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バラバラ欠陥じゃーにー  作者: tomatoma
一章 生首とあまのじゃくと旅のはじまり
11/122

11.決戦!を上から眺めます

 村々がある位置とは反対方向に崩れ落ちたダンジョンの上層は、横倒れの形でその半身を大地に埋もれさせていた。こんな高いところからあれほど重量があるものが落ちた衝撃で、ダンジョンの上層を囲むように、草木のない大地を衝撃波が薙いで辺りを平らにしていた。

 リアは意識がなかったので全く分からないが、すごい爆風だっただろうと嘆息する。


「爆発して落ちたわりに崩れずにキレーに残ってますね。ねじねじも確認できます。腐ってもダンジョンということでしょうか。……おや? なんか虫のようなものが湧いているのが見えます」


「…………人だろう」


 黒い点がわらわら動いているのを見て、思ったままに口に出すと、トリムの訂正が入った。

 人と言われれば確かにそうかもしれない。同一色の黒だったので、葉っぱの裏とかにいそうな極小の虫に見えたのだ。

 皆同じ色といえば、制服に身を包み兜を被った王国の騎士あたりと見当をつける。

 田舎ではあるけれど、王都からそれほど離れていないこのダンジョンは、王都からも先っちょが見えていた。それが爆発して折れてしまったのだから、原因究明に調査へと乗り出したのだろう。


 さすが王都直属、素早い。


 下をなんとなく眺めていると、ダンジョンの折れた部分から黒い点が中に入り込もうとしていた。


「あれ? ダンジョン攻略すると報奨金貰えるはずなんですが、もしかしてこれってその対象にならないのでは? ボスの核ないし」


 ダンジョンは人間にとって害悪であり、攻略が叶うと、国に委託されたギルドからそのパーティに莫大な報奨金が支払われる。

 通常のモンスター討伐クエストと同様に、ギルドへ核の提出を以って完了となるが、攻略後に核の奪い合いや殺し合いを防ぐため、報奨金が大きいクエストやダンジョンに挑む時は、予めギルドに届け出をする必要がある。


 もちろんリアたちのパーティもクエスト受領届けは出していた。報奨金目当てというわけではなく、決まりとしてそうあったからだ。

 だが、リアは貰えるものは貰いたい。仲間とは違って貧しい家庭環境だったのでしょうがないと思う。

 ところが、今回はボスモンスターの核が手元にないのでギルドへ報奨金を貰いに行くための証明が何もできない。核は遥か下だ。


 膝をついたままじりじりと後退して、安全なところで立ち上がった。


「まずいですよ! 急いで下りましょう! 私たちがやりましたって主張して核はもらわなきゃ! ダンジョンの上から来たら信じてもらえるかもしれないです!」


「ふざけたことを言うな。大人数に見つかると対処が面倒だ。諦めろ」


「うえぇぇぇぇそんなご無体なぁ」


 泣きそうな声で取りすがると、軽く溜息を吐かれた。何度目か分からない。


「大金を手に入れたところで、命楔は取り消せんぞ。持っているだけ無駄だ。身の丈に合わない過ぎたものは身を滅ぼすからな」


 トリムは諦めさせるために続けた言葉だったが、それがリアの火に油を注ぐことになる。


「いいえ! 断固として否定しますが、お金はあればあるだけいいんです。別枠も別枠、無駄とかそれこそ何ふざけたこと言ってんですか! 無駄なお金なんて1G足りともありませんから! その額のお金を持っているか否かで、どれだけの時間が節約できてより儲けるために使うことができるか雲泥の差があるんです! お金が身を滅ぼすなんてことはあり得ませんし、それはお金を死なせる使い方をしたその人の責任であり、欲望の末路であり、怠慢の結果です。お金ほど画一的で共通の価値の認識があって働きに対して正当に評価を示すものはありません。あと愛かお金だとどっちをとるかなんてふざけた質問もありますけど、そういうのはまず生活に余裕のある人しか選べない選択肢ですからね。まず健康で文化的な最低限度の生活を軽々と飛び越えた雅な生活をしている自覚のない人種がお金を手放す気もないのに愛とか答えちゃったりするんですよ!」


 これだからお金に困ったことのない人は!


