばかりだな。


「……なら、一生衣食住の面倒を看てほしいものですね」


「分かったわ」


 あ、駄目だ。トリムさんとの契約がある。


「……と言いたいところですが、生憎、今後は予定があるので」


「え」


 そうだ、予定の前に食事だった。早くこれを食べたい。ああ、でもこれだけじゃエネルギーにはならないな。あったかい……胃に優しい感じの……


「……そうですね、とりあえず温かいスープが食べたいです」


「スープ?」


 突拍子もないリアの要望に、真剣に聞いていた少女は乏しい表情に驚きの色を見せた。


「……はい。ずっと、水しか飲んでなかったので、急に食事をとったら胃がびっくりしちゃいますからね。まずはスープ、で、雑炊なんかどうでしょう。慣らして戻った頃に、豪華な肉料理が食べたいです。臭くないやつ」


 せっかく何かしてくれるというのだから、話しつつしばらく食事の面倒を見てくれるのならいいなと思った。嫌なら嫌でいいから、早くリアを解放して水果梨を食べさせてほしい。


「そんなことでいいの?」


 食事を軽視したような発言に、今一番食事をしたいリアは大きく溜息を吐いた。


「そんなこと? ふざけないでくださいよ。食事の重要性、食べ物のありがたみが分からないなんて一番許せません。人は食べて生き、食べて死ぬんです」


「食べて、死ぬ?」


 きょとんと目を丸くした少女に、リアは失言を知る。臭い肉で思い出してしまったのだ。さっさとこの話は終わらせるべきだ。


「いえ、それはいいんです、聞かなかったことにしてください。それで? 第二夫人の子はここでまだ何かをするつもりです?」


 少女はちらと風に揺れているロープを一瞥した後、リアを見つめ、ほんの少しだけ目を細めた。


「何も、しないわ」


 なんだか心を決めた表情だったので、話の終わりを感じ取り、リアは「そうですか」と言ってこの場を去ろうとした。やっと水果梨を食べれるとほっと息をついたら、後ろから呼びかけられる。


「私の名前は、レティアナ。あなたは、何という名前なの?」


「……あなたの名前なんて覚えたくも呼びたくもないんですけど」


 何故今になって名乗り合う必要があるのかと、不信感を露わにジト目で少女を見ると、最初見た時と同一人物と思えないほど、陰気さが消えていた。

 柔らかい銀髪が陽光に輝き、高貴な令嬢にも負けないどきりとする表情をする。普通にしていたら普通に見惚れるくらい可愛らしい美少女だ。


「ええ、構わないわ。知っていてほしかっただけ。そしてあなたの名前を教えてほしいの」


「はあ……リア、です」


 意図は良く分からなかったが、名前を答える程度ならばいいかと簡潔に言った。


「そう……リアね。うちにいらして、リア。――スープを、作るから」

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