 リアはカッと目を見開いて、許容できない発言に対して力説して否定した。つもりが最後はやけに恨みのこもった具体的な話の逸れ方になった。

 鼻息荒いリアの鬼気迫る主張に、僅かにトリムが怯んだ。


「あぁ、そうだな……訂正しよう。必要性は理解している。ただ今は、それより優先すべきものがあると言っているんだ。道中の金は必要分、稼げばよかろう。先に言ったとおり成功報酬もある」


 冷静に訂正されて、ハッと自分でも熱くなり過ぎていたことに気づいた。リアは視線を逸らしながら、唇をかみしめて堪えた。


「……分かっていただけて幸いです。……でも、核ぅ」


「だからそれは諦めろ。そもそもお前はボスを倒していないから厳密には違うだろう」


「うぐぅ、似たような結果じゃないすか……」


 リアは再び中心の壁際に寄り、とぼとぼと歩き始めた。気持ち俯き加減で。


「その前に、自分がどう見られるか考えてみろ。金は後でどうとでもなる」


「そんな発言してみたい。……まあ、確かに。ぱっと見、私猟奇殺人鬼ですもんね。別に今は悪いことはしてないですけど、それまでの説明をするのが大変かぁ」


「ああ、全員の口を塞ぐには手がかかるからな。目撃者を一人でも残すと後々厄介だ」


「あれ……ほんとに猟奇殺人鬼がいる……?」


 トリムの不穏な発言は聞かなかったことにして、全力で見つからないように気を付けようと心に決めた。


 

 

 景色を眺めたり、たまに下の様子を見たり、ひとりでしりとりしたりしながら歩き続けて、気づくと陽が高い位置にきていた。

 やはり、モンスターがいなくなったとしてもダンジョン内を歩き続けるのとは比べ物にならないほど早く地上につけそうだった。もうあと半分ほどだ。


 突如、爆発するような大きな音がしたと思ったら、下の方が人の声で騒がしくなった。

 高所での風も下りるにつれ収まり、リアは立ったまま下を覗き込む。


 ダンジョンの最上層の尖っていた先が崩れて、中からでろんと何かが溢れ出していた。それは斑な薄緑色の流動体で、深紅の宝石のような巨大な球体を包んでいる。濁りのないその綺麗な赤は、強ければ強いほど球に近く、透き通った、モンスターの核だった。


「……もしや、ボス?」


「死に損なったのか、腐っているから放っておけばいずれ消える。……ほう、溶解力のある体を持っているようだな。グロイムと違って考える頭もあるようだ。自らダンジョンの外へ出るとは捨て身だろうに、復讐のためにでも這いだしてきたのだろう」


 その言葉通り、全貌を現したボスは王国騎士を襲い始める。

 横倒しのダンジョンに入ったためか、当初より人数がうんと少なくなった騎士達。

 彼らは見張りに残された経験の浅い者達じゃないかなとリアが不安に思ったのは一瞬だった。騎士達は統率された動きでボスに対して臨戦態勢をとる。


「見せ場がないまま消えるのは嫌だったんですかね。復讐相手が分かってないのはウケますけど……まあ彼らも王国の騎士さんなんですから、ここは頑張ってもらわないと名が廃りますよね」


 ボスは酸の液体を振り撒き、グロイムとは比較にならないほど素早くその巨体を捩じらせ、攻撃と回避を繰り出す。


 死に損ないであの俊敏さかと驚き、ダンジョン上層へと上がらなくて良かった、とリアは先の発言を反省しつつ胸を撫で下ろしながら、他人事のように様子を眺めていた。


 一定の距離を空けて騎士達がボスをかく乱し、離れた場所から数人が同時に炎の魔術を打ち込んでいる。

 半透明で柔らかそうなのに、予想以上に分厚い流動体で、直接の攻撃は核まで届かないようだったが、焦らずじわじわとボスの力をそぎ落としていた。安定した戦い方だ。


 さすが幼少から訓練されたお貴族様たちは違うなと感心する。

 瘴気への耐性がある者だけでも協力してダンジョンに入れば攻略も早いのにと思う。貴族への反感と、報奨金の配分等々で、粗暴な冒険者から大反対があるから叶うことはないだろうが。


 その間にも確実にボスの体は削られていた。倒されるのも時間の問題だろうなとリアは安堵していた。

 そしてボスは突然動きを止める。ついに限界がきたように見えた。

 とどめを刺す絶好のチャンスに、数人の騎士が勇んで攻撃を繰り出す。その様子から目を離すことができないまま、リアは「まだだ」と言うトリムの声を聞いた。


 刹那、ボスは蛇のように形を変えると、素早くうねりながら三人の騎士を飲み込んだ。

 あっという間だった。

 一人はおそらくレンズ型だった結界を球体に変化させてボスの体から逃げ延びたようだが、残りの二人は薄緑色の中でむちゃくちゃに暴れているのが見えた。

 攻撃よりひとところに留めることを優先して風の魔術にシフトした騎士たちを嘲笑うように、ボスも攻撃より逃げを優先させ動き回り続けた。仲間の騎士が助けるために動きを変えたのを理解しているようだった。グロイムのような本能のままにではなく、いやらしく思考している様子が見て取れる。


 騎士団の装備は王国の随意を集めて作られている最新鋭で、物理、魔術ともに耐性がずば抜けて高いと聞く。

 皮肉なことに、それが飲み込まれた2人を長く苦しめる結果となった。


 やがて動かなくなり、黒い装備が四肢と共に散らばっていく様子を見ながら、リアは努めて軽い口調で言った。


「ボスはまだ元気そうですし、騎士団が全滅したら私達もヤバくないですかね」


「俺達はまだ見つかっていないから、次に狙われるとしても、魔力が集まったあの村だろう。問題はない」


「それは私にとっては都合がいいですね。でも、村人もみんな喰われちゃったら栄養付けちゃって次に狙われちゃったりしませんか」


「ダンジョンのモンスターはダンジョンがなければボスと言えど長くは生きていられまい。たとえ狙われたとしても、あんなに分かり易く核の場所を教えてくれているんだ、グロイムのように苦労はしない」


「じゃあ、ちゃっちゃと先に倒しちゃいませんか。待ってる時間がもったいないですよ」


「俺は、あの騎士団とやらがいる方が面倒なんだが? 一掃してくれるならそれに越したことはない。……それに、あれらが居なくなってからならボスの核も手に入るぞ?」


 ことごとく否定されて、リアはぐうと悔しそうに唸る。トリムが面白がっている様子なのが解せないが、しょうがない。


 どうやら、私なんかがトリムさんを上手く誘導することなんてできないらしい。


「……核は魅力的ですけど、諦めます。正直に言います。村人はざまあみろですけど、騎士団に恨みはないんです。目の前であんなに苦しんで死なれると夢見が悪いんです。私の精神衛生上良くないので、一肌脱いでくれませんか」


 ゆっくりと溶かされて死んでいく激痛と恐怖は想像さえしたくない。他の犠牲者が出て、リアの気持ちをさらに重くする前に早く倒してほしくて、正直にぶちまけてお願いすることにした。

 トリムの見透かすような視線に負けじと見つめ返す。早く、と気持ちが焦る。


「……はっ……どこが正直だ?」


「正直も正直、本心からのお願いですけど」


「その結果どうなるか分かって言ってるんだろう? 夢見が悪い、な」


「ええ、ゆっくり眠れないのは困りますから。結果なんて知りません。まあ……騎士の方とか後がちょっと面倒なのは私が全力で逃げ隠れしますので、先にあのボス倒してください。お願いします」


 倒した後は一言も発しないくらい静かにすることもやぶさかでないことを追加すると、トリムは「捻くれているな」と小さく呟いた。トリムに言われたくないと思ったが、聞こえないふりをして流した。


「いいだろう。リアが自主的に隠伏した方が効率はいい。だが、ここからでは距離がある。動きを止めてやるから、お前が核を狙え」


「やったありが――って私がですか!?」


 喜びかけて、トリムの言葉に驚いて聞き返した。

 トリムに貰った氷剣も気づいたらなくなっていたし、武器も何もない状態で何をどうやって狙えというのだろう。


「お前が倒したいのだから、当然だ。投擲は得意だろう? 確実に狙えよ。外したら許さん。右手を差し出せ」


「えっ? えっ? えっ?」


 当然と言われればそうなのかもしれないと混乱している間に、言われるがまま右手を差し出して、おたおたとトリムとボスと自分の手に視線を移動させた。


『リィーベァタ、リア、ユヴェルフィゲーリュオアナ、サーヅァカ、ロゥグ』


「え、何て?」


 いつも何か唱える時は声が小さすぎて聞き取れなかったが、言葉を聞き取れても意味が全く聞き取れなかった。方言のひどい地方の言葉のような、異国の言語のような、良く分からない聞いたこともないような発音だった。

 そうこうしている内に、氷剣の時と同様に粒子がリアの周囲に生まれ、瞬時に右手の平の上に集結した。小さい結晶がゆっくりとリアの手に落ちて、触れるか触れないかのところで両端が尖ったペンのような細長い棒状に形を変える。


「お、おぉ! つめたっ……くない!」


「集中しろ、準備はいいかいくぞ」


「確認から決行までが早い!」


 叫んだリアは右手の氷ペンを握りしめて、目標を見据えた。

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